065 シリウス
「アレク君、シスターサリーから聞いたわ。のんのん村を良くしてくれたんだってね。シスターサリー、とても喜んでいたわよ。あのチューラットハンバーグもおいしかったって!いろいろありがとうね!」
シスターナターシャが笑顔で、のんのん村のその後を教えてくれた。
おいしいハンバーグのたねになる魔獣チューラットは順調に駆除(みんなが喜んで捕まえているという)できているらしい。
「いえ、俺は大したことしてないです。のんのん村のみんなが一致団結できたからうまくいったんだと思います」
「いいえ、それもアレク君が結んだ人と人の縁よ。のんのん村が良くなればそれはこのデニーホッパー村の評判にも繋がるし、さらにそれは広くヴィンサンダー領の評価に繋がるの。やがては巡り巡ってアルス君自身にも還ってくることなんだからね。だからこれからも人の縁を大切に頑張りなさい」
「はい、俺これからも頑張ります!」
シスターナターシャの言う通りだ。
何もなかった俺は人と人との縁に恵まれて、これまで生きてこれた。
ひょっとしたら、当初のチートも特典も何もないことにがっかりし、生きていく気力さえ失っていたのかもしれない。
それがどうだ。
廻りの人の縁。
タマ、厩の爺、モンデール神父様から始まった縁が繋がり繋がり‥。
これからもそうだ。何もない俺だからこそ、人の縁を大事にしなきゃな。
みんなに感謝だ。
▼
【 シリウス・サンダーside 】
「シリウス様そろそろお時間です」
「うるせーわかってるわ!」
今日もかったるい王国学園だ。
めんどくせぇなぁ。
俺はもう火のLevel3を使える偉大な魔法使いなんだぞ。バカな奴らはもっと俺を敬えよなー。
学園には王族や公爵など僕よりはるかに偉い奴らがいる。嫌だけど奴らには頭を下げなきゃいけないし。
あーストレス溜まる。
今日も僕より弱い奴らを虐めてストレス発散しなきゃな。
しかし、かったるいなー。
俺の素晴らしい才能にみんな嫉妬してるんだろうなー。
「おい、平民!どけ、邪魔だ!」
(またシリウスだよ。アイツ、上の位にはぺこぺこして俺ら平民を馬鹿にするんだよなー)
(しーっ。聞かれたらまた癇癪起こすぞ、アイツ)
▼
身体を積極的に動かせない雨の日は、帰宅前に村のシスターナターシャにいろいろ教えてもらったり、本を読んだりすることが多い。
シスターナターシャは王都の賢者サイラスが父親ということもあるが「知恵のナターシャ」という二つ名も持つ王国屈指の知恵者だ。
そんな彼女が持つ蔵書は個人の持つものとしては驚くほど多い。もちろん知恵者たる所以の博識ぶりなのにはいつも感心させられるばかりだ。俺はシスターナターシャの好意に甘えて本を読んで、疑問にぶつかる度に質問をして勉強をしている。
「シスター、王都にいる弟の話は何か聞いてる?」
「うーん、あんまり良い話は聞かないわね。残念なことしか…」
教会の情報網は実に広い。それは上は施政者から下は夜の世界の女性や市井の孤児に至るまで広いつきあいがあるからだ。その上にシスターという女性目線からの情報網はなかなかどうして侮れない。
「シリウス・ヴィンサンダー君は王都学園で素行、成績ともにあまり良い話は聞かないわよ。それでも火の魔法はLevel3に届いたらしいわ」
「そうなんだ‥」
弟シリウスはもう俺に会ってもわからないだろうな。
弟を含めて現在のヴィンサンダー家が領都に帰ってきたなんて話はどこからも聞こえない。
俺が弟や継母に会ってしまう危険性がないから良いと言えばその通りなんだが、領主が自分の領地に何年も居ないのはいかがなものかと心配をする俺だった。
「ただいまー。ヨハンーお兄ちゃんが帰りまちたでちゅよー。ヨハンはいつもかわいいでちゅねー」
「アレク、きもーい!」
「えっ、アンナ!?来てたのか?」
「ヨハンちゃんを見にねー」
「でもアレク‥今のは無いわー。キモいわー」
「そーだよーお兄ちゃんキモいー!」
「2人とも‥もう許してください‥」
今度からは誰も居ないのを確かめてから、赤ちゃん言葉にしようと心に誓う俺だった。
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