211 甲虫とヘルハウンド


 ブーン ブーン ブーン ブーン…


 スカラベーだ。

 標本は領都学園でも見たけど動いている実物を見るのは初めてだな。

 きれいなカブトムシみたいだ。



 ◯甲虫(スカラベー)

 別名弾丸虫。

 高速で飛ぶ昆虫魔獣。

 体温や音に反応して攻撃する。

 高速飛翔時の破壊力は鋼鉄の兜や盾にさえ凹みを与える危険性があるため、防具なしで生身に被弾することはかなり危険。

 飛行距離は最大で10メル程度。飛行前に1度垂直に羽ばたく予備動作の後、一気に加速する特性がある。加速後は慣性で着地する。

垂直飛行の予備動作中か、飛行直後の地を這う間に仕留めなければならない。

 外皮は光沢もあり美しく、鋼鉄並に頑丈なため盾や兜の武具のほか各種装飾品の材料にも使用される。

 食用不向き。魔石なし。




 「セーラさんはシャンク君と障壁の中にいて」


 「はいマリー先輩」


 「シャンク先輩私の横へ」


 「うん、セーラさん」


 「ホーリーガード(聖壁)!」


 「アレク君、スカラベーの倒し方は大丈夫よね?」


 「はいマリー先輩、大丈夫です」


 「アレク、虫が飛ぶ瞬間をよく見てろよ」


 「はいキム先輩」



 パンパンパンパン


 キム先輩が見本を示すように、手を叩いて自身に注目を集めた。


 ザワザワザワザワザワザワ…


 5、6匹のスカラベーがキム先輩をターゲットに定めたようだ。


 手のひらサイズ。特大のカブトムシ(雌)を思わせるスカラベー。

 キラキラと輝く外皮は…確かに綺麗だよな。


 1メル(1m)くらいを上昇飛翔。ここから一気に10メルほど飛行。落下するように着地。そこから再び上昇飛翔。

 これを繰り返しながら近寄る5、6匹のスカラベーたち。



 「いいか。よく見ておけ。スカラベーは地面から一旦上昇、そこから一気に詰めてくるからな」


 ブーン ブーン ブーン ブーン…


 パンパンパンパン


 手を叩きながら説明をしてくれるキム先輩。


 「あの真ん中のやつからくるぞ」


 ブーンブーンと離陸したあと、ふっと間を置いて。

 真ん中のスカラベーが加速する。


 ギュイイイーーンッ!


 弓矢と同じくらいの速さでキム先輩に向かって発射したスカラベー。

 うん、まさに弾丸だよ、こいつら。


 サッ!


 キム先輩が避けた。


 イイイーーーーーーンッ!

 コツン


 スカラベーはその勢いがやがて遅くなり、ゆるやかな放物線を描いてコツンと地面に落下した。


 「あとは裏返せば簡単だ」


 ヒュッ

 ザクッ!


 落ちたスカラベーを苦無の先で裏返し、そのままザクッと刺すキム先輩。

 一連の作業のようだ。



 「同時に飛んでくる奴には気をつけろよ」


 ギュイイイーーンッ!

 サッ

 ギュイイイーーンッ!


 ほぼ同時に飛んでくるスカラベーを右へ左へ、さっと回避するキム先輩。


 「アレク、飛翔する瞬間の進路を見極めろ。よく見れば十分避けられるからな」


 「わかりました」


 「慣れるまでは、飛び上がったときを狙え。一瞬ふっとしたときに叩き落とすと楽だぞ」


 「やってみます!」



 パンパンパンパン


 キム先輩に避けられたスカラベー2匹に、俺も手を叩いて注意をひく。


 ザワザワザワザワザワザワ…


 おっ、2匹とも俺を向いたぞ。


 ブーン ブーン ブーン ブーン


 羽を広げて手乗りサイズのドローンみたいに上昇するスカラベー。


 ふっ


 一瞬、空中で停止した。


 ヨシ!

 突貫 !ダンッ!

 ガンッ!


 ホバリング中のスカラベーに突貫で接近。そのままスカラベーを刀のみねで叩き落とした。

 うわ、これは硬いな。

 まるで鉄の塊か岩を叩く感触だよ。


 ゴロン


 ラッキー。勝手に裏返しになったぞ。


 ザクッ


 剣先で刺した。

 よし、もう1匹は避けてみるか。


 もう1匹のスカラベーから5メル程度の距離をとる。


 ブーン ブーン ブーン

 上昇したぞ。

 ふっ

 一瞬、ホバリングした。


 ギュイイイーーンッ!


