117 モーリス・ヴィヨルド


クラス分け試験、剣術。

290人の生徒も僅か10人ほどに減ってきた。

2番訓練場は俺を含めて四隅に4人。あっという間にスペースが広くなった。

中央では2組の剣戟が続く。

1つは3人組のヒューマン対1人の獣人。

獣人は木爪。

目線や声かけで合図を送っているヒューマンの3人組は仲間のようだ。

獣人はハンス。

俺と体術を戦った狼獣人のハンスだ。

正面に相手がいなくなった俺は静観の構えだ。

四隅にいる他の3人も奇しくも俺と同じように思っているみたい。静観。


格闘(体術)と変わらず剣術でもハンスは強い存在感を見せる。ハンスからは強力な魔獣を前にしたような威圧感もある。こうしてみれば獣人の爪はダガーと変わらないんだよな。あの爪は外れない短剣だよ。

ハンスの剣気に、囲んでいるはずのヒューマンが押し負けている。そしてハンスは油断なく1人の男の子のみに視線を向けて迫る。


「くっ!くそー」


睨まれたヒューマンの男の子の剣先が震えている。

もう気持ちでハンスに負けているよ。


ブンッ


ハンスが振り抜いた木爪は男の子の剣を叩き落とした。


ガツン


素手となる男の子。


「えっ?」


剣を落として茫然としている男の子。


ポン ポン


彼の肩を軽くたたいて赤色に変えたハンス。後ろに残った2人も茫然としている。まさに戦意喪失だ。ハンスが2人の肩もポンポンと叩いた。

こうして1対3の戦いは剣戟になることもなく、勝敗が決した。


おー、やっぱり強いな ハンスは。

堂々と闘う姿勢にも共感できるよ。


「ハンス!グッジョブ!」


「アレク!」


カッコいいな、ハンスは。

キラキラ光る白い犬歯も眩しいぜ。

(イケメンなところはちょっぴり悔しいけど)


そのままハンスと俺の2人は横並びになり、中央のもう一組の剣戟を観戦した。

こちらは獣人の女の子1人を2人組のヒューマンが挟み撃ちしている。

獣人の女の子は、最初の予選でも目にしたとても速い子だ。

金色とブラウンのツートンの髪をツインテールに。クリクリした大きな猫目。短パンの下からはしなやかな肢体がのぞく。短めのシャツからははち切れんばかりの双丘が主張を止めない。

小柄なんだけど抜群のスタイルの良さだ。思わず視線が固まりそうになる俺。だってかわいいもん。

(村のアンナもそうだったけど、獣人の女の子ってみんな早熟なんだよな)

山猫?ピューマ?豹?うん、わかんないけど何かの猫系獣人だ。


剣戟は佳境。

2対1。しかも男が2。なんか嫌な展開だ。俺は男なら1対1で闘れよと思ってしまう。

じりじりと獣人の女子に迫る2人組。

すると、獣人の女子はあっという間に跳び上がり一方の男の子の後方へまわった。


ババババーー


猫パンチのラッシュだ。

右手の木爪で一閃、続く左手の木爪でもう一閃。右左右左右左‥。

さらにその勢いのまますかさず2人めの男の子にも一閃。

わずかな時間で、2人を木爪で切り裂いた。

あっという間に赤色を超えて紫色の顔になる2人の男の子。


「くそー」


「やられたー」


天を仰ぐ2人組の男の子。でもこれ、もし木製の爪じゃなく実戦だったらけっこうヤバかったかも。やるなーあの子。


「アレク、あの子はシナモン。俺の幼馴染だ」


「へー。けっこう速いな」


「ああ」


「はい、2番訓練場そこまで!」



2番訓練場からはハンス、俺を含めて6人が勝ち残った。




隣の1番訓練場にはいつの間にか2人しかいなかった。向き合うのはバスターソード(大型の西洋剣)を正眼に構える子と短めのダガーを構えるハイルだった。

人数的にはもう2次試験も終わっているはずなのだが、このまま流れで戦いが続いているようだ。

おそらくバスターソードの子が他を圧倒する力をふるった。その圧巻の技量に対するべく、自然と共闘することにした他の多くの受験生。1対多数。

だとすれば、ハイルはその残った最後の1人かもしれない。


(ハイルがんばれ)


バスターソードを片手で構える長身のヒューマンの子。


(強いな。構えに隙がない)


佳境。

ダガーを前にハイルが腰を屈めて突貫の構えに入る。


ユラユラ ユラユラ


足首をユラユラと屈伸をするように緩めているのは、これから発現する突貫の前準備だろう。

バスターソードを構えた子もやや腰をおろしてハイルを迎撃する構え。といっても悠然とした構えなんだが。


「突貫!」


ダガーを手にハイルが一気にトップスピードに入る。

ハイルが相手の間合いに入る直前。

バスターソードの子が大剣を上から振り下ろした。


ダーンッ!


うっ


振り下ろされたバスターソード。地面に突き刺さるダガー。あわせて昏倒するハイル。

刹那の勝敗はバスターソードの子の圧倒的な剣技に軍配が上がった。

バスターソードの子が刀を置いて、そっとハイルを抱きかかえて訓練場に控えていた先輩たちの担架に乗せた。先輩たちによって医務室に運ばれていくハイル。聖魔法のセーラさんも付き添っているから心配はなさそうだ。

なんか良い奴だなと思った。


「ハンス、あいつは?」


「ああ強いだろ。モーリス・ヴィヨルドだ。領主の子だよ」


「へー」


「アイツは剣一筋、真面目だぞ」


「へー、いーじゃん」



「ああ。ただな‥」


「ただ何?」


「同じクラスになるんだ。すぐにわかるよ」


「ふーん」





ハイルは負けてしまったけど、1番訓練場の最後の2人になったんだから、悪くても2組か3組には入れるだろうな。後で見舞いに行こう。


結局2次試験からは7人が残った。



「クラス分け。剣術の試験。最後に決勝になります。7人集まって」


「「「はい!」」」



狼獣人のハンス、豹獣人のシナモン、バスターソードのモーリス・ヴィヨルド、ハイルと短い1日の間に知ることになった4人が出揃った。

ベスト8になった。いよいよあと少しだ。



次回 シナモン

12/03 12:00更新予定です

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