121 剣術決勝


「決勝アレク君対モーリス・ヴィヨルド君。クラス分け試験の最後。これから始めます」


先生から丁寧な拡声魔法のアナウンスをうけて最後の決勝が始まる・・・始まらなかった。


うおおおーー


なぜか男子中心の歓声が聞こえてきた。


「ここからマイク代わりまーす。6年芸術クラブのステファニーでーす。みんなー私の声届いてるー?」


うおおおーー

聞こえてるよおーー

ステファニーちゃわーんわんわん!


なぜかアナウンスが代わり、いきなりアイドル歌手のように女子が登場した。

会場の男子は大盛り上がり。不思議な合いの手わんわんわんを繰り広げる。

たしかに‥ステファニーちゃんはかわいかった。

ヒューマンに犬系獣人の血が入ったミックスのようで、小柄、つぶらな瞳に俺は思わず釘付けになった。

さらには、お尻のモコモコの尻尾!

茶色の毛糸の玉のような‥‥そうだよ!家でも飼ってたトイプードルのぷーちゃんだよ!

見上げてくるつぶらな瞳にモコモコの尻尾。何というか、守ってあげたい保護欲?が湧き起こる。

訓練場内に湧き起こる合いの手に俺もシンクロしていた。


ステファニーちゃわーんわん!かわいいわん!


(はっ!俺、またどっかに逝ってたよ)



「はーい、じゃあ対戦者のプロフィールを簡単に説明するよーわんわん」


わんわん


「アレク君。お隣のヴィンサンダー領デニーホッパー村の農民の子だよー。デニーホッパー村は最近村の農地改革が成功したって有名なところだよねー。でアレク君はそこの村出身でお父さんもお母さんも農民なんだって。あとはなんと2つ名もあることが判明したよー。同じヴィンサンダー領出身の3年生カーマン君情報ねー。ヴィンサンダー領の領都学校の生徒なら誰でもみんな知ってる2つ名だそうだよー。2つ名は『ヴィンサンダーの狂犬』なんだってー」


ぷっ‥ギャハハ〜狂犬かよー


観覧席中大爆笑となった。


(カーマン許すまじ!)




「対するは、モーリス・ヴィヨルド君。我らがヴィヨルドのご領主ジェイル・ヴィヨルド様の次男だねー。お兄様はあの有名なヘンリー様。誰もが知ってるヴィヨルド騎士団の若き天才ヘンリー様だよー」


うおおおーーーー


キャーーーーー


再び巻き起こる歓声の嵐。


「チッ」


そんな中、モーリスが舌打ちをするのを俺は聞き逃さなかった。



「それじゃあさっそく闘ってもらうねー!2人ともいーねー。いくよー・・・始め!」


ピーーー!


よーし、今日最後の一戦だ!


「アレクだ。よろしく」


「モーリス・ヴィヨルドだ。よろしく」


軽く拳を打ち合い、改めて2人、構えをとる。


バスターソードを両手に、正眼に構えるモーリス。剣先は俺の喉元に当てている。

刀を両手に中段正眼に構える俺。

剣先は真っ直ぐモーリスの喉元に。

刀と大型剣のバスターソードの違いこそあれ、その構え、足の運びともに、モーリスも俺もほぼ同じであることにそれぞれが思い入る。モーリスも全く俺と同じことを思ったのだろう。


「クック。アレク、同じ王都騎士団だな」


「ハハ。ああモーリス。同門だな」


ヴィンサンダー領とヴィヨルド領の違いこそあれ、ともに王都騎士団の流れを汲む剣術だ。


カーン カーン


硬い、まるで金属音の響き。

一合二合と打ち合うが、同門ならでは手応えを感じる。

そりゃそうだろう。

ヴィヨルド領で剣の道を歩む者の多くはその目指す頂が王都騎士団であるのだから。

だけどその王都騎士団流ともいえる剣術の源流を作った1人が俺の師匠ディル神父様だとはモーリスは知るまい。


「アレク、さすがに強いな」


「モーリス、お前もな」


「ではこれでどうだ?」


カッ カッ カーンッ


モーリスがバスターソードにややトリッキーなフェイントを織り交ぜつつ刺突を加えてくる。


「へぇー、これはモーリスお前のオリジナルか?」


「ああ」


会話を交わしながらの剣戟である。

天才の名を戴くだけあるモーリスの剣技は、自身の努力に美しさまでを加えた太刀筋だ。もっと上手くなりたい、もっと強くなりたいと日夜努力に努力を重ねていることが如実にわかる太刀筋だ。だって俺自身がそうだから。

だが‥。

モーリスには負けられない理由がある。

俺にはディル師匠とホーク師匠という2人の師匠から直接剣の教えを受けているんだ。だから同年代に負けることは決してない。さらには精霊魔法という人外ともいえる武技が俺にはある。

そして何より、この学園のクラス分けが俺のゴールじゃない。俺のゴールはまだまだ遥かに先なんだ。


「モーリス、ここからは一気にいくぞ。ついてこいよ」


「フン」


モーリスが改めてバスターソードを構え直す。


「おおおーーー」


俺は俺自身が持つ、今現在で発現出来うる力をすべて解放した。
























新1年生を含めて。

訓練場の誰もがしばらく言葉もなかった。

そんな静かな訓練場でただ1人、セーラ先輩のみが微笑んでいた。



「今日の新入生クラス分け試験はこれで終了よー。剣術のベスト8を発表するわーん。今年の新1年生は8傑だわーん」


トイプードルみたいなステファニーちゃんが拡声魔法で訓練場内に告げた。


剣術

1位アレク

2位モーリス・ヴィヨルド

3位セロニアス

4位ハンス

5位トール

6位セバスチャン・ジャンリー

7位シナモン

8位ハイル


後の6年。黄金世代と呼ばれる8傑だ。



「新1年生のみんなー、クラスは明日の掲示板を見てねー。それと授業も課外活動もぜんぶ含めて学園生活を楽しんでねー。芸術クラブにも入会してくれる子を待ってるからねー!今日はこれで終了ー。みんなー、気をつけて帰ってねーわんわん」


「わんわん」


一心不乱にステファニーちゃんを見つめながら、思わずこう言ってしまっていた俺。握手をしようと俺に近寄っていたモーリスが、あの可哀想な子どもを見る目で俺を見つめていたという‥。



帰途。

医務室に寄り、ハイドを起こして帰る。


「ハイド帰るぞー」


「あーアレク、おはよ。今日は試験がんばろうな」


ハイドは寝ぼけていた。





まだ興奮していたのか、なかなか寝付けなかった。


それにしても楽しかったな。

体術の獣人、天才剣士、聖魔法使い。

何せ超えるべき学ぶべき目標がたくさんいる。


この同級生のメンバーとは後の6年生でダンジョンで全員が一緒に潜ることになる。

ヴィヨルド領学園で1番且つ歴代でも稀な「豊作の年」だったいう。



次回 1年1組

12/05 21:00更新予定です

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