185 5階層へ
学園ダンジョンに潜る前。ボル隊の円卓で、マリー先輩、キム先輩に質問もよくした。
「それって次の階層を潜るためにレベルアップしなきゃだめってことですかマリー先輩?」
「レベルアップ?」
「あ、あ、あわわ。魔獣に対抗するス、スキルを覚えなきゃとか?」
「うーん。新しい階層を潜ったくらいでスキルは覚えられないわよ。でもアレク君の言うことも一理あるわね。
同じ魔獣でも下の階層に行く毎に強くなるから、探索する側も強くなったその魔獣に対応できるように強くなってる必要はあるんだよね」
「じゃあマリー先輩、今いる階層には次の階層に向けて、何かヒントがあるってことはありますか?」
「考え方としては正しいと思うわセーラさん」
階層毎に強くなる魔獣への対処法。
探索者がレベルアップするの?なんて質問をマリー先輩にしちゃった俺。
レベルアップは通じないよな。
あーダメだダメだ。無駄に昔の知識が出てくるよ。
だいたい俺が転生したなんて話、誰も信じないだろうし。
この世界には可視化されたレベルや、強さの指針となる数値なんて無いんだったよな。
脳内アナウンスに、たらららったたったーって音楽が鳴って「ゆうしゃアレクはレベル7になった」とか「20のダメージを与えた」とかはないんだ。
だからダンジョンのクリアや魔獣の駆逐をするには、そのときどきに必要となるレベル以上のものを持って自己責任でいかなきゃいけないもんな。
せめてレベルいくつの魔法を習得するにはあとどのくらい時間がかかるとか判ればいいのになぁ。
冒険者のランクアップもなんか今一わかりにくいし。
いろんな数値が可視化されたらいいのになぁ。
それともそんな能力を持ってる人がチート有りなんだろうか。
でもなんにもない俺は、これからも努力するしかない。
てか、俺以外に転生した人っているのかなあ?
そんな話は聞いたことないよなあ。
いても王国にはいないだろうな。
セーラが言った「今いる階層には次の階層に向けてのヒントがあるかも」っていうのはおもしろい発想だよな。
うん。俺もそう思う。
次の階層に向けての準備練習を兼ねているのが、その前の階層なんだろうな。だから、1つ1つの意味を考えながら探索していこう。
回廊を抜けて、3階層に入った。
なぜか強風の吹く山岳地帯だ。
空には雲が浮かぶ青空。
で、なぜに山岳地帯?どこから風?
ここ、地下だよね?
あー考えちゃダメだよな。こうなんだって思わなきゃ、うん。
「アレク、集中して!」
坂道の先100メル(100m)ほどに1体のホーンシープ(一角羊)が現れた。
デカいな。
ブッフッー、ブッフッー、ブッフッー‥
鼻息も荒く、真っ赤な目でこちらを睨みつけている。
あーコイツも赤い目だよ!なんでだよ!たまには平和的に「めぇ」とか鳴いてみせてくれよ。
肩に担いだ矢を番える。
ダッ!
ブメー!ブメー!ブメー!
メェメェとはほど遠い悪意のこもった叫び声を上げながら一気に走って来るホーンシープだ。
ガッ ガッ ガッ!
一歩一歩が5mほど。ジグザグに右へ左と跳ぶように駆けながら鋭利な角の頭を下げて急接近してきた。
弓矢の的が絞り難い?
そんなことはないよ。俺だってしっかり練習したんだ。しかもシルフィの補正付きだからね。
右へ左へと跳ぶ身体も、角のある頭はほぼブレないからな。真っ直ぐに眉間を狙って射るのみだ。
シュッ!
ザンッ!
ドウッ!
ドウッ!と倒れたその身体は軽く80㎏ほどはある山羊だった。
「アレク、すごいです!」
「うん、すごいねアレク」
「ホント!エルフ並みねー」
「いえいえ、それほどでも‥」
みんなに褒められたよ。
ああ褒められると正直嬉しいよ。思わずニマニマしてしまう。
山羊は肉もキープだな。
あと‥こいつの胆嚢は要るはずだ。
セーラが言った『次の階層に向けて何かヒント』が該当するなら、こいつの胆嚢は先々必要となるはずだ。
「アレク、それは?」
セーラが聞いた。
「ああ一角山羊の胆嚢だよ。こいつの胆嚢から作った丸薬は熊の胆嚢と一緒で毒消しやポーションになるんだ。けっこう貴重なんだよ」
「へぇー」
感心するセーラと、何故かお腹を隠すシャンク先輩だった。
薬。
ボル隊にはセーラはもちろん、マリー先輩も簡単な回復魔法(治癒魔法)は発現できる。ブーリ隊で回復魔法を発現できるのはリズ先輩だけだ。
どっちの隊もポーションに準ずる丸薬はあって困ることはない。備えあれば憂いなしだ。
シュッ!
ザンッ!
ドウッ!
その後も3体ほどホーンシープを撃退した。食肉用に解体したけど、胆嚢もちゃんとゲットしたぜ。
今日の夜にでもドライの魔法で乾燥して丸薬作りでもしようっと。
あっ、薬草もちらほら生えてたからな。ブレンドして作ろう。
薬草の見分け方や胆嚢から作る丸薬の作り方も、村のニャンタおじさんから教わったもんな。村にない希少な薬草は、領都サウザニアギルドの解体場のグレンさんから教えてもらった。もちろん魔獣の解体だって、その辺の鉄級冒険者の何倍もやった(やらされた?)もんな。
なんにも出来なかった3歳児の俺が、それなりにいろいろできるようになったのは周りにいた人たちのおかげだ。
3階層のあとの4階層も、同じような山岳地帯だった。
同じような地相や生態の階層が2つ続き、それぞれの2つめが難しくなるバージョンみたいだ。
3階層、回廊、4階層と幾度かの戦闘を経たが、危なげなく通過できた。
4階層を過ぎて、再び回廊になった。しばらくして、キム先輩が戻ってきた。
「キム先輩お疲れっす!」
「アレク大丈夫だったか?」
「はい、問題ありません」
「ヨシ。この先が5階層だ」
最初の目的地の前に着いた。
初めて見る扉。
5階層の前には2階建家屋を丸々入口にしたような高くて大きな扉があった。
「開けたら、やり直しはきかないわよ。みんないい?」
マリー先輩がみんなに問いかける。
「「「はい!」」」
いざ、最初の階層主バトルへ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます