033 神童とチャンおじさん

 「はい、答えはいくら払えばいいでしょうか?ジャン君」

 「シスターわかりませーん」

 「アンナさんお店にいくら払えばいいですか?」

 「お釣りはお店屋さんがくれるから大丈夫でーす。それと村にはお店がありませーん」


 シスターナターシャが半ば呆れてアンナに問う。


 「お店屋さんがお釣りをわざとアンナさんに少なく渡したらどうしますか?」

 「えーそんなのぜったいイヤだー」


 半泣きになるアンナ。


 ‥‥ワハハーギャハハ〜


 一瞬の沈黙の後、大爆笑となった教室である。

 今日もジャンとアンナの2人は計算ができないと頭を抱えている。

 俺は九九も言えるからね(さすがに言わないけど)。お買いもの計算くらいは楽勝だ。


 「「神童だ!!」」


 ジャンとアンナの2人にとって俺は神童らしい‥。




 ▼




 教会学校の帰り。

 最近はジャンの家に寄っている。ジャンのお父さん(チャンおじさん)の仕事を見学しているからだ。チャンおじさんは金のスキルを有している。なので農機具の鍬や鋤、包丁等の鍛造ができる。

 チャンおじさんが手にすると、金属の塊がたちまち鍬や鋤、包丁の形になる。その後火入れをして叩くことによって強度の増した農具ができるわけだ。


 「アレク君毎日飽きずにこんなのを見てて楽しいかい?」

 「うん、楽しいよ。チャンおじさんの手の中で形が変わる金属はすごいよ!」

 「ガハハー。楽しいか!うれしいこと言ってくれるなー。ジャンにもアレク君の興味が少しでもあればなぁ。

 アイツは俺の息子だけに金のスキルを持ってるくせに何も覚えようとせず遊んだばかりだ。

 ヨゼフに言ってアレク君を俺の弟子にしてもらうかのー。ガハハ」

 「ねーねーチャンおじさん、俺も金の生活魔法を覚えたい。どうしたら覚えられる?」

 「うーん。アレク君は金の生活魔法を覚えたいかー。困ったなあ。スキルは生まれ持ったもんって決まってるしなー。教会学校に入るときの魔水晶判定で、神父様から教えてもらったスキルだけのような気がするんだがな‥アレク君はどうだった?」

 「うん?俺は何のスキルも無しだよ」


 スキルの有無。

 そう魔水晶の判定だ。一般に子どもが教会学校に入学する際、教会所有の魔水晶に触れることで魔水晶の色や輝きの変化からスキルの有無や魔力の保有量が判るのである。

 俺の場合は、魔水晶に触れることがこれまでなかった。

 しかも俺、転生時にスキルも特典も何もないって女神様に告げられてたし。


 「アレク君、この鉄の塊をやるから持っていきな。毎日握って女神様に祈ってたらひょっとして金のスキルが身につくかもしれん。だが金の生活魔法なんぞ鍛冶屋にでもならない限り必要ないがな。ガハハ」

 「チャンおじさん、ありがとう!毎日握って女神様に祈ってみるよ」


 これまでの俺は、この世界で一般に考えられているように魔法(魔力)イコール生まれ持ったスキルだとそう思っていた。

 が、突貫やファイアを覚えたことによりそれは違うと思うようになった。

 魔力の発現は生まれ持ってのスキルや才能だけじゃないと思う。

 何もない俺でも発現はできる。スキルを持たない凡人の俺がだ。


 そんな凡人の俺は絶え間ない努力をする必要があるんだと思う。

 なので金の生活魔法も修得するまでひたすら反復練習の努力あるのみだ。


 こうして俺はドラゴンの魔石の欠けらと鉄の塊を朝から晩まで始終持ち歩いた。そして暇さえあればニギニギとやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る