207 20階層


 ギギギギギーーーーー


 扉を開けて、中に入る。

 キム先輩を先頭に、俺、マリー先輩、セーラ、シャンク先輩。

 ボル隊いつものメンバーだ。



 階層主の部屋。


 最奥に巨大な階層主がいた。




 「いたね」


 「フッ。アレク、お前の予想通りだったな」


 「僕が子どもに見えるくらい大っきいね」


 「ゲージ先輩のご先祖様なのね」


 真顔で言うのはやめなさいセーラ。




 でも本当にデカいな。


 20階階層主は鰐魔獣(アリゲーター)だ。

 体長は12、3mを優に超える、怪獣そのものの鰐だった。



 「アレクいい?コイツもギッタンギタンだからね!」


 腰に手を当て、ふんすと胸を張るシルフィ。



 「これは私たちの出番はないわねマリー」


 「フフ。そうね」



 「じゃあ闘っていいですか?」


 「ええ、アレク君の好きにやって」


 「アレク好きにやっていいぞ」


 「やっちゃえアレク君」



 「セーラ、一応障壁で後ろを囲ってくれる?」


 「はい。後ろを気にせず、アレクの好きなようにがんばってくださいね」


 「ありがとうセーラ」


 「護り給へホーリーガード(魔法壁)!」


 突然、背後から一切の気配が消えた。

 うん、俺の索敵能力も上がったのかもしれない。


 「アレク君やっちゃえー!」


 シャンク先輩の声援が嬉しい。


 


 シャーッ シャーッ シャーッ 


 ノコギリのような歯がいっぱいの口で威嚇してくるどデカい鰐。



 ワニ口ってこういうのを言うんだろうな。俺が丸呑みされるくらいの大きさだよ!


 うん、これだけデカいとスパーク(放電)じゃ効かないかな。

 やっぱりライトニング(雷鳴)かな。


 シャーッ シャーッ シャーッ 


 口を開けて威嚇をしながら近寄ってくる魔獣の大鰐。



 「じゃあいきます!」



 「ライトニング(雷鳴)!」


 バチバチバチバチバチバチバチッ


 ヒュッ!


 ドーンッ!

 ドーンッ!

 ドーンッ!

 ドーンッ!

 ドーンッ!


 5発。スパーク(放電)よりも強力なライトニング(雷鳴)が巨大魔獣鰐を見舞う。


 ガクッ ガクッ ガクッ


 巨大鰐の身体自体が衝撃で震える。

 尚且つ、


 ビリビリビリビリビリビリッ!


 痙攣する魔獣鰐の巨体。


 ブルブルブルブルブルブルブル……


 コテンッ!




 あ〜〜〜!


 あららら……鰐魔獣の巨大な胴体がひっくり返った。




 くんすか。くんすか。


 なんか焦げ臭ぇな。



 お、俺……やり過ぎた?




 後ろの仲間を振り返った。



 「…おつかれーアレク君」


 「おつかれしたー」


 「…よ、よくやったなアレク」


 「あざーす」


 「「…お、おつかれさまー」」


 「おつかれーっす」



 夏の午後の部活かよ、このダレきった雰囲気は!



 対20階 階層主 魔獣鰐。

 なんと、1ラウンドのゴングが鳴ったと同時のクリティカルヒット。そんな感じ?


 高校野球のサイレンが鳴り止まないうちのホームラン。そんな感じ?



 開始早々に勝敗が決した。

 みんなも唖然。

 だけど俺自身も唖然とする決着だ。




 さて、解体、解体っと。

 魔石も取ってと。


 オニール先輩とゲージ先輩のリクエストは鰐の脚肉だったよなー。



 肉はほんのりピンクがかった赤身肉。淡白系だから旨い肉だろうな。

 脂から油も搾らなきゃな。

 (やっぱりちょっぴり焦げ臭いけど)


 ズルズルズルズルッ…


 解体が終わって、毎度のように鰐が床下に消えていく。




 ゴゴゴゴゴゴォォォーーーー


 魔獣鰐がいた後ろの壁が揺れて、中から扉が現れた。



 セーフティエリア、休憩室の出現だ。



 「あ〜なんかさ、呆気なさ過ぎって言うの?ねぇキム?」


 「あゝマリー。言葉もない…」



 「「よっこらせ」」


 マリー先輩とキム先輩が椅子に腰かける。


 「本当楽だったね、セーラ」


 「ええ、シャンク先輩」



 「「よっこいしょ」」


 シャンク先輩とセーラも苦笑いを浮かべながら腰掛ける。


 うん、確かに拍子抜けかも。



 とりあえず俺も座ろ。


 「よっこいしょーいち」


 「またアレクが訳の分からないこと言ってるわシンディ」


 「気にしちゃダメよシルフィ。アレクは変態なんだから」


 ん?

 また2人が何が言ってるよ。


 拍子抜け?

