181 緒戦
◎ ボル隊
キム・アイランド(斥候)
アレク(前衛遊撃)
マリー・エランドル(魔法士)
セーラ・ヴィクトル(聖魔法士)
シャンク(ポーター、盾、後衛)
先行するボル隊はキム先輩を先頭に、俺、マリー先輩、セーラ、シャンク先輩の5人縦列だ。
ザクッ ザクッ ザクッ‥‥‥
人1人通れるだけの狭い入り口から、地下階層へと続く階段を降りていく。
真っ暗ななはずの地下階段は月夜の明るさ程度の視界を保っていた。光源は光苔だろうか。
ダンジョンの導入部。
おどろおどろしくはないんだけど、たしかに禍々しい感じは否めない。
体感で2階建相当。
下りの階段が終わり、今度はそのまま段差のないフラットな直線道の回廊へと変わった。
石造りの回廊は横幅、高さ共に3メル(3m)。
10メル(10m)ほど続く直線が直角に右折しているようだ。
キム先輩の指図通り、訓練場に俺が発現したものと同じ構造だ。
ごくんっ。いよいよだ‥。
「アレク」
「は、はい、キム先輩」
「マリー、ちょっとこいつと先に行って来ていいか?」
「フフ。いいわよ」
キム先輩とマリー先輩の間では何かの意図が伝わっているようだ。
「よしアレク、俺と一緒に少し先に出るぞ。お前、ちょっと緊張し過ぎだからな」
「はい‥‥わかりました」
「いくぞ。ついてこい」
あーやっぱ俺の緊張感って先輩たちに伝わってたのかな?
俺に憑いてくれてる風の精霊シルフィもこの2、3日は何度も「アレクは緊張し過ぎ」って呆れてたもんなあ。
トーンっ、トーンっ、トーンっ
シュッタタタタタタタタタタッ
キム先輩と並んで地下通路を疾走していく。
トーンっ、トーンっと一歩一歩を跳ぶように疾るキム先輩と、風の精霊シルフィの力を借りた俺。
精霊魔法の俺の速さと変わらぬ速さをみせてキム先輩が疾走する。
トーンっ、トーンっ、トーンっ
足音どころか、気配さえ感じさせない独特な走り方だ。
キム先輩のご実家は暗殺稼業だっていう。俺からは信じられない荒唐無稽な話でさえも、この走り方を見ればさもありなんと思える。
でも、こんなに速いスピードでいきなり魔獣と鉢合わせしたらどうするんだろう。
スピードを緩めず右へ曲がり、直後には左折。
うん、いきなり何かがばあって出てきたらどうしよう?
と。
スッとスピードを落としたキム先輩。
「アレク、次の角を左に曲がったところに2体魔獣がいる。お前が闘れ」
「は、はい」
俺はキム先輩の指図に従い、抜き身の刀を手にしながら左折。
はたしてそこには一角うさぎとグレーウルフがいた。
◯グレーウルフ
灰色オオカミ。草原にみられる一般的な魔獣である。単体から2、3体程度であれば、単独の鉄級冒険者でも問題なく闘える。
3、4体以上の群れをなし、且つそれを統率するリーダー格がいる場合は危険度が一気に跳ねあがる。
一角うさぎとグレーウルフが闘わずに一緒にいる。共闘?
でも俺のほうが早い。
僅かな差であっても、先制できる俺が圧倒的に有利だ。
一角うさぎやグレーウルフにすれば、目に入った瞬間に攻撃を受けるんだから、準備もなにもあったもんじゃないだろうな。
視認と同時に、俺は連続刺突。
ザスッ!
キューッ
ザスッ!
ガーーッ
ザスッと突き刺す刀と断末魔の叫び。
あっという間に絶命する一角うさぎとグレーウルフだ。
格闘することもなく、瞬殺する。
でもダンジョン仕様の一角うさぎは最初から凶暴なの?
コイツ、まだおれを認識していないのに赤い目だったよ。怖っ!
