158 ダク・フォイジャー


「ダーリン、ライラ先輩を無理矢理裸にして引っ掻かれて血を出したんだって?この浮気者ー!」

「やだっ!アレク、それ犯罪だよ!変態じゃん!」

「アレク、変態の犯罪者だったの?」


キーーとシナモンが怒っている。

しかも話が大きくなって、アリシアとキャロルには、俺が変態の犯罪者になってる。




「俺そんなことしてねーし」

「ホントー?」

「変態じゃねーし」

「じゃあ鼻血は出してないのー?」

「‥ちょびっと出たし‥」


「「「やっぱり変態よ‥」」」



だから違うって‥。




「でもライラ先輩ってマジで強いな」


男勝りっていうの?

パワーが凄いわ。うん、もし木刀で闘ってたら魔力込めてないと折れたかもしれないよ。


「ライラ先輩は学園の女子の獣人で1番強いんだよ」

「やっぱり‥」



ライラ先輩とは来年の10傑から2年続けてダンジョン探査をすることになるのだが、それは今はまだ先の話だ。



112人まで来たぞ。

前戦(第3戦)で1人ラッキーナンバーが出たみたいだけど、俺にラッキーナンバーは当たらないよな。

(一応俺、主人公だからね)




次の相手は3年1組首席という男子の先輩だった。


「3年1組首席のダグ・フォイジャーだ、農民」

「1年1組のアレクです。先輩よろしくお願いします」

「フン。農民が首席だと‥笑わせる」


小さな声で言ったのは独り言かもしれないけど、ちゃんと聞こえてるからね。

しかも握手も拒否されるし。

なんか小馬鹿にされてる感じだな。


名前からすると貴族?でも本当に農民や平民を馬鹿にする貴族って多いよな。意味もなく馬鹿にするなって言いたいよ、まったく。


「水魔法と火魔法のダブルの僕が芋臭い農民なんかに負けるかよ。お前を踏み台にして今年は10傑に入ってやる!」


なんかちょっぴりキレてるみたいなんだけど。

俺芋臭いのかなあ。くんかくんか。うん、自分の匂いはわかんないや。でも芋の匂いは好きだよ。



「アレク、こういう奴こそ魔法だけで叩きのめすのよ!ギッタンギタンにしてやるわ!」


先輩の顔の前でキレまくっているシルフィ。当然気づかれてないよね‥。


「123番アレク君と333番ダグ・フォイジャー君。用意いい?構えて」

「ダグ君構えて?」


構えも取らないままだよ、この先輩。

審判の先生も困ってるよ‥。



「はい、2人とも構えて」


ようやく嫌々ながらに構えるダグ先輩。


「シルフィ、やり過ぎたらダメだからね」

「キーー。仕方ないわね、わかったわよ」

「はじめ!」

「ファイアボール、ウォーターバレット」


右手にファイアボール(炎弾)を発現し、左手にウォーターバレット(水弾)を発現するダグ先輩。

さすがに言うだけのことはあるな。

ファイアボールはバスケットボール大だし、ウォーターバレットも拳大にしっかり凝縮してある。

でもね‥

ファイアボールもウォーターバレットも俺に届くまでもなく霧散しているよ。


「くっ!ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール」


ゴー ゴー ゴー 

ぷしゅん ぷしゅん ぷしゅん


向かってくるファイアボールはすべて途中でぷしゅんと霧散していく。


「くそっ!ウォーターバレット、ウォーターバレット、ウォーターバレット」


シュッ シュッ シュッ 

ぷしゅん ぷしゅん ぷしゅん


向かってくる水弾も俺に届く間もなくぷしゅんと霧散していく。



「くそっ!貴族の僕が農民なんかに負けてたまるか!ウォーターバレット!ウォーターバレット!」


ゴー  ぷしゅん

シュッ ぷしゅん


「ああーもう!コイツ本当に気分悪いわ!ちょっと頭を冷やしてもらおうかしら」


シルフィが手首をクルンっと回した。

あっちゃー、シルフィさんマジで怒ってるよ・・・。


シュッ ジュッ ジュワーー!


ダグ先輩が発現した水弾がくるっと方向転換し、しかも何発も重なった水の塊が先輩自身の頭上に到着した。


「えっ?何をした農民?」


バッシャーーーッン!


まるでバケツの水をかぶったようにびしょ濡れになる先輩。


「へっへっヘっくっしょーん。くそー、貴族の僕になんてことをするんだ、この平民風情がー!」


あーなんかもう憐れになってきたよ。もう降参してくれないかなぁ。


「くそー!こうなったら仕方ない。10傑用に取っておいた秘密兵器をお前に恵んでやる!ありがたく頂戴しろ農民」


こう言った先輩が、新たな詠唱を発した。


「いでよ、ビッグファイアボール!」


「・・・はあ?」


発現したのは、直径50㎝ほどの火の玉。海で遊ぶビーチボールサイズ。まさにビッグ?なファイアボールだった。


と、シルフィが俺の前に立ち塞がった。


「カモーン!」


えっ?なにそれ?

シルフィが何やら叫んでその小さな身体を1回転させた。


ゴォーーーーーーー!


向きを変えた火の玉が発現者のダグ先輩に向かって突きすすむ。


ゴゴゴォーーーーーーー!


しかも酸素を供給された火の玉はみるみるうちに大きくなり、2mを超える本当にビッグなサイズになって先輩を襲う。これぞ火の玉だよ。運動会の大玉転がしだ。


ゴオオオオーーーーーー!

ゴロンゴロンゴロンゴロン!


火の玉製の大玉が先輩向けてゴロゴロ転がってくる。


「うう、うわーん。やめてくれー。ヒー!た、助けてくれー。負けた、負けたよー。ごめんよー、もう勘弁してくれよー」



えっ?何その言い方?

これじゃあまるで俺がいじめっ子じゃん!


ガガガッ、ドカーンッ!


慌てて土塀を発現させる俺。

大玉転がしの火の玉が先輩を直撃する直前。

迫り上がった土塀にドカンとファイアボールが直撃。先輩を守って火の玉が消失した。


事実はそうなんだけどよ。

だけどね‥‥ダグ先輩をはじめ、見る人によっては俺が先輩を虐めてたように見えたんだって。

この日からまた、あの忌まわしい2つ名が復活したのだった。


「ヴィンサンダーの狂犬」ってなんだよ、それ!



◯ 第5戦 3年1組

ダグ・フォイジャー


魔法術、敗北を宣言させてアレクの勝利。



これで56人まで来たぞ!

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