第6話 精霊に相談だ

 ボクは新しい人生の目標を見つけた。

 アレを生やすことだ。


 公衆浴場で泣いてしまったボクだけど、実のところ、アレを生やすなんて簡単だと思っていた。

 だって転生魔法を成功させたんだぞ。

 体の一部を変化させるくらい楽勝……そう考えていた時期がボクにもありました。


 けど、できなかった。

 なにをやっても生える気配さえなかった。


 行き詰まったボクは、領地で自由にさせていた精霊たちを部屋に呼び寄せた。

 そこに存在しているだけで土地を豊かにしてくれる種類の精霊だ。

『宙に浮かぶ光の球』といった明らかに神秘性がある外見のがいれば、ただのウサギにしか見えない精霊もいる。

 けれどそのウサギだって、人知を超越した悠久の時間を生きている。三百年とかそんなレベルじゃない。


 ボクは恥を忍んで、精霊たちの知恵を借りようとした。

 おちんちんを生やす方法を教えてくださいと、偉大な高位存在である精霊たちに頭を下げた。


 呆れられた。

 大笑いしているのもいる。

 精霊たちの思考は言語を介さず、魂に直接流れ込んでくる。


 ボクは散々恥ずかしい思いをした。あげく、精霊たちの答えは「知らない」だった。


 光と闇。昼と夜。陰と陽。

 相反する二つの属性を混ぜ合わせるのは非常に難しい。

 女と男を混ぜるのが困難なのは当然のことだ。


 分かっていた。分かっていたけどボクならできると思っていたのに。

 いや、絶対に諦めないぞ!


 ――ボクはおちんちんを諦めない!


 という流れで、新たな人生の目標が定まったわけだ。

 今のところ、相談できる相手はルルガだけ。

 母や祖父には教えないほうが無難だろう。

 我ながら、健全な目標とは言いがたいからね……。


 なにかいい方法が思い浮かばないかなぁと唸りながら、ボクは家の庭とか廊下をウロウロする。

 するとメイドたちの噂話が聞こえてきた。


 この国では今、とある盗賊団が問題視されているらしい。

 強力な戦力を有していて、白昼堂々と町を襲う。警備の兵士を薙ぎ倒して金品を強奪し、女たちを襲う。そして悠々と帰っていく。

 アジトが特定されているのに、軍隊でも手出しできない。

 この辺ではまだ被害が出ていないが、いつ来るか分からないので恐ろしい。


「なるほど。魔王がいなくても完全に平和にはならないんだな。当たり前だけど」


 魔王軍が暴れていたときでさえ、人間同士の戦争があった。

 争いを完全になくすことはできないし、ボクは世界の全てを救えると思い上がったりしない。


 魔王は世界を滅ぼそうとしていて、しかも家族の仇だった。

 みんなに請われて必死になったのも嘘じゃないけど、やはり根っこは個人的な恨みである。

 その盗賊団が近くに攻めてきたならともかく、訪れたこともない町のために行動しようとは思わない――。


「いや、待てよ」


 ふと、閃きが脳を走った。

 盗賊団は悪党だ。いなくてなって喜ぶ人はいても、悲しむ人はいない。

 だから、どんな人体実験をしてもいいのだ。


「生やすのが無理なら、他人のを移植するという手があるぞ」


 いっそ、脱着可能にしてはどうだろうか。

 前世の蒸し暑い夏。何日も風呂に入れなかったとき、アレを取り外して洗って干したいなんて思ったものだ。そのくらい蒸れる。

 あのときは冗談だったが、もともと他人のものとなると、脱着式を真剣に検討するのもありだ。

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