第11話 課外活動(5)
「はあああああああああ!」
(これも、さっきの
完璧にかぎ爪を杖剣で防ぎきると、そのまま力いっぱいに押し返す。
すると、
今がチャンス、そう判断した私は杖剣に
「
直後、すべてを焼き尽くすかのような炎が杖剣の周りに現れる。
しかし、その炎は不思議と熱くはなくまるで私の気持ちに呼応するかのようにさらに燃え盛る。
(ここで倒さないと、こいつはこの階層で更に暴れてしまう……! そうしたら何人、何十人も被害が出るはず!)
この咆哮を聞いて、クラスメイトのほとんどは逃げたと思うがそれでも周囲に人がいない確証はない。
ここでこいつを倒さなければ、被害が出る可能性は大いにある。
(英雄を志したんだ。誰かを、大切な人を、守れるかっこいい英雄に!)
─今度は、
「ぅおおおおおおおおおおお─!」
(いつもより体が軽い……! それに、視野も広い気がする……)
あまり気付いていないのだが、これこそがユナの
並大抵の魔法使いの身体強化よりも数倍は高い効果を発揮し、その効果はまさにおとぎ話に出てくるような英雄にも及ぶ。
更に体内の魔力も濃くなり、いつもは撃てないような大魔法も使えるようにもなる。
つまり、この魔法を使っているときはユナは正しく憧れていた
(この魔法なら……私はもっと戦える!)
心の中で改めて覚悟を決める。
─もう守られるだけの私じゃない、今度は大切な仲間を守れるように、と。
すると、更に魔力の濃度が濃くなった。更に溢れ出る力が大きくなったように感じる。例えるなら、乗り物のギアのような感じだ。一段階力が上がったというのに、いまだ限界が見えない。
(すごい……! まだこの魔法には上があるんだ……!!)
より強大な魔力を放つ私を見てか、
「─ッ!」
瞬間、感じるのは先程までとは比較にならないほどの殺気と衝撃。さっきまで感じていた恐怖は何だったのかと感じてしまうような殺気でたまらず悲鳴のような、嘆きのような声にならない声が一瞬だけ漏れてしまう。
その直後、
まさか─。
「固有魔法─
上位の魔物というのはいくつかその種族にしか使えないような魔法を持っている。
アロ先輩が戦った
不意打ちや圧倒的火力など盤上をひっくり返すような凄まじい魔法がほとんどで、その法則は
まずい、と思った時にはもう遅く私はその暴風の中に閉じ込められてしまった。
痛い。ナイフのような暴風が私の皮膚を切り裂いて血が少しずつ流れ出ていくのを感じる。いかに魔法使いの体が丈夫と言っても傷を受ければその分だけ血は減っていく。どうしても攻撃に回したい魔力を防御に回さざるを得なく魔力も湯水のように減っていってしまう。
しばらくすると、地獄のような暴風は止んだ。
側から見れば十秒にも満たない短い時間だっただろうが、受けている私からすれば、途轍もなく長い時間のように感じてしまった。
「いっ……たぁ」
幸い制服がダメージを軽減してくれてはいるが、それでも
それは私も同じことであり、数えられないほどの傷ができていた。傷の大きさは大小様々だが、血が流れ出ており体は既に赤く染まっていた。
失血による影響か、少し視界がおぼつかない。それに、それに呼吸がいつもよりも浅いような気がする。
足取りはフラフラでもう膝をつくどころか横になって休んでしまいたいぐらいだ。
「それ……でも! 諦めるわけには、いかない!」
最早悲鳴のような叫びを上げ、止まってしまいそうな心と足を動かしていく。
傍から見れば滑稽だったのかもしれない、無様だったのかもしれない。それでも、英雄を目指すということだけは諦めたくなかったから。
腕に改めて力を込め、落としそうだった杖剣をしっかりと握りこむ。
瞬間、頭の中にある魔法が浮かんでくる。その魔法はどうやら、
頭の中に浮かんでくる、という常識では考えられない現象に驚いてしまったがそれでも足を止めることはない。
(この魔法なら、こいつを倒せるかもしれない)
たった一つの可能性に賭けて、私は相対する
勝負は一度きり。判断を間違えたら、私の夢はここで潰えるだろう。
感覚が、研ぎ澄まされていくのを感じる。
振り払われたかぎ爪の一撃を、当たる寸前で上に大きく飛ぶことで回避する。
「これで終わり、だ! ─
瞬間、辺りを照らすはいくつもの星々。
その星一つ一つがその命を燃やしながら美しく光り輝いている。
流れる星々はやがて収束すると、更に輝きを増しながら
「いっ、けえええええええええええええ!」
星々によって光輝いた世界の中で、剣先がはっきりと魔石を打ち砕いた。
すると、魔石を失った
その様子を最後まで見届けた私は、ボロボロになって開けた森の中に死んだように横たわるしかなかった。
「はぁ、はぁ。……私、勝ったんだ」
その瞬間、喜びやら悔しさやら、いろんな感情が思い浮かんできた。
あの日、英雄を志した私は無力だった。勉強もできるわけでもない、お父さんやレネちゃんに比べたら中途半端な魔法の才能。冒険者をしていた時も仲間に迷惑ばかりかけてしまっていたと思う。
それでも諦めきれずに努力をして、魔法学園に入学して、
傍から見れば大きく成長していると感じるだろう。だけれど、私からすればもっと成長できることが感じられた戦いでもあった。
もっと早く避けれていれば、傷を負わなくてよかったかもしれない。もっと綺麗に受け流していれば、反撃を入れられることができたかもしれない。
「もっと、強くなりたい」
仰向けに寝転がって、遠い空に浮かぶ太陽に手を伸ばしながら無意識のうちに呟いていた。
考えれば考えるほど、未熟な点が浮かんできてしまうのだ。
だけど、今までのように無力感は感じない。目標を改めて見つけることができたから。
「おーい! ユナ、エレーネ! 無事かぁ!?」
遠くから助けに来てくれた先輩の叫び声が聞こえてくる。
(先輩、遅すぎですよ。……あ、これやばいか……も)
私の体はすでに血だらけでもうボロボロだ。もはや立っているのもままならず、意識を保っているのも
(でも、先輩がいるから、いいか……)
徐々に近づいてくる先輩の叫び声を聞きながら、そのまま私は気絶した。
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