 俺も気負い過ぎてたのかもしれないけど、あまりにも呆気なく勝てた…。





 「まぁ気にしても仕方ない。アレクだからな」


 「そうね。アレク君だもん」


 「そうですよね」


 「「「アレクだから」」」



 なんだよ、それ!




 ▼




 3点鐘(3時間)くらいして。

 ブーリ隊も休憩室に入ってきた。


 「「「お帰りー」」」


 「「「ただいまー」」」





 「本当にアレク1人で闘ったのか?」


 「はい。あははは」


 「雷魔法1発どーんだったわよ」


 「ああ、俺たちは手も出してない」


 「「僕たち(私たち)見てただけです」」




 「アレクがゲージのご先祖をやっつけたの?」


 「はい、リズ先輩。アレクがゲージ先輩のご先祖様をやっつけました」


 だからセーラ、真顔でリズ先輩の言葉を繰り返すなって!




 「でもすごいな、その雷魔法は」


 「あはは。たぶん水辺の魔獣と相性がいいんでしょうね」


 「そうなんだけどな…。なんか言葉もでないな」


 心底呆れたようにタイガー先輩も口にした。




 「まぁあれだ。腹減ったわ。アレク、ゲージのご先祖様を食わしてくれよ」


 「ご先祖様じゃないけど、オイも食いたいぞ」


 「わかりました。準備していいですかマリー先輩?」


 「ええ、もうアレク君の好きにやって頂戴。何せ3日は早く来てるんだからね」





 今日のメニュー


 骨付き鰐のステーキ

 トンカツならぬ鰐カツ

 鰐のスープ

 茹で鰐足

 魚フライ タルタルソース添え

 フライドポテト

 ポテトサラダ

 粉芋(マッシュポテト)添え

 スープ(「リズ鍋」の温か仕様)

 パン





 骨付き鰐肉のステーキは骨を持って齧りついてもらった。

 味付けは香草ブレンドのアレク塩のみ。



 「うまっ!」



 魔獣鰐の肉はたしかに美味しかった。

 適度な歯応えに、ジューシーな肉質。

 味わいもクセのない洋牛に近い。

 蛇は肉独特の味があり、そこが好き嫌いの分かれるところだけど、魔獣鰐にはそのクセがなかった。

 シンプルに肉として美味しいのだ。

 ただ、やっぱり雷魔法の威力があり過ぎて表面部分は焼けてたけど。

 中のほうは大丈夫だったよ。



 「これだよ、これ!ゲージのご先祖様の脚は特に旨いよな。なーセーラ、ちゅーちゅー」


 「はい、オニール先輩。足の指に近いところは特に美味しいですよね!ちゅーちゅー」


 「だからオイのご先祖様じゃないというに!ちゅーちゅー」


 手をベタベタにしながら豚足ならぬ鰐足をちゅーちゅーやるオニール先輩、ゲージ先輩とセーラ。


 事実、ブッヒーの足(豚足)に近い食味らしい。

 なんか俺は……見た目から苦手なんだけどね。


 「おっ、わかるねセーラ!ハハハハ」


 ハハハハ

 フフフフ

 ギャハハ


 セーラの味覚はオニール先輩やゲージ先輩と酷似していた。




 「ワニカツ?あと魚フライ?揚げるととっても美味しいわね!」


 「そう。とっても美味しいの」


 「ああ、ワニカツ。これも旨いな」


 「僕もこれは好きだよ」


 「アレク君、魚フライのタルタルソースだっけ?これもちょっと酸味が合って魚との相性も抜群だね」


 「パンに挟んで食べても美味しいの」


 タルタルソースの魚フライサンドは好きだったなあ。



 「「「うんうん、旨い旨い」」」


 「はい!よかったです」



 今回のメインはカツやフライの揚げものにしたんだ。


 鰐はワニカツで、魚はそのまま魚フライ。


 最初の頃に焼いたパンもけっこう堅くなってたからパン粉にしてね。


 タルタルソースも上手くできた。

 ビネガーにメイプルシロップを加えて煮詰めたものに刻みタマネギーとマヨネーズを足しただけなんだけどね。

 魚フライはタルタルソース派なんだ、俺。



 たくさん肉も確保できたよ。

 そろそろ塩漬けや干物にして、保存用も考えなきゃな。


 飴もまた作っとかなきゃな。

 メイプルシロップ飴どころか蜂蜜飴も無くなったからな。

 めちゃくちゃたくさん作ってあったはずなんだよ!

 恐るべし幼女だ、リズ先輩は。



 やっぱりいつかは食品も時間も気にせずに保たれるマジックバックがほしいよなぁ。

 ダンジョンの中から見つからないかなぁ。

 マリー先輩に何度か言ったけど、その度に鼻で笑われてるけどな。


 マジックバックがあったらダンジョン探索や旅が劇的に変わるんだろうな。

 いつの日か、マジックバックがほしいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る