081 閑話 精霊のコソコソ話
1人の精霊が1人の人族に憑くようになった。
(物質体というよりは精神体ともいえる精霊なので対象に寄り添うことを憑くと表現するほうが適当であろう)
人族は彼女をシルフィと名づけた。
風の精霊シルフィ。
シルフィ自身、誰かに憑くのはいつぶりだろうかと考える。
悠久にも近しい歳月を生きる精霊にとって、数百年を生きるエルフでさえ、わずかばかりの歳月を共に過ごす娯楽相手といえた。
百年にも満たない人の時間など、まさに邯鄲の夢。刹那の娯楽相手だ。
そんな悠久を生きるシルフィでさえ、このアレクという人族には何かを感じた。
エルフを筆頭に、これまで憑いた娯楽相手にはないもの。
何かはわからぬが、それがアレクという人族だった。
シルフィは他のヒューマンに見えないことをいいことに、常時リラックスモードを発動していた。アレクの頭の上に乗っかって寝ることもしばしばだ。
「ヒマーあーヒマだわー」
毎日のようにそんなことを呟いてはいるが、実はアレクのことがかなり気に入っている。
精霊にとっては己の存在を認めて見てくれる者こそがエネルギー源であると言ってもいい。
その上に、その人物の魔力が高くあればあるほど快適さは増す。
シルフィにとってアレクはまさに願ったり叶ったり。そんな快適な空間を与えてくれる者、それがアレクというヒューマンだった。
▼
「アレクー保健室行ってくるからねー」
「あーわかったよー」
シルフィの姿が見えないように、アレクとシルフィの会話もまた周りの人族には気づかれない。
そんなシルフィが最近毎日のように入り浸っているのが教会学校医務室、エルフのケイト先生のところだった。
ケイトには、同じ風の精霊、シルフのシーナが憑いている。
「シーナ、ヒマだから遊びに来た」
「あらシルフィ、アレクと一緒じゃなくていいの?」
「だって授業中だもん」
「お昼までは私が居なくて大丈夫だもん」
「そう」
「ねーねーそんなことよりね、アレクの弟がね‥」
シルフィがアレクの弟ヨハンのことを話し始める。
「1歳過ぎでもまだ精霊が見えるヒューマンの子、それはたしかに珍しいわねー。魔力の高いアレク君の影響からかしら」
3年前にファイアボールを背に受けた治療にやってきたアレクは、エルフのケイトも驚くほどの魔力の「容量」を持っていた。
魔力を蓄えることができる「容量」。エルフ族はこの「魔力容量」を身体に触るだけでわかる。エルフのケイトが驚いたアレクの魔力量の容量(ポテンシャル)。
聞けば最近はホークにも師事しているという。
里こそ違えど、ホークの名前はエルフ中でも知らぬ者がいなかった。
「シルフィちゃん、アレク君はどう?」
ケイトに憑く風の精霊シーナがシルフィに問う。
シーナはエルフのケイト同様、大人びた雰囲気を醸す美しい精霊だ。
「アレクはすごいわよー。断言してあげる。何年かしたら、エルフでもヒューマンのアレクに勝てなくなるわ!」
「フフフ。それはすごいわね!」
「だってアレクったら今も毎日魔力アップに励んでるのよ」
「へぇー」
「でもね、アレクは何でもできるわけじゃないわ」
「そうなの?」
「アレクにも苦手なものがあるのよねー。しかもアレクったらそれにぜーんぜん気づいていないのよねー。困ったもんだわ」
「アレク君は何が苦手なの?」
「歌とダンスよ」
「「歌?ダンス?」」
これにはケイトもシーナも2人が首を傾げることになる。
「そうよ!アレクの歌とダンス。どちらも壊滅的に酷いわ。特に椅子の周りを踊り歩くアレクの歌とダンス。あれはぜったい見ても聞いてもダメよ。うなされて夜も寝れなくなるわよ!この精霊のアタシでさえね!」
「まるで傀儡の呪文ね」
「うんうん、あれは傀儡の呪文だわ」
アレクの預かり知らぬところで。
精霊シルフィとシーナ、エルフのケイトのコソコソ話が続いた。
第2部幼年編
第1章後期教会学校編 完
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