第13話 狩猟祭開始

 土曜日がやってきた。

 今日はイベントの日だ。

 朝冷蔵庫を開けて絶望した。

 

 食べ物がない。

 もうすぐイベントが始まるっていうのに。


 しかし、一週間のリアルでの食料も買っておかないと死んでしまう。

 二十四時間営業しているスーパーを調べて外出。

 一週間分の食料を買い足して戻ってくると、時刻は九時五十分。


「やっべ!」


 朝ご飯用に買ってきたパンを頬張って水で流し込む。

 フルダイブ用のベッドギアなので空腹や排泄などの警告もしっかりと表示される。

 なので、食事を取っておかないと空腹で強制的にログアウトもありえるのだ。


 最初に発売された時はそのような考慮がされておらず、大変な出来事になったそうな。

 それで、警告が表示されるような仕様になったようだ。


 ログインする。


◇◆◇


 セカドタウンの宿屋で目を覚ます。


 急いで宿を出て広場へ向かう。

 人でごったがえっており何処にラブル達がいるかわからない。

 広場で集合のはずだけど……。


 周りを見渡してもいない。

 どうするかな。


ピルルルル


「あっ! すまん! さっきログインした!」


「遅いよ! 西の門側に居るよ!」


「今行く!」


 西の門へ向かいながらラブルを探す。


 チラッとピンクの髪が見えた。

 そちらに向かうと、いた。


「いたいた。ラブルの髪の色がピンクでよかった。探しやすかったよ」


「何してたのぉ!?」


「リアルで一週間分の買い物だよ。明日もイベントだろ? 今日の朝しか時間なかったんだよ!」


「私は昨日の夜仕事帰りに買って帰ったよ?」


「忘れてたんだよ。悪かったな!」


「まぁまぁ、二人とも。始まるよ?」


 上空に雲が集まってきた。

 ピューっと天使が降りてきた。


「はーい! みんなこんにちは! これより収穫祭を始めますよぉ! みんなアイテム貰えるように頑張ってねぇー! それでは、狩猟祭ぃぃぃぃ! 開始ぃぃぃぃ!」


 外に向かって一斉にプレイヤーが走っていく。


 街を出ると、視認できる位沢山のモンスターが溢れていた。


「取り敢えずシンプルに落とし穴に落とすから攻撃頼んだ!」


 西の草原には闘牛のようなクレイジーバッファローや、ヒョウのようなブーマー。狼のようなシルバーウルフ等が草原内をウロウロしていた。


 プレイヤーは我先にと魔法を撃ったり剣で飛びかかったりしている。

 俺が先頭で突っ込む。


「散開!」


 二人はバッと横に飛ぶ。

 落とし穴を前方に設置。

 その上を走って通過する。


「それ!」


 エサのようなものを罠の上にばら撒く。

 離れる前に念の為罠を設置して、待機する。


 餌の効果は抜群なようで。


ドドドドドドッッ


 モンスターが集まってきて作動した落とし穴に落ちていく。

 ここで想定外のことが起きた。

 モンスターが来すぎて落とし穴がモンスターで埋まってしまった。


「とりあえず、これでどうだ!」


 横にあるロープを切る。

 すると、バシャァとモンスター達に液体がかかる。


「攻撃していいぞ! 今の液体がかかった奴は毒状態になってるはずだ! スリップダメージで徐々にHPは減るはずだ!」


「オッケー! 行っくよぉー!」


「私も行きます! ファイヤーストーム!」


ゴォォォォォ


 炎の渦が落とし穴を埋め尽くす。

 炎が晴れると数体が光に変わっている。


「そりゃー!」


 ラブルが剣を振り回している。

 順調に数を減らしていく。


「グラァァァァ」


「キャァァァァァァァァ」


 落とし穴の奥からヒョウのようなブーマーが飛びかかってきた。

 咄嗟にロープを切る。


ザクッ


「グ……ラァ……」


 光となって魔石と素材を落とした。

 それが最後の一体だったみたいだ。

 落とし穴が解除されドロップアイテムがインベントリに流れ込んでくる。


「おぉ。素材がいっぱいだ!」


 喜んでいると、二人が近づいてきた。


「ソアラ、ありがとうございました! 助かりました!」


「流石ですねぇ。先読みが凄いのは昔からみたいですしねぇ」


「ん? どういうことだ?」


「中学生二年生でリバーシ大会一般の部全国制覇。翌年の中学生三年生で将棋大会一般の部も全国制覇。将来は将棋界の期待のルーキーかと噂されるも高校生になってパッタリ消えた」


「はははっ。よく調べたな。高校になって運動部に入ったんだよ。毎日忙しくてな、運動部」


「ちなみに何部ですか?」


「ソフトテニス部だけど、才能がない上に楽しけりゃいいって努力もしなかったもんでな。地区大会止まりさ」


「何故です?」


「なにが?」


「勿体無いですよ! なんで将棋やらなかったんですか!?」


「んー。飽きたから……かな?」


「飽きた!?」


「うん。全国制覇したらなんか……こんなもんかぁってなっちゃって」


「ふーん。先輩らしい」


ベシッ


 頭にチョップを食らわせる。


「イタッ! 何するの!?」


「身バレする」


「むー。誰も聞いてないよぉ」


「何処で聞いてるかわかんないだろ? さぁ、素材を集めよう!」


 不思議そうにこっちを見るシエラ。


「ん? どうかしたか?」


「今は……今は楽しいですか?」


「あぁ。楽しいよ。ゲームがこんなに面白いもんだって思わなかったよ」


「そうですか。ならよかったです」


「素材集めよう!」


「はい!」


 白熱した狩猟祭が始まった。

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