023 葬儀と別離
「あゝ可哀想なショーン!どうして女神様はショーンまで連れて行ったの!せめて女神様の国で幸せに暮らしてね。安らかに」
「ショーン兄上!僕は寂しくてたまりません。せめて父上と仲良く暮らしてください。安らかに」
「ショーン様が託された北の辺境伯ヴィンサンダー家は不肖私アダムが弟シリウス様の後見として面倒を見て参ります。安らかに」
「ご家族の最後のお別れはお済みですかな」
「「「はい」」」
「では別れの祭壇へ向かいましょうか」
モンデール神父様が3人を連れて最後の斎場(別れの祭壇)へ向かう。
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「仮死」となった俺である。
傍目からはしっかり死んで見えるのだが、頭は冴えまくっており耳も周囲の音をきちんと拾っている。
今も継母オリビア、弟シリウス、家宰アダムの3人が繰り広げるお涙頂戴の茶番劇を聞かされている。
睡眠薬を飲んで倒れた3日後。
今度は仮死薬なるものを飲んだ。
これも薬師のルキアさんの指示通りだ。
仮死となり正装に着替えさせられ棺桶の中へ入った俺は、ガタガタと馬車に揺られて死者が家族と最後に過ごす教会の小部屋へ運ばれた。
そして別れの祭壇に上げられる前、モンデール神父様の立ち会いの下、家族最後の別れが「演出」されたわけだ。
まさに「演者付の演出」であったが。
モンデール神父様と「現在」のヴィンサンダー家の3人が外に出る。
この後、親族、寄子、家臣を集めた葬儀が行われるからだ。死んだ俺も別れの祭壇から女神様の元へ召されるわけだ。
「とんだ茶番劇だったね」
「うぅ…なんて酷い人たち…」
隠し扉が開いた音が聴こえる。薬師ルキアさん達が現れたようだ。
タマの憤り、啜り泣く声も聞こえる。
「ショーン坊っちゃん、聞こえとりますな。すべて計画通り、うまく進んでおりますからの。
坊っちゃんの身体はこのまま夜まで動けませんからの。夜まで我慢してくだされよ。
お館様の毒殺と合わせて、犯人とその証拠が判明するまで辛抱してくだされよ。何年に及ぶか今はわかりませんからの。ただそのときまで決して諦めてはなりませんぞ。
次にお会いできる日を薬師の婆は楽しみに待っておりますからの。王都まで会いに来てくだされよ」
俺の胸に手を当てて薬師のルキアさんが言う。
(ルキアさん、世話になりました。ありがとうございました。俺、必ず王都に会いに行きます)
「ショーン坊っちゃん、お労しや。坊っちゃんがいつも爺の戯言に付き合ってくれた日々を爺は決して忘れませんからの。
爺はお屋敷を辞めて田舎に帰りますな。ショーン坊っちゃんが晴れてヴィンサンダー家を再興される日に、必ず帰って来ますぞ。爺はその日を心待ちにしておりますぞ」
俺の頭を撫でながら厩のマシュー爺が言う。
(ありがとう爺。本当の爺は強かったんだね。俺も爺のようになる。そのときまで待っててくれよ)
「ううっ…ショーン坊っちゃん…私いつまでもショーン坊っちゃんのお世話をしたかった。あの3人は大嫌だけど、これから先何かあったら皆さんに伝えなければいけませんからね。私はショーン坊っちゃんのお帰りをいつまでもお屋敷で待ってますからね」
両の頬に獣人メイドタマの手が添えられた。次いで右頬、左頬に柔らかく温かい感触を感じる。
(タマ、俺の味方でいてくれて本当にありがとう。俺は正々堂々、必ず屋敷に戻るから)
涙がつーっと流れる。
目は開けられず口にも言葉は出ないが、3人に心から感謝の言葉を贈った。
この日、俺ショーンは死んだ。
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