 手乗りサイズのドローンから豪速球のピッチャーの球になるスカラベー。


 速っ!


 サッ


 矢と変わらないよな。てか、小さいから余計速く感じるよ。

 でも、避けられないほどじゃない。しかも真っ直ぐの直線軌道だから。


 ザクッ


 うん、大丈夫。

 闘える。


 避けたあと、スカラベーを裏返してザクッと刺した。

 腹から刺したけど、やっぱり外皮はかなり硬いな。

 外皮の色はキラキラとして綺麗だ。


 表面外皮は鋼鉄並に頑丈だから、こいつらもまた使い道があるかな。


 収集、収集と。

 ふんふんふーん。


 「アレク、のんびり拾ってたらケツにぶち込まれるぞ!」


 「は、はいー!」


 (うふふふふふ〜)


 なぜかその瞬間、レベッカ寮長の笑い声が聞こえた気がした…。



 ブーン ブーン


 ふっ

 ギュイイイーーンッ!

 サッ

 ふっ

 ギュイイイーーンッ!

 サッ



 うん、何匹いようが充分避けられるな。

 ないとは思うけど、一斉に10匹くらいのスカラベーに囲まれたら別だけど。


 コロンコロンと外皮をひっくり返してっと。


 ザクッ、ザクッ!

 ザクッ、ザクッ!


 うん、問題なしだ。



 「スカラベーはゴーストやスカルナイトのアンデットと一緒に現れることが多々あるからな。気をつけろよ」


 「はい」



 あーなるほど。

 ゴーストやホネなら、通り抜けるし、魔獣同士が当たっても大丈夫だもんな。同士討ちにならないんだ。



 「行くぞアレク」


 「はい、キム先輩」




 ▼




 ますますエジプトのピラミッドっぽくなってきた。

 って言っても、もちろん行ったことはないんだけどね。



 キャンキャン キャンキャン キャンキャン キャン…


 索敵にひっかかるのは犬型の魔獣。

 鳴き声もまんま犬のヘルハウンドだ。


 「ヘルハウンドだ。コイツはわかるかアレク?」


 「はい、闘ったことあります」



 ◯ヘルハウンド

 別名黒い犬。大型犬サイズ。

 全身が黒く、赤い目が特徴的なヘルハウンドは常に鳴くことから鳴き声からも接近が容易にわかる。

 爪や牙の物理的攻撃に加え、口からファイアボール程度の炎を吐くのが要注意の魔獣。

 毛皮には耐火性がある。

 食用不向き。



 いいタイミングで来てくれたよ。

 ヘルハウンドの皮は耐火性が高いから欲しかったんだよね。



 「俺がやります」


 「任せたぞ」


 「はい」


 キャンキャン キャンキャン…


 真っ赤な目で迫り来るヘルハウンドが7、8匹。

 まんま大型犬なんだけど、コイツらも目が怖いんだよな。真っ赤に血走ってやがる。


 キャンキャンキャンキャンキャンキャン…


 俺を半円で囲むように寄ってきたヘルハウンドだけど、火を吐く時間はあげないよ。


「スパーク!スパーク!スパーク…」


 バチバチバチッ…!

 ビリビリビリビリッ!


 ギャンッ ギャンッ ギャンッ ギャンッ…


 雷が身体を通過していく。

 あっという間に7匹のヘルハウンドは全滅した。


 我ながら雷魔法は容赦ないよな。

 うん、焦げてない。

 少しずつ、力の加減もできるようになってきたな。


 さて、解体、解体っと。

 ふんふんふーん。

 

 このまま行くと寒冷地や火山地帯にも行くはず。

どっちも寒かったり燃えるように暑かったりと、いろんな危険もあるところ。

 だからヘルハウンドの毛皮で耐火コートを作ろうと思うんだ。



 ▼



 回廊が見えてきた。


 「じゃあ今日はここで野営しようか?」


 「「「はい」」」


 「じゃあさっそく野営食堂作りますね」


 「えっ?」


 マリーとキム、セーラ、シャンクが顔を見合わせる。


 「ぷっ、みんな聞いた?ついに野営食堂だって…」


 「ふふ。マリー先輩仕方ないです。だってアレクは…」


 「「「変態ですから(だ)」」」


 「へっ?何?」



 ズズズズズーーーーーーーーーッ!


 「できました!野営食堂!」


 等身大フィギュアのレベッカ寮長が見守る寮の食堂だ。


 俺は守護神様に心からのお願いをする。


 どうかどうか、お化けから俺を守ってください、お願いします!レベッカ寮長さま〜

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