191 7階層 ゴーレム
サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッサクッ…サクッサクッサクッ…サクッサクッサクッ…サクッサクッサクッ…
セーラとは何度も何度も、いろんなパターンで障壁を発現する練習もしてきた。
今回は、俺が発現させる土塀から1mほどの高さで覆うように。
高さはそれほど発現しなくてもいい障壁だ。
背が低いゴブリン自体は、俺が発現した土塀を飛び越えられない。
上位種のゴブリンメイジやゴブリンアーチャーには、フォークボールのような高低差のある魔法や矢は撃てない。
だから敵を目視できて、自分たちを中に据えた守りの陣形。
ただ前方の土塀はすぐに俺が飛び越えて反撃できるようにやや低くしてある。
「来る!」
俺の警告と同時に、四方からファイアボール、エアカッター、石礫等が飛んできた。
ゴゴォォォーーーー!
シュッ!シュッ!
ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ!
ゴゴォォォーーーー!
長距離砲はゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーの魔法だ。
長距離砲と言っても2、30mとたいしたことのないものなんだけど。
ゴブリンたちが俺たちの四方を囲んで攻撃をしてくる。
◯ゴブリンメイジ
ゴブリンの上位亜種。人族の子ども並の知能を有する。
火魔法を主に水魔法、土魔法、風魔法等の攻撃魔法Level2を発現、稀にLevel3を発現する者もいる。
ゴブリンメイジのような上位亜種は杖と着衣で判別可能。食用不可。
ズズズズズズーーーーーーッ!
聖壁(ホーリーシールド)!
瞬時に高さ1.5mで、正方形に土塀を発現させる俺。
俺たちを中心、10m程の空間を空けて。
馬房柵みたいなものだ。
さらにその土塀上1mが見えない障壁。
土塀と組み合わせてこれも瞬時に発現させるセーラ。
ドンドンドンドンッ!ギャッ
ドーンッ!ドーンッ!ギャッ
カンカンカンカンッ!ギャッ
土塀と見えない魔法壁に進路を阻まれるゴブリンメイジたちの攻撃。
ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ…
四方からわらわらと押し寄せるゴブリン、凡そ100体。
ところどころにいる杖を持った着衣の者がゴブリンメイジだろう。
ドンドンドンドンッ!
ギャッ!ギャッ!ギャッ!ドンドンドンドンドンッ!ギヤッギヤッギャッ!ギャッギャッギャッギャッギャッ!ギヤッギヤッ!
見えない障壁を叩きつつ、ギャーギャー叫ぶゴブリンたち。
3体くらいで肩車をしたらひょっとしたら越えられたかもしれないのにな。
お前たちにそこまでの知恵はない。
対して俺は、壁沿いにお前たちを殲滅できる土魔法がある。
ゴゴゴゴォォォーーー!
ゴゴゴゴォォォーーー!
ゴゴゴゴォォォーーー!
ゴゴゴゴォォォーーー!
俺たちを護る四方の土塀のさらに外側に。
お城をもう一重囲むように土塀を発現させる俺。
漢字の「回」をイメージした発現だ。
二重に発現した土塀と土塀の間に閉じこめられたゴブリン。
これでゴブリン100匹は逃げられない。
ズズンッ!
ズズンッ!
ズズンッ!
ズズンッ!
土塀と土塀の間。
東西南北に発現させたのは土魔法の岩石兵(ゴーレム)だ。
そう男のロマン、ゴーレムだよ!
うぉー!ゴーレム、カッコいいぜー!
ただね……まだ実戦には不向きなんだ。
見た目はゴーレムなんだよ。カッコいいんだよ。
だけどね、パンチとかキック、刀を振うといった動きができないんだ…。
俺が魔力を伝えるとゴーレムはスローモーションで殴りかかる感じ?で動くんだ。
練習ではアルマジローでさえも避けられた…。
だからね、考えたのはゴーレム兵の土台なんだ。
カッコいい精強な見た目のゴーレム兵が立つのは円型の土台。
この土台とゴーレム兵が土塀の回りをグルグルと動いて敵を殲滅するんだ。
移動するジュースミキサーみたいなものなんだ。
えっ?それってお掃除ロボットのル◯バじゃないかって?
