159 ビリー・ジョーダン
武闘祭3日め
1800人から選出する10傑に上位56人まできた。
だんだんと勝ち上がってきた。
トーナメントの奇数時のラッキーナンバー(ラッキーカード)は発動されたみたいだけど、俺には関係ないみたい。
俺昔からくじ運もなかったし。
てか、物語の主人公にそんなのは当たらないよ。
俺、一応主人公だもんね‥。
いろんなタイプの人と闘ってきた。
前戦のフォイジャー先輩は変な人だったけど、さすがに首席なんだな。火と水を同時に発現できるのはたしかにすごかったもんな。
さあ、がんばろう!
▼
「第6戦 123番アレク君、1060番ビリー君用意を」
「1年1組アレクです。よろしくお願いします」
「6年1組ビリー・ジョーダンだ。よろしく」
長身痩躯のビリー先輩は、肩に弓を提げて腰に小刀を持っていた。
メイン武器が弓なのは斥候職か遠距離支援タイプかもしれないな。
「提案なんだけど、アレク君も弓をやるんだろ?この試合に限って弓で勝負しないか?」
「いいですよ先輩」
「いいんだね!承諾してくれてありがとう。ルールは簡単だ。一射ずつ交互に撃ってその精度を競うっていうのはどうかな?」
「わかりました!」
「アレク君は土魔法も発現できるんだよね」
「はい」
「後で人型を作ってくれるかい?」
「わかりました先輩」
「じゃあ、悪いけど魔法着に印をつけるから脱いでもらっていいかな?」
「はい先輩」
そう言ってビリー先輩は俺と先輩の魔法着を重ねて大小に二重丸を描いた。
そしてこの魔法着を俺が発現させた土人形に着せた。
「魔法着は打撃もガードしてくれるんだけど、実はけっこう痛いんだよ」
ぺろりと舌を出しておどける先輩。
あー俺、この先輩好きだな。
なんかね、一つ一つが丁寧で清々しいんだよな。たぶん名前から貴族なんだろうけど、偉ぶらないこんな人もいるんだな。
「4射してより真ん中に近いほうで勝敗を決しよう」
「わかりました」
「どっちから射るかい?」
「先輩の好きなほうで」
「じゃあ僕が先行でいいのかな?」
「はい」
「じゃあ改めてよろしく。6年1組ビリー・ジョーダンだ」
「1年1組アレクです」
「準備はいいかね。それでは、はじめ!」
審判の先生も待っていてくれ、且つ俺たちの勝手ルールも黙認してくれたようだ。
先輩と俺が2人並び、対する形で魔法着の人形が2体並び立つ。
距離はコート面いっぱいいっぱい。
先行はビリー先輩から。
おお、構えもいいな。前の世界の弓道にも近い所作だ。
ピューーーンッ。
ザンッ!
わずかに放物線を描いて、真っ直ぐに飛ぶビリー先輩の矢。そのまままったくブレずに人型、ニ重丸のど真ん中を射抜いた。
「上手い!」
「ヒュー」
俺の感嘆の声にあわせて審判の先生も思わず口笛を吹いた。
こくんと頷いたビリー先輩がそのまま俺を促した。
「アタシに任せて!」
シルフィもはりきっている。
「いきます」
ピューーーンッ。
ザンッ!
ビリー先輩と同じようにわずかな放物線を描いて、真っ直ぐに飛ぶ俺とシルフィの矢。
これもまったくブレずに人型、三重丸のど真ん中を射抜いた。
パチパチパチ
「ヒュー」
ビリー先輩の拍手と先生の口笛が続く。
2射め、3射め。
さして会話することなく順に射る。
ピューーーンッ。
ザンッ!
ピューーーンッ。
ザンッ!
ビリー先輩の2射め、3射めも的のど真ん中。
続く俺もど真ん中。
パチパチパチ
パチパチパチ
お互いを讃える拍手を送る。
「ビリー先輩すごいな!」
「ええ、あの子すごいわ!」
シルフィも素直に賞賛するビリー先輩の腕前だ。
うん、めちゃくちゃうまいよ。ホーク師匠以外にこんなに正確に弓を射る人、初めて見たわ。
シルフィがいなかったらおそらく負けてたよ。
4射め。
だが、ここで悲運が訪れる。
ピューーーンッ。
ビューーー
突風だ!
ザンッ!
