209 21・22階層
21階層。22階層。
街道に沿って廃屋が幾つも続く地帯である。
【 ブーリ隊side 】
今歩いているのは左右に50戸程度の村落がある街道筋である。
ふよふよふよふよ〜
前方から数体のゴーストが接近してくる。
サッ!
力自慢のタイガーでさえ、ゴーストと対することなく、避ける道を選ぶ。
サッ!
後に続くオニールも同様の選択。
ゴーストには一切の物理攻撃が通じない。
さらにゴーストに身体を通過されれば体力は大いに奪われる。
格闘術、剣術のみで道を切り開く者には最悪の相手と言える。
そんなゴーストにも天敵といえる存在がブーリ隊には唯1人いた。
ふよふよふよふよ〜
空中を漂いながらゴーストが近づいていくのは、ゲージの背中におぶさる幼女のような魔法使い。
「ライト!」
「ライト!」
「ライト!」
ピカッ!
ピカッ!
ピカッ!
ジュッ
ジュッ
ジュッ
ゴーストは立ち所に消え去った。
「ふんなの」
「「「おー」」」
「ギャハハハさすがリズだ」
パチパチパチパチ
懐中電灯程度。しかも真っ昼間の昼光色。その僅かな灯りにさえ、姿を保てずに消滅していくゴーストたち。
「リズにかかったらゴーストも呆気ねーよなぁ」
オニールが呆れたように口にする。
そう。ゴーストを消滅できる魔法を発現できる者にとって、それはあまりにも弱い敵である。
そしてこのブーリ隊でゴーストを消滅できるのは魔法使いのリズだけであった。
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
スケルトンが3体迫ってくる。
◯スケルトン
白骨化した死体(骸骨)のみのアンデット。
最弱のアンデット。
魔法以外の物理攻撃も効果はあるが復元力が高いため、骨格を成す主要なパーツを全て粉砕しなければならない。
「コイツらは槍先が鈍るから嫌いだ!」
ダンッ!
「ゴーストよりはマシだろ!」
ダンッ!
タイガー、オニールの2人がスケルトンに立ち向かう。
ザンッ!
グシャ
ザンッ!ザンッ!
グシャ
グシャ
タイガーの爪牙がスケルトン1体を、オニールが振るう高速の槍がスケルトン2体を倒す。
グシャと原型を止めることなく崩れ去るスケルトン。
スケルトンは右手奥の廃屋からも現れる。
「こっちからも来たよ」
ザンッ!ザンッ!
グシャ
廃屋の扉から現れたスケルトン。
脇差に近いサイズの刀を佩いているビリーがスケルトンの頚部、胸部の2点を破壊する。
仲間が1撃で対するところをビリーは2撃で倒す。
「いよいよアンデットが増えてきたね」
「ビリーは油断しないから安心なの。それに引き換え、オニールは油断ばかりなの」
「ばかりはないだろ、ばかりは!まあ、事実だけどな」
ワハハハハ
ギャハハハ
あはははは
ダンッ ダンッ!
グシャ グシャ…
事実、倒したスケルトンの骨をさらに足で踏み砕くビリー。
復元力の高いスケルトンだけに安全マージンの確保も余念がないビリーである。
「時間はかかるし、食えねー奴らばっかりなんだよなー」
オニールが不平を言う。
「仕方ないぞオニール。魔法の使えない俺たちはリズの露払いくらいしかやれないからな」
「ああタイガー。わかるんだけどよ、コイツら骨が硬いから槍にもよくないんだよなぁ」
槍先をコンコンと叩きながら不満顔のオニールである。
と…。
「前!」
斥候タイガーの索敵。
腰をかがめ、直ぐに動ける態勢となるタイガー。
併せて即座に反応するブーリ隊の面々。
「オニール伏せ!」
ビリーが声をかける。
「おうっ」
サッ。
振り返ることもなく、その場に伏せるオニール。
矢を番えるビリー。
ヒュッ!
グギャーッ
オニールの立ち位置を抜けて放たれたビリーの弓矢が、物陰に潜んでいたゴブリンアーチャーを射抜いた。
ダッ!
ダッ!
ザンッ!
ザンッ!