「どうだアレク。少しは落ち着いたか?」
「はーはー。はい、キム先輩。ありがとうございます」
すーはーすーはーすーはー
深呼吸。
深く息を吸って、深く息を吐く。
落ち着いたよ。
レベッカ寮長、大丈夫だよ。もう緊張はしてないからね。
うん。大丈夫。俺はやれる。
倒した一角うさぎをささっと血抜きをして背中の背負子にいれる。
美味しくないワーウルフは魔石のみ採取。
背負子は血で汚れても大丈夫なようにスライム袋で内張した魔獣狩用の俺のオリジナル背負子だ。
初めてダンジョンで闘った記念すべき1体だからね。美味しくいただかないと。
ズズズズズーーっ
えつ?もう?早っ!
解体したあとの皮や骨は、早くもダンジョンに少しずつ吸収されていった。
ダンジョンは巨大な生物の内臓に喩えられるけど、まさにそんな感じだよ。人の胃や腸に栄養素が吸収されてるみたい。
ダンジョンは、それ自体が生き物とも言われるけど、こうして血肉を吸収して育つんだろうな。
俺が一角うさぎを解体している間、キム先輩は黙って待っててくれた。
「アレク、お前解体上手いな」
「3歳からやってますからね。これだけは自信あるんですよ」
俺は気になってたことをキム先輩に聞いてみた。
「先輩どうして魔獣がいるってわかったんですか?」
「ああ、索敵魔法だ。索敵魔法は人によって違うぞ。水を発現できる奴は空気中に含まれている水を感じるものだし、風を発現できる奴は風の流れから察知するからな。
俺のは闇魔法の応用だ。
お前はマリーと一緒の全魔法対応だから、覚えれば俺以上に察知できるはずだぞ」
「そうなんですかね。俺、今は何にもわかんないんですけど」
「この学園ダンジョン中に使えるようになるといいな。いいぞ、やり方は教えてやる」
「はい!」
あー俺、探知系の魔法は何にも使えないもんな。
「アレクいいか、今日一日お前が意識するのはまずは聴くことに集中して始めてみろ」
そう言ってキム先輩が自分の耳に手をやるジェスチャーをした。
「集中して聞くんですか?」
「ああ」
「集中して音を拾え。じっとしているような魔獣にも、僅かな息遣いや微かな身体の振動があるからな」
「はい」
「空気中から、大地の揺れから。音はいろいろなところから響いてくる。
今日はまず集中して聴いてみろ。
毎日やることを教えてやるから、1日それだけに集中して索敵してみろ」
「はいキム先輩!」
俺も索敵できるといいよな。
よし、頑張って覚えよう!
この後の俺はキム先輩のおかげで索敵能力が日々向上するのだった。
▼
階段の手前。ふりだし。
待っててくれた隊の仲間の元に戻ってきた。
「「「おかえり」」」
「お待たせしました!」
「大丈夫?アレク」
心配したセーラが近寄って声をかけてくれる。
「心配かけてごめん。緊張し過ぎてたけど、もう大丈夫だよ」
「そう。よかった」
セーラがニッコリと笑ってくれた。
マリー先輩もシャンク先輩も笑顔で頷いていた。
「アレクもういけるな?」
ニヤリ。キム先輩も言った。
「はい。もう大丈夫です」
俺もようやく笑顔になれた。
少なくとも無駄な緊張感はなくなった。
改めて先行ボル隊の出発だ。
「じゃあ行ってくる」
「「「(キム先輩)気をつけて」」」
トーンっ、トーンっ、トーンっ‥‥
軽く手を振って。
さっきと同じ。音もなく、あっという間にキム先輩が走り去った。
「さあ私たちも行こう」
「「「はい」」」
斥候のキム先輩が先頭を駆け抜けて行く。
俺達も小走りに後をついて行く。
ここからいよいよ本番だ。
向かってくる魔獣。
キム先輩は気付かれたり、動線の邪魔となる最低限の魔獣しか狩らないだろう。
その他の魔獣は俺が相手にする。
斥候のキム先輩が戻ってくるのは、後から続く俺たちに注意がけする必要があるときだけだ。
「まずは5階層を目指すわよ」
「「「了解です(はい)」」」
仕切り直して。
ダンジョン探索のスタートだ。
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