212 24階層


 23階層から24階層へ。


 これまでのパターンでは2階層を1組とした、よく似たエリアでの探索、魔獣の難易度も低→高だった。

 そしてそれぞれの階層を隔ているのは回廊だった。


 だけど、今回の24階層は23階層とは違う気がする。

 ぜんぜん違うわけじゃないんだ。

 たしかに23階層の世界観を踏襲してるって言えばそうなんだけど…。


 とにかくこれまでのパターンにはないパターンがこの24階層だった。


 23階層はエジプトの砂漠を歩く感じだったんだ。

 旧い遺跡を巡るみたいにね。

 それがこの24階層は、回廊がそのまま大きくなったような、まさに巨大な回廊だった。


 イメージで言えば高速道路のトンネル。

 高さも幅も段違いに大きな回廊だった。

 雰囲気はまんまピラミッドの回廊だ。


 あっ!そうか!

 23階層からの続きで、砂漠からピラミッドの中の回廊に入ったって設定なのかな。そうなら納得もいくよな。


 石造り。

 壁面にはなぜか灯火が照らす、広々とした空間が続く回廊だ。


 そんな中を歩くんだけど、これまでの回廊よりは不気味な感じはしない。

 キム先輩が一緒にいるから心強いからかな。

 それとね、ゴーストにも少しは慣れてきたよ。ほんの少しだけどね。


 ズルズル ズルズル ズルズル ズルズル…


 灯りの境目。100メル以上も先から、たくさんの人っぽい「何か」がゆっくりと歩いてくる音が聞こえてきた。


 ズルズル ズルズル ズルズル…


 膝を曲げずに、足裏を摺るようにズルズルと。10数人の「何か」。


 「アレク、わかるか?」


 「ゾンビですよね」


 「ああ、そうだ」


 ◯ゾンビ

 生前時の衣服を纏ったアンデット。

 会話も思考もなく、ただひたすらに食肉欲求のみで行動する。

 体温を感知することから、人族に限らず生者に向かってくる。

 苦痛を感じないため、スケルトン並に破壊することが肝要。

 聖魔法が最も有効。

 物理攻撃のみの場合、数十体の徒党を組んで現れるゾンビとの格闘は体力勝負となるため、数が増すほど厄介である。

 噛まれれば菌が感染ると誤解をされているが、ゾンビ自体からの感染症はない。魔石なし。食用不可。



 「アレク、ゾンビは怖くないのか?」


 「失礼な!キム先輩、俺アンデットなんかぜーんぜん怖くないですよ!」


 「フッ。そうか、悪かったな」

 

 「ホントですよ、キム先輩。俺を見くびらないでください!」


 「おい、アレク!お前の後ろにゴーストがいるぞ!」


 そう言ったキム先輩はマリー先輩を指差して叫んだ。


 「ヒーーー!」


 咄嗟にキム先輩の背中に隠れる俺…。


 「あっ!」


 「フッ。冗談だよ」


 「失礼ねアレク君!誰がゴーストよ!」


 「あうあうあう…」


 キム先輩のウソに、恥ずかしさ半分、ホッとした安堵感も半分の俺だった。うん、俺、ゾンビはまったく怖くない。ゾンビ系ゲームもけっこういい成績だったし。



 アーアー アーアー アーアー アーアー


 そんな話をしている間も少しずつ迫ってくるゾンビたち。

 軽く15体はいるだろうか。

 農民、市井の人、浮浪者、商人等々。

 男女も年齢もバラバラなゾンビ群。


 「でアレク。どうする?セーラに頼むか?」


 「いえ、俺がやります。ゾンビはぜんぜん怖くないですから」


 「フッ。ゾンビ『は』な」


 「ゾンビ『も』です!」


 病床でよくやってたゾンビ系のゲーム。

 ナイフから小銃、マシンガンやバズーカとだんだんレベルUPした武器で展開も楽になるゲームは特に得意だった。


 この現実世界でも同じ。

 ゴーストと違い、ゾンビはぜんぜん怖くない。

 でも攻撃して見たくないのは、人のスプラッターな場面…。


 だから刀の攻撃なんかはもってのほかだ。

 血飛沫が飛んで身体にかかったら、嫌悪感しかないもんな。

 ダンジョンとはいえ、人へ激しい攻撃はしたくないし、見たくもない。


 だから…ここは土魔法一択だ。


 「煉瓦バレット!」


 ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!