グギャーッ
グギャーッ
タイガー、オニールもすかさず物陰を急襲。ゴブリンアーチャーの横に潜んでいたホブゴブリン2体も倒す。
「まぁ、ゴーストやスケルトンよりはコイツらのほうがやりやすいけどな」
「……」
「タイガー?」
「ああオニール。右100メル(100m)ほど先だな」
「ゴブリンソルジャーか?」
「おそらくな。この階に来てからずっと100メルの距離を保ったままだ」
「かなり慎重な奴だね。今も僕の矢は通らないなぁ」
「どうする?行くか」
「いや。このまま進むぞ」
「…わかった」
「行くぞ」
「「「了解」」」
階層を跨いで学園パーティーを追う者。
アレクが対したゴブリンソルジャーだとは知る由もないブーリ隊である…。
▼
ゴースト、スケルトン、従来の魔獣を含めて。時に猛然と、時に粛々と前を進むブーリ隊。
カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ…
「スカルナイトが来るぞ!」
斥候のタイガーが警告を発する。
カタカタ カタカタ カタカタ カタカタカタ カタカタカタ…
リズム感さえ覚える軽やかな足音は、骨のみが刻む音。
錆びついた剣を片手に、前方より現れた5体のスカルナイトである。
◯スカルナイト
スケルトンの上位種。別称 化石騎士、ボーンナイト。
白骨化した死体(骸骨)ではあるが、剣(盾持ちもいる)を保持している。
生前騎士であった者のアンデット。
名のあるほとんどの騎士は火葬のため、スカルナイトになる者はレベルが低いとされる。が、稀に高位のスカルナイトも存在する。
スケルトン同様に魔石は無い。
「タイガーは後方から回って。オニールは正面から迎撃」
いつものようにビリーが指示を出す。リズの魔力には限りがあるため、ゴースト以外のアンデットは極力物理的な攻撃で対処する戦略である。
「「了解!」」
前方に生者がいると知るや否や。猛然と駆け出すスカルナイトたち。
カタカタ カタカタ カタカタカタカタカタカタ…
対するはタイガーを前、オニールを後ろに配して。
その場にて迎撃にかかるるブーリ隊の前衛組。
タイガーはやや腰を引き、獲物に飛びかからんとする虎そのものの風体で。
飛びかからんとする両脚は今や今やと、小刻みに揺れている。
オニールもまた、背丈ほどの長槍を肩に回し、柄を後ろ手に構える。
ダッ!
タイガーが急旋回からスカルナイトの後方へまわり込んだと同時。
ブーンッ ブーンッ!
オニールの回す長槍がスカルナイトの下肢を襲う。
円運動により勢いの増した長槍の威力は相当なものである。
ガンッ ガンッ ガンッ!
連続で鳴る打撃音はスカルナイトの脛骨と腓骨を砕く。
ドンッ ドンッ ドンッ
勢い余って倒れる3体のスカルナイト。
ほんの僅か遅れる2体には、一気に後方から回り込んだタイガーの爪牙が襲う。
ザンッ!
ザンッ!
グシャ
グシャ
「あーもう、そのうち骨で槍が折れてしまうぜ」
泣き言を言うオニールに突然足下のスカルナイトの錆びた刀が襲う。
「うぉっ!」
シュッ
足下で倒れていたスカルナイトの刀が無防備に近づいたオニールの足首あたりを薙いだ。
「あうっ!いっつっ…」
倒れていたスカルナイトの1体がオニールの足を斬りつけたのだ。
咄嗟に避けたオニール。
それでも切傷を負う。
「痛えなぁ!」
ダンッ!
グシャ
斬りつけられた足でスカルナイトを踏み砕くオニール。
「バカ!だからオニールは油断するからダメなの」
「うぅっ。面目ねぇ…」
「ヒール」
スーーッ
血の滲む足首に手を翳すリズ。
ものの数秒で、切傷も癒えるオニール。
「サンキューなリズ」
「ふんなの」
コンコン
握り拳で2発、コンコンとオニールの頭を叩くリズ。
「そういやアレク君が作った飲料があったね。ちょっと試してみようか」
ほい、とアレク袋に入った飲料を受け取るオニール。
アレク命名の「えなじーぱうちどりんく」を試し飲むオニール。
「ああ、なんかうめーなこれ。リンゴーの味もするな」
毒消し効果もある栄養ドリンクである。
スカルナイトの錆びた剣から負う雑菌由来の破傷風にも防止効果はあるだろう。
「うん、リズの魔法と併せて良い感じだわ」
とんとんとその場でジャンプをするオニール。
「そうかい。じゃあ今度からは怪我をしたらリズの魔法と併用だね」
こくん
コクコク
ビリーとリズのアイコンタクト。
口にはしないものの、人体実験も兼ねるビリーであった。
「リズあとね…」
先を歩くオニールに聞こえないよう、ヒソヒソと話すビリーとリズ。
「アレク君から預かった聖水があるんだ」
コクコク
「これを身体に浴びた状態で闘ったらアンデットから受けた切傷や呪いも効果があるかどうかの実験をしてくれって言ってたよ」
「オニールで試すの。効果があればタイガーやゲージ、ビリーにも使うの」
オニールが知らないところで人体実験も続くのであった…。
ザッ ザッ ザッ ザッ
廃屋沿いの旧道をひた歩くブーリ隊。
「よーし回廊まで来たぞ。今日はここで野営だ」
23階層手前の回廊までやって来た。
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