066 商業ギルド


 「アレク君、そろそろ商業ギルドに登録したら?」


 シスターナターシャから領都サウザニアで商業ギルドの登録をしたらどうかと勧められた。


 「アレク君、早く商業ギルドで登録すべきっス」


 サンデー商会のシルカさんにも何度もこんなことを言われていた。


「アレク、商業ギルドで登録をしたらどうだ?」


 同じようなことを師匠も言ってたな。


 そんなわけで俺は領都サウザニアの冒険者ギルドに寄ったついでに商業ギルドで話を聞いてみようと思ったんだ。

 でもどう登録してよいのかもわからなかったので、シルカさんに尋ねた。


 「シルカさん、商業ギルドで登録するにはどうしたらいいの?」


 「おーアレク君、ようやく決心してくれたっスねー。アレク君はぜったい登録したほうが良いっスよ!

 今週の休養日前の午後、学校が終わったら商業ギルドに行くっスよ!」


 耳をピコンピコンさせながらシルカさんが言ってくれた。

 これはてっきりシルカさんと商業ギルドで待ち合わせをするものとばかり思っていた俺だった。




 ▼




 商業ギルドは石造り3階建てのモダンな建屋だ。銀行的なカチッとした雰囲気もある。


 冒険者ギルドの良い意味で緩い雰囲気とは一線を画す、秩序ある空気感だ。ちょっぴり緊張しながら建物に入る。中に人は少ない。俺みたいな子どもは1人もいなかった。


 (うーん、緊張するなー)


 「すいません、登録をしたいんですけど?やり方とかお話を聞かせてくれませんか?」


 俺は受付の綺麗なお姉さんの前でこう尋ねた。

 ちなみに冒険者ギルドの受付嬢が私服のラフな格好をした美人だとしたら、商業ギルドの受付嬢は制服フォーマルの美人だった。田舎者の俺的にはなんか気後れしちゃうんだけど。


 「はい、かしこまりました。失礼ですが、デニーホッパー村のアレク様でいらっしやいますか?」


 「えっ⁉︎そ、そうですがなぜ俺の名前を‥」


 「はい、アレク様が今日お越しのことは伺っております。お客様もお待ちですのでご案内申し上げますね。それではアレク様、こちらにお越しください」


 なぜかウィンクをして微笑んだ受付の綺麗なお姉さん。俺は案内されるまま応接室へと向かうのだった。


 (えっ⁉︎シルカさんって実は偉い人?)


 応接室には先客がいて俺を待っていた。先客はシルカさんではなかった。シスターサリーぐらいに若く見える女性と白い髭を蓄えた高齢の男性の2人だ。


 「はじめまして。サンデー商会のサンデー・ウィンボルグです。ようやく会えましたね!

 アレク様には弊社のデニーホッパー村店開業当初からお世話になっていますね!」


 深々と頭を下げて挨拶をされた女性はサンデー商会のサンデーさんだった。か、かわいい……。


 「お初にお目にかかる。わしはサンデーの祖父のミカサ・ウィンボルグじゃ。孫娘の商会が世話になっておるそうですな」


 握手を求めながらしっかりとした言葉遣いで話されたのは、この王国有数の大商会として知られるミカサ商会の会長でもあるミカサ・ウィンボルグ様であった。


 「デニーホッパー村のアレクです。サンデー商会様には村に出店いただいたことに心から感謝しています。

 店長のシルカ様にもなにかと便宜を図ってもらっていますし。とても感謝しています。ミカサ会長様にもサンデー商会様経由でデニーホッパー村に何かと融通を図っていただいていること、深く感謝申し上げます」


 「アレク様はお若いのに言葉遣いもとても丁寧でいらっしゃいますね」


 「いえ、正しい話し方も知らないただの農家の子どもです。今も緊張しっぱなしでそろそろボロがでそうで。

 あっ!だから様とか無しでふつうに喋ってくれると俺もうれしいです。さっきから俺もう限界なんです」


 「わははは。本当に聞いていた通りじゃのアレク君は」


 「本当ねー、お爺さま」


 わはははは

 フフフフフ


 2人の朗らかな笑顔と闊達な笑い声に緊張感いっぱいだった俺の気持ちも和んだ。


 「え〜っと俺のこと、誰かに聞いたんですか?」


 「アレク君の『師匠』にな」


 ニヤリと笑うミカサ会長。


 「ディルとわしは昔からの親友じゃよ。わしがまだ店も持てない商人になりたてだったころ、その護衛についてくれたのが当時冒険者だったディル。その後奴は王都騎士団の副騎士団長になり、わしも王都に店を構えるようになっての。今は2人ともただのジジイじゃよ」


 「へぇーそうだったんですねー」


 「私もシルカからアレク君のことをいっぱい聞いててね。アレク君が手がけているデニーホッパー村の改良計画?あれも興味津々で、一度会いたいと思ってたのよ。

 で、シルカからアレク君が商業ギルドで登録のことを知りたいってことを聞いてお爺さまを誘って今日来たってわけ」


 シルカさんにも師匠にも感謝だ。それにしても人の縁は本当に不思議だよな。


 このあといろいろな話をした。

 チューラットハンバーグのミンチを作るミートチョッパー(挽肉器)も早急に商権を取るべきこととか、現在俺がもっている構想やアイデアグッズなども話した。

 一流の商売人として2人が問題点や課題点など的確なアドバイスもしてくれた。

 いつしか話は2時間を軽く超えるものとなっていた。ミカサ会長、サンデーさんの2人ともが信頼に足る人柄だとわかった。


 「今日は本当にありがとうございました。今後はシルカさん経由でお話をもっていきたいと思います」


 「こちらこそ。益々サンデー商会をご贔屓にね、アレク君」


 「こちらこそです!デニーホッパー村をご贔屓に!」


 フフフフフ

 わはははは


 「アレク君、実に楽しい時間じゃったよ。ところでアレク君、サウザニアの教会学校を卒業したあとはどうするのかの?王都へは来んのか?」


 「はい、行くつもりです。前期からかどうかは決まってませんが、俺はいずれは王都学園に進む予定です」


 「そうか。ではいずれまた会えるの。入学したら必ず会いに来てくれよ」


 「はい、必ず!」


 あらためてミカサ商会商会長と固く握手を交わした。


 この後俺は商業ギルドに登録をした。

 商業ギルドの登録には紹介者が必要だったが、それもサンデーさんとミカサ会長がなってくれた。


 今回繋がった縁。


 この後、俺は王国有数のミカサ商会という資金面でも世話になる後ろ盾も得ることになるのだが、それはもう少し先の話。

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