068 ビニール袋擬き

「アレク君、次は何をやるっスかー?」


 ワクワク顔のシルカさんが耳をピコピコさせて言った。

 (かっかわいい)


 「じゃーん、これはどうでしょう!」


 「何っスか、それ?」


 折り畳んだその袋を広げたり、くんかくんかしているシルカさん。


 「はい、これはスライム袋でーす」


 「はー?スライム袋ー?スライムってあのスライムっスかー?」


 そう、スライム袋である。

 スライム自体を乾燥成形したスライム瓶みたいな容れ物は既にある。薬師のルキアさんが俺の尿の採取用にしたやつだ。



 ◯ スライム


 人畜無害の本道をいく魔獣である。大きなお饅頭の形状。透明ゲル状の生命体(イメージはクラゲ)である。

 筒状に乾燥させ透明な瓶として使用が可。

 薬師には比較的重宝されている。食用には不向き。

 危険性皆無なので、誰でも捕獲が可能である。



 で、俺はこのスライム瓶を改良して持ち運びをよくしてみたのだ。元のスライムを土魔法で圧を加え、さらに薄く伸ばしてビニール袋みたいにしたもの。これが俺が開発したスライム袋だ。


 土魔法と金魔法の融合で、袋の大きさも型を作ってS寸M寸L寸みたいに統一したサイズ(規格)の金型を幾つか作った。基準型も作っておけば商業ギルドにも登録しやすいからね。


 細かいことだけどスライム袋の下部にはアレク製と刻印もつけた。これはコピー対策の差別化。アレク製には使用時に破れたり穴が空いたり等の粗悪品は無い。


 そんなスライム袋は、まんまビニール袋だと思ってもらっていい。しかもかなり頑丈。


 水を入れたぐらいで穴が空くことはないし、鍋のお湯の中に入れても溶けたり破れたりもしない。この世界にレンジはないけど、たとえレンチンしても大丈夫なのだ。


 それでいて自然界にあるものだから捨ててもらっても大丈夫。

 自然に還るからエコ対策もばっちりなのだ。

 そんなわけでこのスライム瓶ならぬスライム袋を売りたいのだ。


 「こんなふうに畳んだりもできるから使い方もいろいろ考えられると思うんだよねー。

 ただ、このスライム袋自体は土魔法や金魔法が発現できる人なら簡単に真似できるんだ。精度は別としてね。

 アレク製スライム袋は穴が開いたり破れたりはしないし、決めた規格とおりの大きさなんだよ。

 もしこのスライム袋が普及していったら、この規格も標準化されるだろうし。

 でシルカさん、このスライム袋を10枚とか100枚単位で売れないかな?」


 俺の長々としたプレゼンをシルカさんはじっと聞いてくれた。

 シルカさんの耳が激しくピコピコしてきた。


 「アレク君、こっ、これは凄すぎるっスよ!」


 興奮したシルカさんにガバッと抱きつかれた。


 (あ〜家族以外に抱きつかれるなんて。俺初めての経験だよ!しかもなんかいい匂いするし)


 ゴホン、ゴホン、むせた。


 「ゴホッ、ゴホッ。あーそれでねシルカさん。さらにこのスライム袋の応用編がこの粉芋!村の芋を乾燥させて粉にしたものだよ。ちょっぴり塩味も付けてるよ。でこの粉芋をスライム袋に入れてお湯を注いで3分待てば‥はーい、この通り柔らか芋になります!


 ダンジョン探索や旅の野外食で干し肉ばかりじゃ飽きるでしょ。もちろん家でもね。

 このスライム袋に粉芋を入れて熱湯を注いでかき混ぜてちょっと待てば、はい出来上がり!柔らか芋の完成でーす。

 硬いパンにつけても、チューラットハンバーグの横に添えても美味しいよ」


 粉芋。つまりはマッシュポテトである。


 乾燥させて粉にしてあるから、年間を通して保存にも適している。携帯食にはもってこいだろう。


 粉芋を売る時は、スライム袋の大サイズに入れて売るのもいいし。

 逆に携帯用として冒険者に小袋セットにして販売してもいい。


 「これはさっそくサンデーちゃんと打合せをしなきゃっス!アレク君、今度の休養日の午後は領都の商業ギルドで待ち合わせするっスよ!絶対っスよ!」


 「はっ、はい‥」


 興奮したシルカさんが俺の両肩を押さえつけてガシガシ揺らす。頭がぐらんぐらんする俺だった‥。



 商業ギルドでは俺のこのアイデア商材をサンデーさんも褒めてくれた。SML等袋の規格サイズも絶賛してくれた。




 ▼




 こうして俺が開発したスライム袋が商標登録され、粉芋入スライム袋も売り出された。

 どちらも王国どころか中原中に広まるまでに時間はかからなかった。


 すぐに粗悪なコピー品も現れた。が逆に良いこともあった。


 サンデー商会及びミカサ商会独占販売のアレク製スライム袋と粉芋はどちらも商品の質の良さが評判となった。


 数年後スライム袋自体が世間一般で認知されるようになると、なんとアレク袋と呼ばれるようにもなった。

 (例によってジャンとアンナにはスライム王とか袋王とか呼ばれて揶揄われたが)


 ミカサ商会長の尽力で、王都には俺が作った型を導入した専用工房もできたという。

 工房の名前もアレク工房というらしい。(なんと、子ども工房長になった俺なのだ)

 今後俺が企画した商品もこの工房から作られていくそうだ。


 ミカサ商会長らしく俺の意を汲んで、孤児や寡婦など世の中で困っている人を優先に雇い入れているそうだ。

 サンデー商会とミカサ商会で売られている粉芋も美味しいことが評判となった。

 もちろん粉芋の原材料はデニーホッパー村産である。


 王都では「アレク製イコール高品質(美味しい)なもの 」として次の新商品を待ちわびる人が多いのよと後にサンデーさんから聞かされた。なんだか恥ずかしくなった俺だった。

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