205 18階層


「大丈夫ですか?聞こえますか!しっかり!」


「血圧…下がってます!」


「早く、先生を!」




 久しぶりに病床で死ぬ夢を見た。


 夢。

 そう夢。

 なんだけど俺の場合は、病床で死んでるから正夢なんだよね。


 だから、夢占いに俺のような症例(タイプ)に該当するものはない。

 なんだろう。

 何か良くないことが起こる前触れなのかな。





 17階層、野営後の朝はびっくりした。

 だって目が覚めたら、だだっ広い野原には1匹の魔獣も見えなかったんだよ。

 でも昨夜の魔獣だらけの光景は夢じゃなかった。

 なぜかって?

 それはね、空壕の中なんだ。そこには空壕が埋まるくらいに魔獣がいたんだ……。


 キモっ!


 思わず、土魔法で速攻穴を埋めたけどね。





 18階層にやって来た。


 湖沼地帯。

 道に沿って右も左も池や沼が広がっている。

 対岸の木々がすぐ側にある小さな池や見るからに浅めの沼。

 対岸が見えないくらい大きな湖サイズのものまである。


 索敵は……難しいな。


 水が魔獣の気配も消している。

 警戒しながら自然とゆっくり歩かざるを得ない。


 パシャ パシャ パシャ


 魚か何かが跳ねる音。

 そんな音の中にも、悪意を向ける目線や近寄る影は索敵にひっかかる。


 ユラユラユラユラユラユラ…


 水面が揺れて、波打ちながら近づく大きな影。

 水性の魔獣もしくは水辺をテリトリーとする魔獣だ。



 ストップ!

 (止まって!)


 後ろ手で人差し指を1、次いで手首から伸ばした指先4本をユラユラ。

 (敵魔獣1、鰐魔獣だ)



 鰐魔獣には弓矢じゃ威力が足りない。もちろん刀でも弱い。鎧のような外皮だから。

 ここは魔法だ。でも水はもちろん、火や風魔法も少し弱い。土魔法の槍衾で刺すか、雷魔法の感電だ。


 雷って?


 俺、ついこないだまで雷は使えなかった。てか、周りで雷の魔法を発現できる人っていないもん。


 でもね、雷使えるんだよ俺。

 花火を何度か上げてるうちに、指先から火花が出るなってことに改めて気づいたんだ。

 そして、雷を使った漢字で雷雨があるよね。その言葉からヒントを得たんだ。風と水から雷ができるなって考えたんだ。あとは低気圧や放電することから試行錯誤してるうちについにできた。だから、俺オリジナルなんだ。


 まだ発現できて2ヶ月ほど。

 風魔法の応用から生まれたのが俺の雷魔法なんだ。

 だからまだ俺とシンディしか知らないよ。


 今日は初お披露目。



「シンディ、見ててよ」


「シルフィなーに?」


「アレクの新しい魔法よ」


「新しい魔法?」


「ええ」


 ユラユラ ユラユラ ユラユラ…


 水底付近から浮上するように現れた魔獣が、やがて全身を浮かせ、その大きな口を開けて迫ってきた。


 シャーーッ シャーッ シャーッ


 体長4m弱。

 鰐魔獣だ。


 俺は向かってくる鰐魔獣に、指鉄砲のように指先を向けた。


「スパーク(放電)!」


 人差し指から直進性のある火花が飛び散る。


 バチバチバチッ ヒュッ!


 空から地面にカミナリが落ちるように、指先から雷が鰐魔獣を直撃する。


 ビリビリビリビリッ!


 バシャン

 ぷかーーー


 体内に高圧電流を浴びた鰐魔獣は、身体を小刻みに震わせ、そのまま白いお腹を曝け出して即死した。


「雷(サンダー)じゃん!へぇー久しぶりに見たわ!」


「へへぇーん」


 シルフィがドヤ顔になって胸を張る。


 シンディが久しぶりというように、今のこの世界で雷魔法を発現する人はかなり稀少らしい。

 昔はよくいたってシルフィは言ってたけど。



「アレク君、それって雷魔法?」


「はいマリー先輩」


「雷魔法、私初めて見たわ!凄いわねーアレク君」


「あざーす」



 おおーなんか光栄だなぁ。長生きのエルフに褒められたよ。マリー先輩もけっこういい歳だったりしてね。


「え、何?アレク君何か言った?」


「い、いえ、何も言ってません!」


「ふんっ!誤解してるみたいだけど、私ヒューマンと同じ歳よ!キムやビリーと同じ15歳の6年生だからねっ!」


「そ、そ、そ、そうなんですね」


 怖っ!

 睨まれたよ!

 マリー先輩怖っ!




「でもアレク君…あなたは…あははは。雷魔法も発現できたのね」


「はい!」


「ホーク叔父さんは知ってるの?」


「いえ、知らないです。俺雷魔法まだ発現できて2ヶ月だから」


「じゃあ次の春にホーク叔父さんに披露しなきゃね」


「はい!1回くらい師匠をギャフンと言わせたいです!」


「フフフ」


「アレク、そんななめたこと言ってたらまたホークにカエルの巣に放り込まれるわよ」


「あっ、しまった!そうだったよ。シルフィ、師匠にチクらないよね?どうしよう?」



 フフフフ

 はははは



 ▼



「スパーク!」


 バチバチッ ヒュッ!