 読んで字の如く。煉瓦が銃弾のように飛んでいく俺オリジナルのLevel3土魔法だ。


 ァァアアァアァーーァァアアァ…


 ダンダンダンダンッダンッダンッダダダダンッ…


 ゾンビを直撃した煉瓦はそのままゾンビ群を押し潰していく。

 これなら血飛沫はおろか、ゾンビ自体も煉瓦に埋もれて見えなくなるからね。


 ゾンビでも元は人族。

 だから最後は…


 「ナパーム」


 ドンッ !

 ババババババババ〜〜〜


 見えないままに高熱の炎弾で葬った。


 その後も10数体ずつ現れるゾンビを屠りながら前を進む。




 「アレク君、Level3の発想がユニークよねー」


 「いやぁそれほどでも。あざーす」


 どの魔法も高い効果を生むものは発現者の独創性が大事になる。

 特にLevel3以上の攻撃魔法はまさに発現者のオリジナリティがその優劣を決めるそうだ。

 俺の場合は、オリジナルというか、昔の知識のおかげなんだよなぁ。



 ズルズル…ズルズル…ズルズル…


 「ん!アレク、何かわかるか?」


 「はい、ゾンビ30体の1番後ろにちょっと強いやつがいます!」


 「そうだ。リッチが1体いるぞ」


 「はい!」



 ◯リッチ

 魔術師がアンデットとなったもの。死後も思念が残り死霊となった。身体はゾンビである。

 有象無象のゾンビに指示命令できることからゾンビの上位種と言える。

 会話は可能だが、会話の益は全くない。

 火、水、土、金、風の主要5魔法のlevel2以上を発現できる。

 稀にダブル、トリプルのLevel3を発現できるリッチもいる。

 魔石はほぼない。

 永く存在し、Levelの高い魔法を発現できるリッチには魔石もあり、消滅時には宝物をドロップ(落とす)することがある。



 ズルズル ズルズル ズルズル ズルズル…


 アーアー アーアー アーアー アーアー


 ゾンビの群れの中から、毛色の違う者が現れた。


 「おやおや、若い冒険者さんたちだね。歓迎しますよ。ちょうどいいところにおいでになった。私の実験台になってもらいましょうかな。ヒョッヒョッヒョッ」


 そんな言葉を投げかけながら、30体のゾンビが並ぶ先頭に出てきたのはひょろりと背の高い男だった。


 「この身体も少々ガタついてきましたからな。ああ、そこの若い僕に乗り移りましょうか。ヒョッヒョッヒョ」


 え〜こいつ、死霊渡りかよ!

 ゾンビからゾンビへと身体を乗り換えていくやつだ。


 「うるせー俺の身体は俺のもんだ!誰がお前なんかにやるもんか!」


 「おやおや元気いっぱいの僕ちゃんですな。それでこそ私の新しい…」


 「土牢!」


 こんなやつの話なんか最後まで聞くもんか!

 土魔法で発現した土牢に閉じ込める。


 「煉瓦バレット!」


 ダンッダンッダンッダンッダダダダダンッ!


 土牢のリッチ以外のゾンビは煉瓦造りのお墓に埋葬だ。

 で、あとはお前だー!


 前方には煉瓦の山と、リッチが入った土牢のみ。


 「サンダーヴァレット!」


 ガガガガガガガガガーーー!


 土牢ごと粉々に砕きまくってやった。

 もちろんこれくらいでくたばったとは思ってないぞ。

 身体が粉々になったのに、元は死霊だけにリッチとしての身体を捨てて死霊本体となったやつ。


 ふよふよふよふよ〜


 「ヒョッヒョッヒョッ。僕は死霊だからね、身体は関係ないんだよ。次のお家にする、元気のいい君の身体は大歓迎だよ。ヒョッヒョッヒョ」


 くそー!俺をお前なんかの宿になる気はないぞ!


