第8話 罠の本領

 罠には落とし穴やロープといった罠が一番簡単だが、モンスターの素材でも作ることができる。


 モンスターから素材を取るには、素材を取りたい部分を集中的に狙い、部位破壊すること。


 ただ、俺にはそれが難しいということ。

 狙って破壊は難しい。

 しかし、全部破壊すれば良いと言うならできる事だろう。


 この日はモンスターを狩りに来たのだ。

 森に身を潜めながら様子を伺う。


 狙っているのは猪に似たモンスター、ワイルドボア。

 群れで移動しているようなのだ。


 あんなに一気に討伐できるか心配になってきたが、多分大丈夫。

 罠を作っている際に気付いた事がある。

 落とし穴のスコップの数を指定できるということは、数を多くすれば大きくなるんじゃないか?


 そう思い、試してみたところ、目論見通り大きくなったのだった。


「群れは四体か……念の為スコップを四個使ったものを使うか」


 色々作った時に実験で作った物だ。

 こんなに早く使うことになるとは。

 もちろんオプションには鉄クズをたんまり付けてある。


 罠を設置する。

 その上にパラッと手に持っていた袋からコロコロしたものを出す。


 これは、雑貨屋で売ってたモンスターの好きな匂いのするエサのようなもの。

 鼻をヒクヒクさせて近づいてくる。

 近くの茂みで様子を見る。

 

 俺の匂いは付いてないはずだ。

 今回はいけるはず。


 徐々に近づいてくる。


 もう少し。


 もう少し。


「ブギィィィ」

「ブギャャャ」

「ブィィィィ」

「ブャャャャ」


 全部のワイルドボアが入った。

 倒した証拠の光が上がっていく。


 罠の中にはドロップアイテムが多数ある。

 目当ての頭骨もある。

 罠を解除するとドロップアイテム取得のリストが表示される。


「うん。いい感じだ。魔石もある」


 その時、小動物達が駆け抜けていった。


ドドッドドッドドッ


 なにかか向かってくる。

 近づいてくる。

 サッと近くの茂みに隠れた。


 二メートルから三メートルあるだろう黒い影が通り過ぎた。

 息を潜めて観察する。

 何かを探しているようにキョロキョロしている。


 何を探してる?

 もしかしてさっきのエサみたいなやつを目当てで来たのか?


 アイツは……パワーゴリラだ。

 腕がモリモリの筋肉で腕がデカい。


 一筋縄ではいかなそうだな。


 静かに少し離れる。


 罠を準備する。

 二重三重に罠を仕掛けていく。

 最後にモンスターを引きつけるエサのような物をばら撒く。


 少し先の茂みでスタンバイする。


ドドッドドッドドッ


 腕を地面につけ力強く四足で走ってくる。

 走る度に土がめくれる。


 来た。


 罠の範囲に入る。


バシュバシュ


 両手が一本ずつ上に吊られる。

 そこで、両脇にあったロープを切る。


ドスドスドスッ


 鉄クズがパワーゴリラの身体に突き刺さる。


「グルゥアアァァァ」


 ロープを引きちぎる。

 こっちに向かって突進してくる。


ドドッドドッドシャァーーーー


 よしっ。

 落とし穴に落ちた。


 今回使ったのは地属性の魔石。

 発動した魔法は。

 アースニードル。


 周りの土からの棘が無数にパワーゴリラに突き刺さる。


「グルァ……ァアアアァ」


 バキバキバキッと棘さえぶち壊す。


「グルルルラ」


 予備に用意していたロープを切り裂く。


ザシュザシュザシュ


 追加のナイフが突き刺さる。

 首筋に突き刺さり、光が徐々に上っていく。


「グルァ……ァァァ……」


 ようやく倒した。


 ドロップしたのは、腕の大きな骨。

 頭骨と、魔石。

 属性は地属性であった。


「ハッハッハッハッ! 気持ちいぃぃ」


 やべぇ。

 この快感やばいな。

 罠でハメる。


 これは、他の職業じゃ味わえないんじゃないか?

 しかも、この素材で罠作成しても、発動させるまでどういう効果か分からないのが、また楽しい。


 だからこほ何重にも罠を重ねるし、動作の分かっている罠を重ねることで確実性を増せる。

 面白い。

 すげぇ面白い。


「せんぱい?」


 快楽で我を忘れて喜んでいたところを見られてしまった。


「はははっ! ラブルじゃないか! どうした!?」


「なんですか!? そのテンション? こっちにパワーゴリラ来ませんでした!? あれ、この辺じゃすごい強いんですよ!? 大丈夫でした?」


「あぁ! アイツな! 俺が倒したわ! ハッハッハッ!」


「ちょっ……なんかテンションが……あれを倒したんですか!? Dランクのモンスターですよ?」


「ふふふふっ。それより俺の罠が一枚上手だったって事だ。あぁー、面白ぇ」


 ラブルの後ろからシエラが追ってきた。


「あっいたいた! ラブル速いわよ!」


「ごめんシエラ。パワーゴリラを追った先に先輩がいたのよ」


「えっ!? ホントだ! 大丈夫だったんですか?」


「あぁ。難無く罠で倒したよ」


「わなで……ですか?」


「なんかこの人変態でしょ? 先読みに異常に長けてるのよ? 中学校でしたっけ? オセロ大会で優勝したの」


「あぁ。そうだな。まぁ、昔の話だ。けど、変態は酷いだろ」


「だって、仕事の時も私の行動先読みして注意するじゃないですか! 怖いんですよ」


「お前が分かりやすいのと、同じミスをするからだろ!?」


「むー! そんな事ないです!」


「そんな事あるだろう」


「ありません!」


「ある!」


「ありません!」


「あ────」


「まぁまぁまぁ。ケリがつかなそうだからその位にして、ソアラはこの後どうするの?」


「あぁ。罠作成に勤しもうかと思ってた。いい素材が手に入ったからな。どんな罠ができるのか楽しみだ」


 怪訝そうな顔でこっちを見るラブル。


「なんだよ?」


「楽しそうですねぇ?」


「楽しいぜ?」


「変態です」


「なんでだよ!」


 プイッとして街の方に歩いていった。


「一人で行っちまった」


「ソアラに構ってもらえないから不貞腐れてるんだと思うわよ?」


 シエラがニヤニヤしながらそう言ってくる。


「俺が罠師だと一緒に探索できないだろ?」


「んー。確かに色々考えないといけないでしょうけど、パーティ組むのはいいんじゃない? 罠に掛かったトドメをみんなでやるとか……やりようはある気がするのよね?」


 しばらく考えて答えを出した。


「いや、そもそもランクを上げるための魔石を素材に使うんだ。ランクを上げれない」


「んー。じゃあ、協力者って事で、クランを作るのはどう?」


「クランかぁ」


「えぇ。常に一緒では無いけど、協力関係にあるっていうのはクランを作るのが最適だと思うのよね」


「んー。クランならいいか。けど、クランのランク上げにも役に立たないと思うぞ?」


「いいわよ別に。トップを狙おうってんじゃないんだから」


「ならいいけどさ」


「ちょっと、ラブルにも話してくる」


 先に街に向かって走っていった。

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