084 魔獣との戦い方


「アレク君なんか久しぶりねー。そうそうおめでとう!ランクが上がったわよ。4級赤銅ランクよ」


 久しぶりの冒険者ギルドで、受付嬢のマリナさんが言った。


「本当?やったー!ついに青銅ランクとおさらばだー!」


 やったぜー!

 これで魔獣狩りもできる。

 と言っても俺が倒せる魔獣はまだまだ最弱レベルの一角うさぎしかいないんですけど。

 これは近々ニャンタおじさんに魔獣狩りに連れて行ってもらわなきゃな。



 ◎ ギルドランク


 最底辺の青銅ランク(5級)は薬草狩りか掃除などのお手伝い、郵便配達などが主体。初心者の致死率を下げるため一切の魔獣狩りは禁止されている。

 赤銅ランク(4級)からは魔獣狩りもできる。と言っても弱いモンスターのみだが。もちろん自己責任で。大怪我や死ぬリスクもここからは一気に跳ね上がる。



 冒険者ギルドの受付へ行くと、初めて見る猫耳の女性が出てきた。


(猫耳だよ…。しかもかわいい‥)


「いらっしゃいにゃ、冒険者ギルドに何かご用ですかにゃ?」


(お約束の「にゃ」だよ!テンプレばんざーい!)


「あ、あのー俺アレクって‥」


「ああアレク君」


「ちょっとマリナお姉さん‥」


 という前振りがあったのがこの1、2分前のことだ。

 そんな猫耳女性失意な俺に希望を与えてくれたのが、ランクアップの話だった。


「マリナお姉さん、改めて魔獣狩りについて教えてください」


「いいわよ。まず、ゴブリンなど低レベルの魔獣は基本的に駆除の証として右耳を持って来てね。魔石はかなり安いから判断は任せるわ」


「はい」


「アレク君はしないだろうけど、右と左の違いはすぐにわかるからズルしちゃダメよ。最初はレベルの低い魔獣からにしなさいね。調子に乗ってオークやオーガにやられる若い冒険者はいくらでもいるんだからね」


「はいマリナお姉さん。気をつけます」


「ここで2、3年頑張ったらランクも鉄級(3級)になるわ。アレク君の歳で鉄級はいないんじゃないかしら。頑張ってね」


「はい、がんばります!」


 そんな4級赤銅ランクの俺が倒すことができる弱い魔獣と報酬はこんな感じである。



 ◎対象魔獣(報酬/1G=1円)


 ・スライム(報酬なし)

 ・チューラット、アルマジロー(10体毎/100G)

 ・一角うさぎ(100G)

 ・ゴブリン(100G)

 ・ゴブリン亜種(300G〜)

 ・ワイルドボア(500G)

 ・ワーウルフ(500G)

 ・ファイアフォックス(1,000G)

 ・オーク(3,000G)

 ・ブラッディドッグ(4,000G)

 ・ワイルドディア(5,000G)


 おなじみ且つ初級者向けと定評のあるゴブリンが1体100G(100円)〜。

 底辺ランクでは魔獣狩だけで食べていくには厳しそうだ。

 ただそれぞれの亜種は倍から数10倍の金額がつくこともある。

 もちろ金額に応じて危険度ははねあがるが。


 ようやく俺も魔獣狩りができる。がんばるぞ!



 ▼



「ニャンタおじさーん、今度魔獣狩りに連れてってくださーい!」


「アレク君どうした?」


「はい、俺ようやく4級になれたんです」


「おお、それはおめでとう!じゃあ魔獣狩りができるな。でも気をつけないとダメだぞ。最初が危ないんだからな」



 ▼



 次の休養日、さっそくニャンタおじさんと魔獣狩りに行った。村の近くは魔獣も少ないから遠出である。


 いつも肌身離さず持っているドラゴンの魔石は家に置いてきた。

 だってアレ持ってたら、魔獣が逃げちゃうからね。



「はーはー。しかしアレク君、本当に成長したなぁ。もうおじさんよりも速いじゃないか‥」


「へへっ。毎日走って領都まで往復してるからね」


 シルフィの精霊魔法を発現できるようになった俺は、山猫獣人のニャンタおじさんの全力の移動速度より速くなった。

 ただ密林や高低差のある生い茂った木々を抜けるのには、いまだにニャンタおじさんには敵わない。さすが山猫獣人さんだ。


「うん、アレク君の解体も文句なしだ。上手になったね」


「ニャンタおじさんのおかげだよ」


 解体の仕方もかなり慣れてきた。


「アレク君、今日から少しずつ魔獣のランクをあげていくよ」


「はい!」


 ニャンタおじさんは身近な狩りの先生だった。


「伏せて」


 急にニャンタおじさんが言う。


 前方50mくらい先の草原に、一体の全身緑色の子どものような二足歩行の魔獣がいた。


「あそこにいるのがゴブリンだ。単体や2、3体はたいしたことないけど複数体は気をつけてな」



 ◯ ゴブリン

 緑色をした120㎝前後の人型魔獣。単体は弱いが集団化すると危険。稀に集落を作り、亜種のホブゴブリン、キングゴブリンなど知能の高い者が統率力を持つとかなり危険である。

 食用には不向き。魔石もほぼ価値なし。駆除の証は左耳。



「アレク君よく見てろよ」


 ニャンタおじさんがわざと存在を明らかにして立つ。


「ギャーギャッギャッ!」


 ニャンタおじさんに気がついたゴブリンは敵意をあらわに、一直線にむかってくる。

 ヒューマンの子どもが十全に走るちょっと前。1、2歳児のような走り方だ。

 ゴブリンを前にスッと立ったニャンタおじさん。

 ゴブリンからすればあと少しで捕まえられるというそのときに。

 サッとその動線から脇に逸れたニャンタおじさんが刀を横に薙いだ。


「グギャー」


 血飛沫とともに倒れるゴブリン。

 流れるような一連の動きだ。

 そのまま腰を落とし左右に気を配るニャンタおじさん。


「いいかいアレク君。倒した直後の安心、油断が1番危ないんだ。特にゴブリンには弓矢が得意なゴブリンアーチャーもいるからね」


 ニャンタおじさんは初見の魔獣に対して、戦い方をいつも実践してくれた。

 ふだんの魔獣に対してはニャンタおじさんの教え、レアな強魔獣に対してはホーク師匠の教え。

 2人が冒険者としての俺の技術を高めてくれた。




「グギャー」


「グギャー」


 倒れるゴブリンが2体。


「よし、いいぞアレク君」


 人型というものに抵抗感があったので、最初はかなりドキドキしたがだんだん冷静に駆除できるようになった。

(耳を取るのは未だに薄目になるけどね)


 定番のオークやウルフもなんとか狩れるようになった。といってもまだまだ1人じゃ危ないけどね。


 いいぞ俺。ようやく冒険者らしくなってきたよ。



 次回 悪意 11/11 12:00更新予定です

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