076 見えない精霊
「いいかアレク。まず今日から10日間、動かずここにいろ」
「へっ?」
「じっとして自然を感じてみろ」
「はい‥(わかんないけど師匠の言う通り、やってみよう)」
師匠のそんな指示の下、森の中にじーっと座っている俺。自然との調和を考えてると精霊さんに会えるみたいなんだよな、たぶん。
「精霊さん、精霊さん出てきて下さーい!こんにちーはー!」
「精霊さーん、遊びましょー!」
「精霊さん、この粉芋を捧げまするー」
違うなー。じゃああれかな、ジャンに教えてもらったやつ。鉄塊をビョーンと伸ばすやつ。
初めて金魔法を発現したときは、できるかなできないかなじゃなくって「できる!」と信じてやったら鉄の塊がビョーンと伸びたのだった。
今度は「精霊さんは必ずあなたの横にいる」の精霊さんver.だよ、きっと!
目を閉じて。
よし、精霊さんは居る。俺の目の前に絶対に居るんだ。
目を開けるぞー、はい!
精霊さんが目の前に‥‥
居ないじゃん!
ぶーんぶーん
虫が飛んでくるだけだよ!
あーまったくダメだわー。
精霊さんに会える気もぜんぜんしないよ。
どうしよう?
次は何やろう?
あっ!
椅子取りゲームとかどうだろう?
昔テレビで俳優さんが、座敷童子が出てくるようにお手玉とか紙風船とかで遊んでたらカメラをふっと光が横切ったとか、音がしたとかやってたのを覚えてる。
「精霊さんと椅子取りゲーム異世界ver.だ!」
よし、やってみるか!
土魔法で椅子を1脚出して、相撲みたいな土俵も作ってその上に乗せてみた。
♪ちゃららーらーちゃららーマイムマイムマイムちゃららー♪
(なぜか小学校のときのマイムマイムが浮かんだ)
♪ちゃららーらーちゃららーマイムマイムマイムちゃららー♪
両腰に手を当ててくねくねと踊りながら椅子の周りをリズミカル(自分ではリズム感もあるし、歌も下手じゃないと思ってるんだよ!)にまわる俺。
♪ちゃららーらーちゃららーマイムマイムマイムちゃららー♪
マイムマイムマッ!!
サッと椅子に座る俺。
当然‥誰も現れない。
3秒待った。
10秒くらい待った。
・・・・・・ああーー虚しくなってきた‥。
(でもコレ、おもしろいかも!)
お手上げポーズで椅子からひっくり返って目を閉じる。そこでサッと起きて周りを見渡した。
ひょっとして妖精が居たりして‥。
3秒待った。
10秒くらい待った。
・・・・・・む、虚しい。
もう1回やるぞ。
いやいや、ひょっとして恥ずかしがり屋さんの妖精なんだよ。
もう少し大きな声でいこう!
♪ちゃららーらららー
マイムマイムマイムマイムマイムちゃらららーマッ!
30秒くらい待った。
・・・うん・・・俺1人遊びが上手くなってきました。
精霊と妖精も違うものなのか何なのかも訳がわからなくなった俺。
その後もあれやこれやと思いつくたびにチャレンジしてみるが、まったく精霊さんが見える気配はなかった。
自然に逆らう気はしないんだけどね。
自然と調和?
ぜんぜん意味がわかんねーや。
精霊魔法を使うにはまずは精霊さんが出てこないと話にならない。
土の精霊ノームが見えない限りは土魔法に精霊(ノーム)の力は貸してもらえないし、火の精霊サラマンダーが見えない限りは火魔法に火の精霊(サラマンダー)の力は貸してもらえない。
同じように、風も水も。
兎にも角にも精霊さんが見えるようにならないと話が始まらない。
うーん。だめだ、ぜんぜんだめ。
まったく見える気がしない。
じーーっと目を凝らして見てもダメ。
わざとぼーーっとして見たりしてもダメ。
バチバチバチと高速瞬きもダメ。
自然と調和の意味がわからない。
俺はできない、見えない、わからないの無限ループに突入したのだった。
♪ちゃららーらーちゃららーマイムマイムマイムちゃららー♪
頭の中ではずーっとあのメロディが鳴り続けていたけど。
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