第11話 余ったので有効活用

 残るアレは一つだけ。

 このままボクに装着して消滅させるよりは、なにか別のことに使ってデータを取ったほうが今後のためになりそうだ。

 かといって父につけてやるのは嫌だし。

 いいアイデアが出るまで散歩でもするか。


「おや、お母様。どうしたの? 暗い顔をして。どこか具合が悪い? 薬を調合しようか?」


 庭の花壇の前で、お母様がため息を吐いていた。


「ステラ……ありがとう。でも病気とかじゃないのよ。原因は自分でも分かっているわ。私って駄目な女なのよ。夫があんな最低のクズだって分かっても……顔がいいから。外見だけはどうしても魅力を感じてしまうのよ」


「それは……仕方がないよ。ボクだって前世で覚えがあるよ。魔王軍の幹部にもの凄い美人がいた。人間を何人も殺した悪い奴だけど、顔と体だけは本当によかった。外見が優れた異性を魅力的に思うのは、本能みたいなものだから」


「けれど、あなたの前世である英雄アレスター・ダリモアは、その女幹部を最後は倒したんでしょう? 私は……どうしてもあの人に抱かれたいと思ってしまうのよ!」


 それは生まれたばかりの娘にする話だろうか?

 とはいえ精神は男だから息子? 前世をいれるとそろそろ二十歳だし、問題ないのかな?


「……別にいいのでは? 夫婦だし」


「私の夫のアレは、あなたが破裂させたでしょ!」


「あ」


 そう言えばそうだった。

 父のがどうなっても関係ないと軽い気持ちで破裂させてしまった。お母様に迷惑をかけるなんて想像してなかった。


 考えてみれば、お母様はまだ若い。

 貴族に子供が一人しかいなかったら、なにかあったとき跡取りがいなくなるので、ボクの弟や妹を産む予定もあっただろう。

 そういう打算を抜きにしても、三大欲求をなんとかしたい夜があるだろう。

 ボクはその手段を奪ってしまったのだ。


 父がどうなろうと知ったことじゃないけど、お母様には幸せになってもらいたい。


「これの使い道が決まった。これをお母様に託すよ」


「そ、それは……!」


 お母様の視線は、ボクがドレスの胸元から出したアレに釘付けになった。


「ボクが自分に装着するために培養したものだよ。かなり気合いを入れて作ったんだけど、これでもボクの魔力には耐えられなかった。けど、あいつなら大丈夫のはず」


「これをあの人につけられるのね!?」


「そう。つけたり外したり自由自在だ。簡単な呪文で動くように改造するね。そうだ。装着者の遺伝子情報を読み取って、子供を作る機能も実装しないと」


 ボクはアレに魔力を流して、構造の一部を作り替えた。

 これでよし。

 使い方を説明してお母様に渡す。


「ああ、なんて素晴らしいの! 私がしたくなったらあの人につけて、スッキリしたら外しちゃえばいいのね! 簡単な呪文でそんなことができるなんて……ステラは凄いものを作ったわね」


 お母様はボクを抱きしめてくれた。

 母の愛を感じる。

 家族っていいものだなぁ。

 転生してきてよかった。


「まあ、別につけっぱなしでもいいんだけど」


「駄目よ。生まれたての赤ちゃんを捨てるような奴に人権はないわ。あいつのアレは私が預かる。自分で触るのも許さない」


 メチャクチャ厳しい話だ。

 破裂させたボクに言えたことじゃないけど、もうちょい父に優しくしてあげてもいいんじゃないかな?

 ま、どうでもいいけど。


「それじゃ早速、使ってくるわね。ステラ、愛してるわ!」


 お母様はボクのおでこにチュッと接吻してから屋敷に走って行く。

 その右手には、ボクが培養したアレが握りしめられている。


「ステラ様のお母様のような美人がアレを持って走る姿は、かなり凄まじいものがありますな」


 と、今まで黙っていたルルガがそう締めくくった。


 その夜。

 一晩中、父の悲鳴と、お母様の歓喜の声が屋敷中に響いていた。

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