――気のせいです。
ウィーーーーーーーン!
土塀と土塀の間、「回」の中を動き出したジュースミキサーじゃなくってお掃除ロボット、じゃなくて精強なゴーレム。
ウィーン!ギャーッ!ギャーッ!
ウィーン!ギャーッ!ギャーッ!
ウィーン!ギャーッ!ギャーッ!
回廊の中で回り動くゴーレムの隙間で潰されていくゴブリンたち。
断じてお掃除ロボットじゃないよ!
俺の目にはゴーレムにバッタバッタと薙ぎ倒されるゴブリンの姿が見えた……気がする…。
ものの数分で。
土塀を解除、ゴーレムも台座も土に還した。
100体のゴブリンを殲滅した。
「ねーシルフィー」
「なにーシンディー」
「土塀で囲んだあとにさー、そのまま潰せばよかったんじゃなーい?」
「あーそれ言ったらアレク、また泣いちゃうよー」
「そっかー」
ククククッ
あはははは
なんだよ!その間延びした言い方は!2人揃って俺をバカにしやがって!
「フフ。先、行きましょうね」
あーぜったいマリー先輩も呆れてるよ!
でもね、うん、少しずつ魔力を拡げていく探索が機能してきた気がするよ。
【 ブーリ隊side 】
ブンッ!
ギッ
ブンッ!
ギッギヤッ
ブンッ!
ギッ
空中から迫り来るキラービーは、タイガーの一撃の下に葬られた。
ダンッ!
ブンッ!
ギーッ
ときにタイガー自身の跳躍は、軽く7メル(7m)を超えるものとなってキラービーを屠った。
ザンッ!
ギッ
ザンッ!
ギッギッ
僅かにブーリ隊本隊に近づくことに成功したキラービーもオニールの槍の一撃の下に急所を貫かれていく。
オニール自身の長駆もあって、その槍はブーリ隊本隊を悠々護る安心の不可侵エリアとなった。
ヒュンッ!
ギャーッ
ヒュンッ!
ギャーッ ギャーッ
ヒュンッ!
ギャーッ
密林に巣食うミニアラクネはビリーが放つ弓矢で近づくことも叶わなかった。
「ビリー、右斜め25メル(m)先にゴブリンメイジなの」
「ああ」
シュッ!
グギャーッ
密林に潜む狙撃手も、位置を特定されれば即座に射抜かれていった。
▼
「リズまた引っかかった。頼むよ」
タイガーがミニアラクネの蜘蛛の巣に絡まって身動きが取れなくなってしまう。
斥候のタイガーは自身の強い力もあって、アラクネの蜘蛛の糸も切り裂いて先を進むのだが、稀に何重にも仕込まれた蜘蛛の巣に引っかかっしまうことがあった。
蜘蛛の巣にぐちゃぐちゃにタイガーが絡まってしまうとオニールの槍の先でも解けないのだ。
「タイガーはもっと注意しなきゃダメなの」
「すまん。次は気をつける」
「本当にそうなの。ファイアボール」
ジュッ!
タイガーに絡みつく蜘蛛の巣を何事もないかのように燃やし去るリズ。
「ははタイガーもリズには叶わないよな」
ぱんぱんぱんっ!
ビリーがタイガーに絡みつく蜘蛛の糸を払いながら笑った。
サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…
サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクッサクッ…サクサクッサクサクッ…サクサクッサクサクッサクサクッ…
「‼︎」
「‼︎」
「‼︎」
「‼︎」
「‼︎」
タイガーが、オニールが、ビリーが、ゲージが、リズが。
全員が即座に反応した。
「ゲージ、ゴブリンたちに囲まれるぞ。150はいるな…」
「本当か!」
斥候タイガーの正確な索敵。
即座に。
右にオニール、左にビリーと、リズを囲むように陣形を組むブーリ隊。
「オイも出るか?」
「ああ。その方が早い」
「リズ。オイも出るからちょっと待っててくれよ」
「うん」
ゲージの背におぶさっていたリズが、スッとその背から降りる。
「荷物を含めて障壁の中に入っててくれ」
「分かったの。ゲージもがんばるの」
軽口を叩き合うふだんの2人からは真逆。
自然に。互いが互いを思いやる姿を見せるリズとゲージである。
ゲージが山のような荷物を下ろし、優しくリズを抱えてその上に座らせる。
「リズ、少し待っててくれよ」
「うん、わかったの、ゲージ。ホーリーガード(聖壁)!」
リズが山のような荷物の上に座って自身と荷物を障壁で囲ってすぐに。
ヒューン ドカーンッ!
