051 閑話 ヨゼフとマリア(前)
北の辺境と呼ばれるヴィンサンダー領の東部ビガス村。
100戸。1,000人を僅かにきるほどの小さな農村だ。
長引いた戦火もようやく収束をみせ、領内の農村には多少なりとも落ち着きがみられるようになった。
いつの世も戦火の影響をモロに受けるのは末端の平民(農民)である。
幸いにもここビガス村は徴兵の結果亡くなった若者も少なかった。また戦火に応じて現れる盗賊団や魔獣の被害もほぼ無かった。
これは村の戦後復興に向けていい材料なのだが‥‥
適齢期となった貧しい農家の末っ子世代には、残念ながら慶事とは言い難いものだった。つまりは、彼等には居場所が無かったのである。
次男三男でさえも将来の生活に困るのだ。子沢山の農家の末っ子に居場所などあるはずもない。
もちろん適齢期とあっても嫁をもらうなんてことは夢のまた夢の話である。
そんなビガス村に新興開拓村の案内が掲示板にかけられた。
開拓村デニーホッパー村の開拓民募集
開拓から10年間は無税
とする
在)ヴィンサンダー領北部
「新興の開拓村はここと変わらず生活は厳しいらしいぞ」
「ただあまりに荒れた土地だから魔獣も少ないらしいぞ」
「それでも耕したら耕しただけ自分の土地になるからな」
居場所がない若い農民たちからも、興味はありつつもその評価にマイナスが多い。
「ヨゼフどうする?」
「俺は‥このまま村に残っても居場所は無いからな。冒険者になれるほど自分の力を過信もしていない。このままここにいるより開拓村のチャンスにかけてみたいと思う。チャンはどうする?」
「俺もお前と同じだよ。何せ貧乏農夫の5男だからな。よし、一緒に行くか?」
「そうするか!」
ヴィンサンダー領東部の寒村ビガス村。
そんな村に生まれ育った青年のヨゼフとチャン。どちらも多数いる兄弟の末っ子である。
兄弟が多い貧民の倅が生きていくには、騎士に憧れて兵士となるか、清貧を旨とした教会の神の下に集うか、一攫千金を狙って冒険者となるしかない。
ヨゼフとチャンという2人の若い農民にとって開拓民として新たな土地で夢を繋ぐのは新たな選択肢として新鮮にみえたのかもしれない。
兵士や冒険者に憧れるほど腕っぷしに強い自負があるわけではない。また日々の生活には追われながらも、女神様に乞い願うほどの信心深さもなし。生命の危機に直面することもなかった。
ごくごく平凡な農民の彼らが開拓村を選ぶことは非現実的な選択ではなかったのだ。
▼
「「ヨゼフ、達者でな」」
家族兄弟からは意外とあっさりとした別れとなった。わかってはいたのだが。
ヴィンサンダー領東部から北部のデニーホッパー村まで。途中、領都サウザニアで東西南北各方向からの開拓村への入村希望者が集まる。
徒歩1ヶ月ほどの道中。盗賊や魔獣を避けるため集団での移動だ。
道中は、個人又は小規模な商人や冒険者その他も集まって100人弱の集団となった。
そこにはもちろんデニーホッパー村への移住希望者以外も多く含まれている。
この中には後に世帯を営むことになる他の村出身のマリアも含まれていた。
▼
「ヨゼフ、腹減ったなー」
「ああ‥」
ゆっくりと荒野を進む一団。
危険は無さそうに見えるのだが‥。
この一団を眺める者たちがいることに誰ひとり気づかなかった。
「お頭、移民集団が来ますぜ。少しばかり商人もいますな。冒険者も何人か」
「あまり儲からなさそうだな。まあ数だけはいるか。奴隷に売るにはそこそこだな。お前たち準備しろ」
「「「あいよー」」」
待ち構えるのは盗賊団である。
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