149 俺がいなくても
嫌な話をすると言ってシスターナターシャが口にしたのは、このデニーホッパー村が近い将来に直面する問題についてだ。
現実的な話として再来年にはこのデニーホッパー村も免税期間も終わり、領からの課税対象になる。当面は村税と人頭税だ。
噂に聞く現ヴィンサンダー家の散財っぷりや財の目減りと商会への無心、既存課税額の上昇への不満等々。
商業ギルドにいくと俺の耳にも聞こえてくるからね。
やっぱりいつ課税の話が出てもいいように村の対策をしないといけない。
騎士団の詰所ができ、騎士が常駐してくれる可能性もある。
治安維持のためにはいいことなんだけど、やっぱりこれも無償の奉仕活動であるわけはない。
免除されている後期教会学校の件もおそらく再来年からは領都サウザニアの教会学校に4年生の子どもたちから上の生徒が通うことになる。かと言って普通は通える距離じゃないから、これもシスターナターシャの言うようにサウザニアに村の寮を作ることも検討しなければなるまい。
いろいろな責任も増えてくるんだな。
楽しい楽しいで終われないんだよな、やっぱり。
【 ジャンside 】
シスターナターシャの話には本当に驚いた。
俺は花火大会の成功が嬉しくて、このことだけに気持ちが舞い上がっていたから。
あらためて思うけど、俺たち、つくづくアレクに頼り過ぎていたのかもしれないな‥。
「では最後に師匠お願いします」
師匠、ディル神父様が話す。
「花火と鎮魂祭は間違いなく大成功じゃ。代表して今ここにおる皆が作り上げた成果じゃよ。これは誇っても良いぞ。ワシも皆を誇らしく思う。
さて‥‥ワシからも最後に耳障りとなろう話をしようかの。ジャン」
「!は、はい?」
師匠がジャンを指名して質問をし始めた。いつもの好々爺の雰囲気じゃない師匠……。
「1つワシの質問に皆を代表して答えてくれんかの?」
「はい!俺でよければ」
「今日の花火大会は誰の考えじゃ?」
「アレクです」
「温泉は誰が作った?」
「アレクです」
「宿泊施設は誰が作った?」
「アレクです」
「村の土地改良は初め誰が良くした?」
「アレクです」
「「「・・・」」」
「皆ももうわかっておるの。開拓村デニーホッパー村の我らはアレクに頼りすぎた。もちろんそれが悪いことではない。アレクも村が大好きだからの。ただの‥もし‥もしアレクがいなくなったらどうする?
村は廃れていくのか?
村の発展はここまでと諦めるのか?
どうじゃジャン?」
「あきらめません。村はもっともっと良くなります!」
「うむ、ジャン、良い答えじゃ。もちろんアレクがいなくなるわけではない。ただやはり少しアレクに頼りすぎておるな。頼りすぎておることに気づかねば、もし本当にアレクがいなくなれば皆は途方に暮れることになろうな」
「じゃからワシら村の者はアレクがいなくても良い村作りをし続けなければなるまい。
幸いアレクはこれから5年以上はヴィヨルドじゃ、帰ってくるのは夏や春の一時期だけじゃ。頼ることはできまい」
大きく間をおいて、師匠がもう1度尋ねた。
「ジャン、お前のいちばんの友だちは誰じゃ」
「アレクです」
「ではもうわかるの。友だちがやってくれたように、今度は友だちのために何かをやるべきじゃの」
「「「はい!」」」
アールとジョエルも一緒に応えていた。
今はヴィヨルドでの寮暮らしだ。おそらく俺はその後に王都学園に進むだろう。
そして・・・
いつか俺はこの村を出て行くんだろう。
今日、師匠やシスターナターシャが俺のことを思ってこの場で言ってくれた意味。
その意味を考えなきゃな。
でも、今はそのときが来るまで、少しずつやることをやる努力をしなきゃな。
花火大会の終わったあとの、なんとも言えない寂しさを一層深く思う俺だった。
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