第39話 サードタウンへ

「じゃあ、行くぞー!」


 前線に向かってトラオムレーベンとプリディクターの合同クランは出発する。

 まず、向かうのはサードタウンだ。

 そこから、前線である鍾乳洞へ向かう。


 昨日、ガイエンから前線の現在わかっている所までの情報を聞いたのだ。

 サードタウンから先の鍾乳洞の中に入ると主にムカデのモンスターが出るとの事。

 そして、最後のボスはヴァンパイアのようだと言うことであった。


 しかし困ったことにどれほど攻撃しても、小さなコウモリにバラけるだけでまた元通りになるそうだ。

 高火力の魔法で面で攻撃しては?と聞いてみたが、それはもう試しているのだとか。


 倒すために日々情報を集めようと前線にいるガチ勢が何度もアタックに挑んでいるのだとか。

 しかし、ダメージを与えることが出来ず、いつも全滅して終わってしまうという。


 敵の攻撃も魔法でとかではなく、小さなコウモリに群がられて生命力を吸われて死んでしまうのだということであった。


「まさか、ソアラが前線に行くことを選ぶとはねぇ。どういう風の吹き回しなのかしら?」


「ん? どうしてだ? 俺も攻略してみたいなぁと思っただけだけど?」


「そうなの? なんか最近のソアラは珍しい罠を作るのが楽しい! ランクとか前線とかどうでもいい! って感じに見えてたんだけど?」


 流石はシエラ。

 鋭い洞察力である。

 たしかに、前線とかはそんなに興味はない。

 けれど、UWO内でせっかく出来た友達のような存在のガイエン。


 しかも、ガイエンはトッププレイヤーである。

 一緒に遊ぼうと思ったら必然的に前線で戦わなければならない。

 そういう理由と、ちょっとガイエンの私的な目的があるのだが、それをわざわざ言う必要は無いだろう。


「俺もさ、この前のイベントで活躍できたから少しいけるかなって思ってるところがあるんだ。前線に出るのは嫌か?」


「そうねぇ。前線で戦っていたクランに元々居て、そのクランから抜けたのにまた前線に行かなきゃいけないのかぁ。とは思ってるわ」


「まぁ、そうだよな。俺のわがままで付き合わせて悪いな」


 申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。

 これは、リアルの仕事で申し訳なさそうに見えるようにと考えてできるようになったのだ。

 いうなれば、俺の生きていく術である。


「えっ!? ちょっ! 頭下げないでよ。そんな、攻めてるとかじゃないわよ。私もソアラに任せるって言ったもの」


 戸惑ったような顔をしながらアタフタしている。


「シエラ、ソアラは別に気にしてないなら大丈夫だよ。その顔はソアラの得意とするところだから」


 おい。バラすなよ。


 横から余計なアドバイスをして来たのはシエラであった。

 シエラも俺の意見に従うといいながら、前線に行くことに決めたと伝えた時は渋っていたのだ。


「そんなとこないから! それに、プリディクターは、ガチ勢にはなりません! エンジョイ勢のまま、ゴリゴリのアタックはしないんだ。それは、ガイエンには伝えてある」


「そうなの? ガイエンがよく許したわね?」


「あぁ、協力はするが、俺達は自由にさせて貰うって事にしたんだ。じゃないと、楽しくないだろ?」


「えぇ! それならいいわ! 前にサードタウンに来た時はまともに街を見れなかったから今回は楽しませてもらうわ!」


 憂いが晴れて元気になったシエラはズンズンと前に進んでいく。

 まぁ、実際のところは、ガイエンには前線に行くならガチ勢と同じようにアタックを重ねて欲しいと頼まれたのだ。


◇◆◇


「よしっ! じゃあ、ソアラもガチ勢の仲間入りだな!」


「えっ!? なんで?」


「何でだって? 前線に送ってことはガチ勢になるって事だろ!?」


「前線にはエンジョイ勢がいないのか?」


「居ないことは無いが……」


「じゃあ、いいじゃないか」


「しかし! 俺達と行動を共にするということはだなぁ……」


「シエラは……」


 そこでガイエンは目を見開いた。

 硬直してこちらに耳を傾けている。


「シエラはガチ勢が嫌でクランを脱退したんだよな?」


「そ、そうみたいだな」


「同じ轍を踏みたいのか?」


「…………わ、わかった。ただ、攻略の手助けはしてくれよ? ソアラの読みが鍵になるかもしれないんだよ! でも、シエラとも攻略したいんだよ! 頼むぜぇ!」


「わかったって! 落ち着け! エンジョイ勢のまま前線に行く。それでシエラには納得してもらうからさ」


「ホントだな!? 頼んだぜ!?」


◇◆◇


 ガイエンはシエラが本当に好きだからなぁ。

 まぁ、温度差があって可哀想だけど。

 夫婦ってのはそんなもんなのかねぇ。


「ソアラ? どうしたの?」


「ん? あぁ、少し考え事してただけだ。ほら、もうすぐ着くぞ?」


 サードタウンが見えてきた。

 西洋な街並みであった。

 見所がありそうな街である。

 だからシエラも見たかったのかもしれない。


「ソアラ! 俺達は前線のクラン達から情報収集してくる! お前達はどうする!?」


「あっ、あぁ…………そうだなぁ……街並みを見て回ろうかな」


「なっ!?」


 ガイエンよ。見えているだろう?

 俺の横のシエラから向けられているこのキラキラした目。

 こんな目で見つめられたら俺はお前と行くという選択はできないんだよ。


「じゃあ、俺達は行こうか?」


「ソアラ! ラブル! 早く行きましょう! あそこにお城みたいなのがあるのよ!」


 手を掴まれた俺とラブルは連れていかれる。


「ソアラ! あとで! 情報共有してくれよぉぉぉぉ!」


 遠くでガイエンが叫んでいる。

 ガイエンよ、すまない。

 必ず、必ず後で情報共有をしような。

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