032 シスター ナターシャ
朝ご飯を食べてから教会学校へ行くのが日課となった。途中ジャンとアンナの家に寄る。
「ジャンおはよー」
「アレク君待っててね。あの子まだ寝てるのよ」
「「アンナおはよー」」
「アレク君もジャン君も待っててね。
あの子まだ寝てるのよ」
ジャンを迎えに行き、その足でアンナの家へふたりで迎えに行ってから3人で教会学校へ行くという流れ。
ジャンもアンナも毎朝寝坊だ。
「「朝はアレクだけが頼りだ(よ)」」
毎朝まったく同じである。
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デニーホッパー村の教会は、高齢で穏やかなディル神父様と若く美しいシスターナターシャがふたり。
清貧を旨とする教会を体現するふたりだ。
平日の昼間は教会学校として子どもたちを教え、休養日には本来の教会の祭祀を行うという忙しさだ。
教会学校は義務教育なので教育費は無償だ。
だがどの家の子どもたちも月に1、2度家で採れた芋や野菜、森の木の実などを親から持たされる。ある種、授業料みたいなものである。この野菜類が神父様やシスターの食事になるのはもちろん、ときにはお腹を空かせた子どもたちのおやつになるわけだ。
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教会の入り口でディル神父様がみんなを待って挨拶を交わす。
「「ディル神父様、おはようございまーす」」
「みんなおはよう。アレク君、どうじゃ。慣れたかな。頑張って勉強するんじゃぞ」
「はい、神父様」
「奥でシスターナターシャが待っておるから先に行って来なさい」
「はい」
俺はシスターのナターシャがいる教会執務室のドアを叩く。
コンコン
「シスターナターシャ、アレク参りました」
「はい。どうぞ」
「失礼します」
シスターのナターシャさんは長いストレートヘアの若くて美しい人族の女性である。長身でスタイルも良い。
「ああアレン君。ここに座って」
「はい」
「あなたはとても丁寧ね。でも農家の子どもらしくないわよ」
「あはは‥」
羊皮紙に筆を走らせていたシスターナターシャが筆を止め、苦笑いを浮かべながら向かいの椅子に腰掛けるよう言う。
「もう慣れた?わからないことがあれば、何でも私かディル神父様に聞いてね」
「はい」
シスターナターシャが穏やかな声で言う。
「領都のモンデール神父様からもしっかりやりなさいですって」
「モンデール神父様からですか?」
「そうよ」
「えーっと‥」
「ああ、心配しなくていいわよ。私たちはあなたが農民の子アレク君であることを含めてモンデール神父様からいろいろ聞いているから」
シスターナターシャは軽くウインクをして微笑んだ。
「それとね、私の名前はナターシャ・ユグザニアよ。父の名前はサイラス・ユグザニア。父はモンデール神父様と同じ冒険者チーム鷹の爪のメンバーだったのよ。そしてディル神父様は父の古くからの友人。だからもし何かあってもこの教会のディル神父様と私は、あなたの味方だからね」
知らなかった。
モンデール神父様は先々俺が困らないよういろいろと便宜を図ってくれていた。
(モンデール神父様ありがとうございます)
「それとね。はい、これ」
シスターナターシャから、小袋を渡された。中には片手で握れるくらいの赤い小さな魔石が入っていた。
「モンデール神父様からの入学祝いよ。これはドラゴンの魔石の欠けら。肌身離さず身につけていれば近くに魔獣は寄ってこないわ。それとこれから毎日、この魔石に魔力を貯めなさい。アレク君の魔力を高める訓練になるわ」
シスターナターシャから魔力を高めるやり方を教わる。
落ち着き集中して魔石に体内から魔力を注ぐんだそうだ。
その後、集中して逆に手の中の魔石から体内へ魔力を流しこむ。どちらも毎日意識してやりなさいとシスターナターシャが言った。
以降、俺は昼夜問わず魔石に魔力を注ぎ込み、逆に魔石から魔力を還元する訓練を始めた。とくに朝晩の集中力があるとき。暇さえあれば魔石を握りしめている。
後々。
王都学園の入学試験で。
このとき俺自身が驚くような魔力保有量になっているとは思いもしないのだった。
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