 「アレク!私の聖魔法で!」


 「そうよ、怖いんでしょアレク君!セーラさんの聖魔法ならリッチも問題ないわ!」


 「大丈夫。コイツなんか簡単にやっつけるから」


(ねーねーシルフィ、良いの?聖魔法の子の力を借りなくて?)


(いいのよシンディ。アレクは弱虫で怖がりだけど、本当はゴースト対策もやってきたのよ)


(そうなの?でもゴーストにビビりまくってたよね?)


(たぶんね、あのリッチに怒って自分がゴーストを怖いってことを忘れてるんだわ)


(あーなるほど!やっぱりアレクよねー、アハハハハ)


 「スパークライト!」


 サーーーーーッ!


 ジュッ


 ジュッとその半身ほどを消滅させたリッチが、憤怒の形相でアレクに叫んだ。


 「ギャーッ!小僧、ま、まさか聖魔法士だったのかー!」


 「ばーか俺はただの農民だー!」


 「バカな、聖魔法だぞこれは!」


 「なんでもいいんだよ!もう一発喰らっとけ!」


 「スパークライト!」


 「や、や、やめろぉぉぉーーー!か、身体が溶けて…」


 ジューーーッ


 アレクの2発めの攻撃魔法を受けて、リッチは消滅した。


 「アレクもう聖魔法を覚えたの?」


 「アレク君本当?」


 「マジか?」


 「すごいよアレク君!」



 「あはは。違うんですよ。これはセーラの聖魔法のマネなんです」


 「マネって…聖魔法そのものだったよアレク?」


 「あはは。違うよ、本当にセーラのモノマネだから」


 「「「?」」」


 実はね、これ本当にモノマネ聖魔法なんだ。

 或いは聖魔法もどき?



 実はね、休憩室でセーラが見せてくれる聖魔法から思ったのが、聖魔法の光の色なんだ。青白いっていうか、青みがかった聖魔法、その光の波長を見てて俺は、誘蛾灯の青色や殺菌灯の青色を思い浮かべたんだ。

 だから聖なる力じゃなくって殺菌灯魔法?

 もう1つのヒントがね、高温の炎は赤じゃなくて青色になるよね。

 ゴーストや死霊も物体ではないけど何かのエネルギー体の生命って考えたら、そのエネルギーを打ち消す作用があればいいかなって。


 聖魔法に似た色の魔法色で、超高温の聖魔法モドキ。

 そんなわけで俺の「スパークライト」は、スパークの火花に、雷鳴のライトニングと灯りのライトを掛け合わせたもの。

 ぜんぜん聖魔法じゃない。

 聖魔法の聖なるものとはまったく無関係。失礼だからセーラには言わないけどね。


 リッチが消えたあとには、ポロリと宝箱が落ちていた。

 木製の宝箱。


 あっ!宝箱ゲットだぜ!


 「なんか良いもん落としてくれてないかなぁ」


 「ホントね。何かなぁー」


 「セーラも気になる?」


 「うんうん、もちろんよ」


 わくわく

 ドキドキ

 わくわく

 ドキドキ



 「ないわよー、そわなの、ぜったいないわ」


 「フッ。お前ら…子どもだな」


 マリー先輩やキム先輩は夢がないなぁ。


 「フッ」


 え〜シャンク先輩も鼻で笑ったよ!シャンク先輩なら一緒にワクワクドキドキしてくれるって思ったのに!


 「セーラ開けてごらん」


 「ええ」


 ギーー


 「えっ……マジ?」




 中からは使い古した小汚い包帯が出てきた…。


 「汚ねぇ」



 「ほーら言った通りでしょ」


 「「フッ」」


 あーまたキム先輩とシャンク先輩が鼻で笑ったよ。





 だんだんと回廊が小さくなってきた。

 24階層の終わりが近づいた。

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