 ビリビリビリビリッ


 バシャン

 ぷかーーー


 向かってくる魔獣はすべて一撃で倒しながら進む。

 鰐魔獣、カッパみたいな半魚人、大きなワニガメ等々。

 みんなお腹をひっくり返してぷかぷか浮いている。

 すべて一撃。雷撃の餌食だ。

 ルーズソックスの女の子のレー◯ガンみたいだよね。





「すごいね、アレク!」


「本当だ!一発だよ」


 シャンク先輩もセーラも驚くくらい威力がある雷魔法だ。

 俺自身もちょっとびっくりしてるよ。

 水と雷はめちゃくちゃ相性がいいみたい。


 でも食用にはちょっと…かな。

 レンチンしすぎた食品みたいな感じ?

 身が固くなってちょっと焼き過ぎてるんだよね。

 ビリッと軽く感電するくらいに加減できたらいいなぁ。





 シュッ!

 ぷかー


 魚も捕りながら進む。射った矢にはアラクネの紐をつけてあるよ。

 30〜100㎝くらいの魚がけっこう捕れた。

 夜ご飯が楽しみだ。



「アレク君、めちゃくちゃ速いわ。このまま行くとブーリ隊を追い越すわよ」


「マジっすか?」


「ええ、でも気にしなくていいわよ。いたらいたで追い越すだけだから」


「はい。あははは」


「もうすぐキムにもたぶん追いつくわね…って言ってたら居たわよ」



 300メルほど先。

 道を塞ぐように威嚇するたくさんの鰐の前にキム先輩が見えた。



「キムー、合流してー」


 マリー先輩が手を振ってキム先輩に呼びかける。

 あっ、なんか楽しそうだよマリー先輩。



「マリー、何でこんなに早い?それになんかすごく楽しそうだな…」


「そうよ、早いでしょー。ねーみんな」


「「はーい」」


 フフフフ

 あははは

 はははは

 わははは



「まさか…アレク、お前また何かやったのか!?」


「『また』って何ですかキム先輩。あははは…」



 ここからはキム先輩も一緒に進むことになった。


「スパーク!」


 バチバチッ ヒュッ!


 ビリビリビリビリッ


 バシャン

 ぷかーーー


 指鉄砲みたいに雷魔法を発射。

 魔獣はお腹を出して感電。

 その繰り返しである。

 距離も関係なく撃ちまくっているけど、魔力量もぜんぜん心配ない。


「アレク…雷魔法は反則だな…」


「あははは」


 その通り、湖沼地帯で俺は無双だった。





【 ブーリ隊side 】



 陸では最強のタイガーも水中の魔獣になると相性は今ひとつだ。


 よってポーターをタイガーが、斥候をゲージがそれぞれ交代して担う。


「まぁ退屈はしないよな、よっと」


 ザンッ!


 槍を扱うオニールもゲージに負けじと奮戦していた。


「オニール、ゲージ。僕はあんまり役に立たないね」


「何言ってんだ。また空から魔獣が来たらお前しか相手できないだろ」


 頑丈な皮革を有した鰐魔獣。弓を主としたビリーもあまり役には立たない。



 ゲージが水中に入り、格闘した鰐魔獣の腹を返してはオニールが突く。


 何体も陸にまで上がってきた鰐魔獣には、ゲージとオニールが止めをさすまで、ビリーが脚を射抜いたり、リズが重力魔法を発現してその進行速度を弱める、という効率面では拙い闘いを繰り広げる。


「ゲージ、ご先祖様が来すぎじゃねーか!もう帰ってもらえよ!」


「ギャハハご先祖様じゃないぞ!」


「ホントなの!ご先祖様、キリがないの」


「だから違うぞリズ」


「オニール、ゲージ、遊んでないでもっと早く止めをさしてくれよ!」


「ビリー、俺と代わるか?」


「いや、タイガーはそのままリズを守ってくれてたほうがいいよ」




 はーはーはー

 はーはーはー

 はーはーはー

 はーはーはー

 はーはーはー


 ブーリ隊5人が腰を下ろして息をきらす。


「ようやく終わったか?ハァ、さすがに疲れたわ」


「もう少し進んだら今日は早めに休憩しよう」


「木の上にでもテント建てるか」


「ゲージは重いの」


「だな。ゲージだけは太めの木に括り付けるか」


 ワハハ


「オニール、オメーなぁ」


 ワハハハハ

 あはははは


「あ〜しかし疲れたなぁ」


「ホントだね…」



「ぉーぃ ぉーぃ」


「ん?何か聞こえないか?」


「ぉーぃ おーい おーい」


「えっ?!ボル隊?なんで?」


 そこには破竹の勢いで水性魔獣を蹴散らして歩みを進めるアレクを先頭のボル隊がいた。



「早っ!なんで?」


「あは、あはは。先輩のみなさん、ちーす」


 そこには頭を搔き掻き、先頭を行くアレクと後に続くキム、マリー、セーラ、シャンク。


 常に油断をしないキムでさえ、のんびりと歩いているように見える。

 マリーに至っては笑顔を浮かべてセーラと楽しそうに話しながら歩いている。

 ニコニコしているのはシャンクも同じ。


 4人は何とも楽しそうな顔をしていた。

(1人キムだけは苦笑いを浮かべていたが)



「タイガー、先行くよー、このまま500メルくらい後から離れずについて来てー」


「先行くぞ」


「先輩たち、お先に失礼しまーす。あははは」


「「お先でーす」」


 すっかり水辺のお散歩の雰囲気を纏った5人組がブーリ隊を追い越して行く。




「たぶんアレクのせいなの」


「ああ、僕もそう思う」


「よし、タイガー後をついてくぞ!」


「ああ、わかった」


「ゲージは先頭、タイガーはポーター、僕とオニールは周囲を警戒しながらボル隊に続くよ」


「「「了解!」」」




 ブーリ隊はこの後、信じられない光景を目の当たりにするのだった…。


―――――――――――――――


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