予期せぬ突風に揺られ、軌道から外れた矢はど真ん中を僅かに外れて二重丸を射抜いた。
うん、これは仕方ないよ。風がなかったらど真ん中だったよ、絶対。
ピューーーンッ。
ザンッ!
俺の4射めもこの突風に煽られたが、シルフィの精霊魔法の助けを借りた矢は、突風に負けず的の真ん中を射た。皆中。
パチパチパチ
「先生、僕の負けです」
「ビリー先輩、さっきのは不可抗力ですよ。もう1射闘りましょう」
「いや、今のはアレク君の勝ちだよ。同じような風の中でも君の矢は的を外さなかった」
「でも先輩‥」
「いいのさ。こんなに気持ちの良い勝負は久しぶりだよアレク君。次以降も負けるな。頑張って10傑にいってくれよ」
「‥はいがんばります。でも俺、もう1回先輩と闘りたいのでぜったい敗者復活戦を勝ち上がってきてください!俺、マジで待ってますから」
「はは、ありがとう。じゃあアレク君ともう1回闘るために僕もがんばろうかな」
後で聞いたがビリー先輩は、マリー先輩のクラスメイトとして昨年も10傑だった。
ダンジョンの貴重な遠距離戦力として活躍をしたそうだ。
◯ 第6戦 6年1組 ビリー・ジョーダン
弓術 アレクの勝利。
午後の第6戦で勝ち上位28人になった。
上出来だ。
ここから数日、休憩となる。
敗者復活戦を勝ち上がる2人を加えての30人で最終選となるからだ。
仲間からはモーリス、セーラも残った。
「モーリス、アレク、セーラあとはお前たちだけだ。がんばれよ」
「お前らが10傑にいけば1年生が3人なんて史上初になるぞ!」
ここからは仲間の応援をするぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここから何日かは敗者復活戦がしばらく続いた。
印象深い戦いも幾つもあった。
シナモンの試合は惜しかったけど、すごく見応えがあった。
1回めの敗者復活戦
第5戦ライラ先輩との一戦。
「シナモンとこの場所で闘れるとはね、アンタの姉としてうれしよ」
「ライラ先輩、ようやく闘れるにゃ」
シナモンは初級教会学校でライラ先輩から闘う術をあれこれ学び、今も姉として慕っているらしい。
戦闘は予想通りの展開となった。
ヘビー級のボクサー対軽量級のそれ。
ブーンッ ブーンッ
周りの空気を震わせて振り抜かれるライラ先輩の五指の爪。
そのライラ先輩の一撃は、1つ1つがめちゃくちゃ重い。
ガードなんて難しい。こんなの喰らったら即紫色だよ。
そんな一撃をギリギリに躱しながら細かな攻撃を繰り広げていくシナモン。
「にゃっ!にゃー‥‥」
ただ、だんだんとコーナーに追い詰められていくシナモン。
「フフ。ここまでだねシナモン。ずいぶん速くなったけどまだわたしには届かないわよ」
シュパパパーッ!
振り上げられたライラ先輩の左右の爪牙が、シナモンめがけて振り抜かれる。
「!」
「にゃーッ!」
そのギリギリを躱しながら自爆覚悟の突進だ。
「はやっ!」
突貫並みの速さで瞬時にライラ先輩の股抜きをするシナモン。
おお、抜けた!
すかさず反転するシナモン。
ヨシ、ライラ先輩の無防備な背中を取った。
ビターンッ!
「えっ?!」
その瞬間、シナモンの後頭部を襲ったのは、ライラ先輩の尻尾だった。
まるで鞭のような激しい一撃に地を這うシナモン‥‥。
勝敗は一瞬。
僅差に思えるほどの好勝負を繰り広げたシナモンとライラ先輩だった。
「正直、最後はびっくりしたわよシナモン」
「くっ、悔しいにゃー」
「成長したねシナモン」
「にゃっにゃー」
頭を撫でられて、にぱーっと笑顔を浮かべるシナモンだった。
うん、やっぱり頭を撫でるのが親愛の証しなんだな。
(獣人の男女間でそれは違うというのを間違えたまま、俺は認識したのだった)
「シナモン惜しかったなー。でもすごくいい闘いだったよ」
撫で撫で 撫で撫で
「ダーリン!」
にぱーっとした顔に紅潮が混じったようなシナモンだった。
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