ヒューン ドカーンッ!
地面にて炸裂するファイアボール多々。
シューッ!シューッ!
襲いくるエアカッター。
ヒュン!ヒュン!
ゴブリンアーチャーの弓矢。
ヒューン!
シューッ!
ヒュンヒュン!
荷物の山を背に、4人がゴブリンからの攻撃を避け続ける。
ときに身体を捻り、ときに刀で軌道を変えて。
ブーリ隊めがけて、四方八方からの魔法、弓矢、投石。
中でもリズが座る荷物の山は、目立つが故に、標的には格好のものとなった。
が・・・
カンカン!
カンカン!
カンカン!
ファイアボールもエアカッターもウォーターボールも、物理的攻撃の石礫や弓矢でさえもすべてを跳ね返す障壁。びくともしないリズの鉄壁ホーリーガード(聖壁)だ。
ギャッギャッギャッギャッ…ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ…ギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッギヤッ
それでも一分の隙もなく周囲に溢れ来るゴブリンの集団。
だんだん、だんだん接近してくる魔獣の群れ150体!
そこに。
スッと立ち上がった魔法使いのリズ。
「ゲージがんばるの。みんなも・・・がんばるぞっ!」
拳を上げて仲間を鼓舞するリズがいた。
「ギャハハ仕方ないのぉ。タイガー!」
「おぉゲージ!」
「オイとオメーとどっちが多く倒すか勝負するか」
「ヨシやるか!」
「オニール俺たちもやるか!」
「ああビリー、やるか!」
ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ…
150のゴブリンが5人を確かに囲んだそのとき。
「ファイアボム!」
リズが放った火魔法が5人を中心とした同心円上で炸裂した。
ギャーッ!ギャーッ!
ギャーッ!ギャーッ!
ギャーッ!ギャーッ!
突然炸裂した火弾に混乱を来すゴブリンの群れ。
「俺は前だ!」
ダッ!
「オイは後ろから行く!」
ダッ!
即座にゴブリンの群れに突っ込むタイガーとゲージ。
ギャッ ギャッ ギャッ
ゴォーーッ!
ゴブリンメイジのファイヤボール。無視。そのまま突っ込んで瞬殺していくゲージ。鰐獣人ならではの堅い皮膚にゴブリンメイジのファイアボールは軽い火傷程度であった。
ウォーターボール、エアカッターもまた同様。多少の擦過傷程度。
ギャーッ!
ゲージに向けて魔法を放ったゴブリンメイジから返り討ちとなっていった。
ブーリ隊に一切の死角は無かった。
―――――――――――――――
10階層主前に着いた。
「はぁ疲れたの」
「リズ、オメー寝てただけだろ」
「ゲージのいじわる」
ズンッ!
即座に膝あたりまで地中に沈むゲージ。
「リズ、まだまだ魔力が余ってそうだなギャハハ」
「魔力も使いすぎてお腹が空いたの。早くアレクに会いたいの」
「リズ、アレク君にもらった飴はもう無いの?」
ビリーが問う。
「そんなのはとっくに無いの」
「リズ、俺のをやるよ」
「僕もあげるよ」
オニールとビリーが腰のアレク袋のメイプルシロップ飴を差し出す。
「ありがとう。これで少しは持ちそうなの」
喜色満面、口いっぱいに飴を頬張るリズ。
仔リスのようなその姿を眺めながらブーリ隊もしばしの休息を取るのだった。
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