150 転ばぬ先の杖


 花火大会のあと。

 ヴァルカンさんの工房にも行った。


 「ただいまヴァルカンさん」

 「おおアレクお帰り」


 にこりと頷いたヴァルカンさんの元で、3日ほど手伝いをした。


 相変わらず口数の少ないヴァルカンさん。寡黙って言うの?やっぱりほとんど話さないよ。


 「おはよー」のあとは二言三言、終わりの「帰りまーす」くらい?

 でもね、会話はしなくてもお互いが居辛いことは何もないんだ。

 ヴァルカンさんが俺にヴィヨルドのことを何か聞いてくることはないし、俺も仕事以外のことは特に何も話さない。

 いつもと同じ。

 黙々と仕事に没頭するんだ。


 工房では主にお弟子さんが作る武具の鍛造を手伝った。

 指示通り黙々と鋼を叩く。無心に、ただ黙々と叩いていた。

 うん、俺にはこのヴァルカン工房は居心地がいい。こことミューレさんの工房は俺好きなんだよな。落ち着く場所なんだよ。

 ただ‥もう少し綺麗だとさらにいいのにな。



 「じゃあヴァルカンさん。またしばらくヴィヨルドに行ってくるよ」

 「ああ。頑張れよ」

 「うん」


 工房入口付近にいた顔見知りのサラマンダーとも話した。


 「なあサラマンダー」

 「ん?どうしたアレク」

 「あのな、俺今ヴィヨルドのミューレさんの工房でお世話になってるんだけどな」

 「ああミューレのとこか」

 「うん。あのなあ‥ミューレさんとこ、めっちゃ清潔な工房だったぞ。それに引き換え、ここは‥お前‥可哀想だよな。ヴァルカンさんに掃除してもらったらどうだ?」


 フン


 サラマンダーはまるで大人がやるみたいな呆れ顔で言った。


 「アレク何夢みたいなこと言ってんだ。良いか?お前、ヴァルカンや弟子たちが掃除するタマに見えるか」

 「そ、そうだよな‥。でも文句も何も言わないお前は偉いよ!」

 「アレク、慣れだよ慣れ。住めば都っていうだろ」

 「お前‥苦労してるのね‥」



 ▼



 サウザニアの冒険者ギルドにも顔を出した。

 受付には今日も普通にマリナさんがいた。


 「あらアレク君、帰ってきたの?」

 「うん、夏休み中だからね。でももうすぐ戻るよ」

 「聞いたけど学園で1組の首席なんだって?」

 「まぐれだよまぐれ」

 「フフフ。でもアレク君はサウザニアの教会学校の代表でもあるし、サウザニアギルドの代表でもあるのよ。がんばってよね」

 「うん。がんばるよ」

 「それとねアレク君」


 急にマリナさんが怖い顔をして俺に迫ってきた。


 「な、なにマリナさん?」

 「ヴィンランドギルドのヒロコさんにもし男が出来てたらぜったい教えなさいよ、わかった?ぜったいよ!」

 「は、は、はい‥」


 (マリナさん、世界が違ったら絶対モテモテなのになあ。残念!)





 「グレンさんちわーす」

 「おおアレク。夏休みだったな」


 解体場のグレンフラー(グレン)さんのところにも遊びに行った。


 「どうだ?ヴィンランドは?」

 「うん、楽しいよ」

 「ロジャーのおっさんたちとは会ったか?」

 「うん、こないだ会ったよ。タイランドのおっさんもロジャーのおっさんも、なんかもうめちゃくちゃな人たちだね」

 「ワハハ。めちゃくちゃか。当たってるわ!ワハハ」


 グレンさんは腹を抱えて笑っていた。


 「まああれだ。学園に暇があったら、あのおっさん2人の話を聞いてみろよ。なんてったって特級のおっさんだからな。どんなくだらんことでもいい。そんで、あの2人から何かを盗んでこい」

 「うん、わかった」

 「あとなアレク、2学期は武闘祭だよな。最初から10傑に入ってこいよ」

 「うん。どこまでいけるかわかんないけど、やれるだけやってみるよ」

 「グレンさん、学園ダンジョンのことは知ってる?」

 「ああ、あれはヴィンランド学園生しか入れないからな。情報も何もまったくわかんねーよ」

 「やっぱり‥」

 「とにかくダンジョン探索開始から50年、未だに攻略はおろか深層階がどこまで続くのかさえわかんねーのは本当みたいだぞ」

 「そうなんだ」

 「ヨシ。じゃあちょっと手伝ってけ。今日は忙しいんだよ」

 「なんでそこで手伝わなきゃならないんだよ‥」

 「うるさい。早く中に入ってこい」

 「はいはい、わかりましたよー」

 「はいは1回でいいんだよ!」

 (ちえっ、言い方まであのおっさんたちと似てるよ!)




 結局グレンさんの解体仕事をめいっぱい手伝ってから帰った。

 遅いと師匠に叩かれまくったのは予想通りだった‥。



 ▼



 「シルカさん、こんちはー」

 サンデー商会にも遊びに行った。

 シルカさんからは、こないだの反省会の続きとして今後こうしたら?とアドバイスをもらう。


 「アレク君、花火大会とバザー、今度からは出店する商会から出店費用の名目で協賛金を集めるといいっスね。そのお金で花火代や照明用の魔石代とか必要な費用を賄うっスよ」

 「さすがシルカさん。それ良いアイデアだよねー」


 たしかにそうだ。照明用の魔石には俺とアンナのお父さんのニャンタおじさんで小魔獣を2、3日かけて遠くに行って狩まくっていたからな。

 それをもっと他のことに充てればさらにいいことができるかもしれない。

 これはさっそく村長のチャンおじさんにも言っとかなきゃな。

 会議のときの師匠の話じゃないが、今後俺は率先して何かをやるのではなくもっと裏方に徹していかないとな。

 いずれ来る別れの日のためにも。



 「それと商売の流れなんっスけど、今のサンデー商会を中継としたアレク工房とデニーホッパー村の商取引をそろそろアレク工房が表に見えない形にしたほうがいいっスよ」

 「えっ、それって領からの税からみだよね?」

 「そうっス。ナターシャさんの話じゃないっスけど、領からはあと2、3年もすれば税の話が来るっス。もしかするともっと早くに。そのとき、アレク工房のアレクという人物もデニーホッパー村の住民だというのが判ればどんな人物か調べるでしょうし、何より必ず村の税金自体を上げてくるっスよ」

 「そうかもね‥」

 「そうっス。だから村との取引はサンデー商会とミカサ商会のみにして、アレク君自体は表に出ないほうがいいっス。王都にあるアレク工房だけが名を売りつつ税を納める形にしないときっと良くないことが起こるっス」

 「そうだね」


 それは俺も思ってたことだ。


 「村がうわさ通りにますます発展していると領主様が知ったら、たぶんあまりよくないことが起こるって考えてたほうがいいっス」

 「そうだよね‥」


 シルカさんの言う通りだ。発展に伴い、さまざまな障害も起こるに違いない。これからはますますいろいろと考えていかないとな。

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