013 葬儀(後)

 モンデール神父様の説法のあと。

 家宰のアダムが羊皮紙を広げ参列者に向けて読み上げた。


 「お館様のお言葉を申し上げます。


 『アレックス・ヴィンサンダー北方辺境伯の名に於いて、ヴィンサンダー家は次男シリウス・ヴィンサンダーが継ぐ』


 よってヴィンサンダー家の家宰わたくしアダムはアレックス・ヴィンサンダー様のお世継ぎシリウス・ヴィンサンダー様を変わらずお支え致します」


 続いて継母のオリビアが参列者に向けて話した。


 「夫アレックス・ヴィンサンダーは突然女神様に召されましたが、最後に道筋を遺してくれました。わがヴィンサンダー辺境伯家はシリウス・サンダーが跡を継ぎます」


 弟のシリウスが最後に言った。


 「僕がヴィンサンダー家の2代目辺境伯です。父上、天より僕と母上を見守りください」





 家宰のアダムは父上のことをヴィンサンダー辺境伯と呼んだ。

 継母のオリビアも父上を辺境伯と呼んだ。

 弟のシリウスも辺境伯と。

 でも俺は知っている。父上はこの北の領土を辺境と呼ぶことが嫌いだった。辺境伯と呼ばれることも嫌いだった。

 なのに。

 家宰のアダムも継母のオリビアも、弟のシリウスでさえも父上とこの北の領土を辺境と呼んだ。

 父上のことを誰もわかっていない!


 長々と茶番劇に付き合わされた気がする。

 かといって、この場で異議を唱える勇気もなにもない臆病な俺‥‥。



 最後に、別れの祭壇に火がつけられた。


 パチパチパチパチパチパチ‥

 ゴオオオォォォォォォーー‥


 たちまちに父上は炎に包まれた。

 曇天に向けゆっくりと上がっていく白煙。

 俺はそれをただぼんやりと眺めていた。



 父上は母上の元に帰るのかなぁ。


 俺も連れて行ってくれないかなぁ。


 立ち上る白煙を見上げながら、涙はとめどなく溢れた。

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