118 シナモン
剣術。ベスト8が出揃った。
(昏倒したハイルはやはり大事をとって欠場となった)
準々決勝だ。
剣術は、このクラス分け試験の最後の実技とあってか8位までの実順位がつく。
(欠場するハイルの8位は仕方ないだろう)
くじ引きの結果、準々決勝、俺の相手はさっきの獣人の女子になった。ハンスの幼馴染のシナモンさんだ。
「シナモンさん、こんにちは。俺アレク。ハンスの幼馴染なんだってね」
「あーウチもハンスに聞いたにゃ。お前、ちょっとはできるヒューマンだってにゃ」
「ありがとうね」
(でた!猫獣人のにゃだ!ニセモノじゃなくって本家本元のにゃだよ、にゃ!しかもツンデレだし!)
「‥おーい、聞いてっか?てめーどっか逝(い)ってんじゃにゃーぞ」
「ハッ!ごめん、ごめん」
(俺、この癖治さなきゃいけないや‥)
「シナモンさんは何猫獣人?俺の村の幼馴染は山猫獣人なんだよねー」
(でもアンナといい、どうして俺は獣人の女子だけには緊張せずにふつうに喋れるんだろう?)
「はあー、山猫にゃんぞと一緒にするにゃい。ウチは豹にゃい!」
「へぇーそうなんだ」
(山猫と豹の区別がぜんぜんつかないよ。でもアンナと同じでかわいいよなー、うんめちゃくちゃかわいい猫だ‥)
「てめー‥」
「さー始めるよ。ベスト8準々決勝一本勝負、アレク君対シナモンさん」
「ヒューマンなんかウチのスピードにはついてこれないにゃ!」
(おー!にゃだよ、にゃ!やっぱりにゃが似合うのは本家本元の猫系のにゃだよなあ)
(にゃんだコイツ?さっきからずっとヘラヘラ笑ってやがるにゃ。どこ逝ってんにゃ。ウチをバカにしてやがるにゃ!)
これまでと同じテニスコートほどの訓練場。3mほどの距離で対峙、開始の合図を待つ。
「始め!」
ピーーー!
「にゃー!」
開始の合図と同時に木爪を前に突き立てて飛びかかってきたシナモンさん。その行動を読んでいた俺はすかさず彼女の足下をスライディングするように移動。ちょうど立ち位置が逆になった。
おぉー!!
ワーワー
観客席から歓声が湧きおこる。
「ふっ、ふざけるにゃー!」
シュバババーッ
両爪を全面に、猫パンチを繰り出すシナモンさん。
(えっ?俺なんか怒らせた?)
そんな猫パンチの彼女を丁寧にいなしながら少しずつ後退する俺。
短剣やダガーと同じく、刀の腹で受ける爪などの短い武器の対処はおもしろいよなーなどと思いつつ、今度は逆に俺のほうから仕掛ける。これを両手の木爪で払いつつ後退するシナモンさん。
ハーハー ハーハー
肩で息をするシナモンさん。
俺はまだまだぜんぜん大丈夫だ。
「ヒュ、ヒューマンのくせにやるにゃ‥」
「あはは。ありがとうね」
「でも負けない‥にゃー!」
シナモンさんの息が上がってきた。それでも木爪を前にいきなりのトップスピードで再び猛烈と迫ってきた。突貫並の速さだ。速い。
精霊魔法を身につける前の俺だったら対処出来なかったであろうスピードだ。
俺は再びシナモンさんが繰り出す猫パンチの木爪を右に左にいなす。
ハーハー ハーハー ハッ!?
「!!」
そして、シナモンさんの攻撃が再び止んだ瞬間。俺はシナモンさんを上回るスピードでシナモンさんの真後ろに回った。そしてそのまま木剣の先で軽くシナモンさんの肩をポンポンと叩いた。
即座に全身がピンク色に変わるシナモンさん。
「にゃ!うそにゃ‥」
愕然と崩れ落ちるシナモンさん。
(うおー猫だよ、猫!しかもピンク色の猫だよ!耳がペタンってなってるよ!モフりたくなる!かわいいよなー)
俺はしゃがんで自然とシナモンさんの頭を撫でてしまった。
もちろん何の悪気も下心もないよ。
だって、耳が垂れて意気消沈してしまったピンク色のかわいい猫さんだもん‥。
「おつかれーシナモンさん」
なでなで なでなで
「えっ‥な、何にゃ‥そんな、ウチ‥いきなりにゃ‥」
ピンク色となった顔の下で、シナモンの顔が紅くなったことに気づかないアレク。
モジモジし出したシナモンの耳が再びぴーんとなったことにも気づかないアレクである。
(馬鹿かアレクは‥)
訓練場の枠外でこれを観ていたハンスが両手で天を仰いだ‥。
この翌日からシナモンさんが俺になぜかいつもべったりするようになった。
なぜ?
シナモンさんやハンスが居るヴィヨルド領の獣人社会では、女の子の頭を撫でるのが求愛の行為だとかなり後から知る俺だった‥。
次回 セロ
12/03 21:00更新予定です
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