転生英雄はハーレムを求めて無双する ~胎児の頃から精霊召喚してワンオペで領地を豊かにしていたボクを生後30分で追放!? 『召喚師は他力本願の卑怯者』ってそれ本気で言ってるの?~

年中麦茶太郎

第1話 生まれた。そして追放された

「適性スキル『召喚魔法』だと……!? 召喚師なんて、なにかを呼び出して戦わせ、自分は後ろから見ているだけの卑怯者じゃないか! そんなのが俺の子供だなんて耐えられん! アリンガム男爵家に相応しくない。追放だ!」


 ついさっき生まれたばかりのボクに向かって、父親は信じがたいことを言い出した。


 確かに、ボクの小さな手が水晶玉に触れると、そこから光が伸びて空中に『召喚師』と文字を描いた。


 触れた者にどんな才能があるか示してくれる、資質調べ水晶。

 これで判明した才能を伸ばすのが、その人の能力を最大限に発揮する最善の方法だとされていた。


 しかし水晶が示すものだけが才能というわけでもない。


 例えば、このボク。

 ボクは前世、、で、様々な魔法の才能を発揮した。

 攻撃、防御、回復、強化――。

 素材を調合して薬を作る錬金術も極めた。

 うぬぼれではなく客観的な評価として、天才だった。


 なにせ転生魔法を成功させ、こうして二度目の人生を送ろうとしているのだから。


 数ある魔法の中でも、召喚魔法への適性が最も高いから、水晶が反応した。

 けど、召喚魔法しか使えないわけじゃない。

 ほかの魔法でもボクは天才なのだ。


 なのにこの父親は「追放だ、追放だ」と一人で騒いでいる。

 そしてほかの家族に相談せず、生まれて三十分しか経っていないボクを連れ、夜に馬車を領地の外れまで走らせた。


「すぐに死んでしまった。見るに堪えない奇形児だったから、誰にも見せずに埋葬した。母親にはそう伝えてやる」


 そう言って父親は、オオカミの遠吠えが聞こえる森に、ボクを置き去りにした。


 なにをするつもりなのか見届けようと大人しくしていたら、本当に捨てられてしまった。


 信じられない。

 生まれたボクを母親に抱かせる前に引き離し、適性を調べ、気にくわない適性だったから捨ててしまおうという発想がクズを通り越している。


 召喚魔法に対して、異様な偏見を抱いている。精霊や神といった上位存在とも対等に契約を交わすのが召喚師だぞ。それを後ろから見ているだけの卑怯者呼ばわりなんて、呆れてしまう。


 ちなみにボクは、母親のお腹にいたときから……と言うより、受精卵になって細胞分裂を始めた頃から意識があった。

 脳がなくても、魂さえあれば思考できる。

 ボクは二度目の命を授けてくれた新しい両親へ感謝の気持ちを込めて、この男爵領に精霊を召喚して、土地を豊かにしてやった。


 ここ数ヶ月、季候が安定し、農作物がよく育ったのは、ボクが召喚師として働いたからだ。

 それを追放?

 馬鹿げている。

 精霊召喚のことが分からないにしても、ボクが母親のお腹に宿ってから土地が豊かになったのだから、幸福の象徴とか考えないのか?


 いや。

 それらの理屈を全て抜きにしても、生まれた我が子をいきなり捨てるというのが信じられない。


「こらしめてやらないと」


 ボクはそう呟いたつもりだった。しかし。


「おぎゃおぎゃおぎゃー」


 としか発音できなかった。

 うーむ。まだ発声器官が未熟だな。

 そこだけ魔法でいじってみるか。


「あー、あー……本日は晴天なり……よし。喋れるようになった」


 次は風を操って飛んでみよう。

 前世とかなり体格が違うから風を弱めにして……これも完璧だ。自由自在に飛べる。

 やはりボクは天才だな。


 ん?

 オオカミが近づいてくるぞ。

 普通のオオカミではない。魔力を持っている。

 長い年月を生きた、この森の主か。


「人間の赤子か……近頃、誰もここに近づかぬと思ったら、急になんのつもりだ? まあ、せっかくの貢ぎ物だ。ありがたくいただこう」


 現われた白いオオカミは、ぺろりと舌なめずりする。

 悪いが、食べられるつもりはないし、代わりに差し出すエサもない。

 帰ってもらおう。


「ふん!」


 ボクは軽く魔力を放射する。

 攻撃ではなく、ただの威嚇だ。

 それでオオカミは飛び上がるほど驚き「きゃいん、きゃいん」と茂みの中に逃げていく。


 そのまま遠くに去って行くかと思いきや、葉と葉の間から顔だけを出して、こちらをうかがってくる。


「あの……人間の赤ん坊……でありますよね?」


 オオカミは自信なさげに問いかけてきた。


「ああ。生後一時間といったところかな」


「一日も経っていない!? なのにどうしてそんなにお強いのでありますか……?」


「転生して前世の知識と魔力を引き継いでいるんだ」


 最初から秘密にするつもりがないので、軽い気持ちでオオカミに教えた。


「転生……前世の知識! 最近、この辺の土地が急に豊かになったのは、もしかしてあなた様がやったことでありますか……?」


「そうだ。受精卵のときから精霊を召喚していた」


「す、凄い! あの、申し遅れました。私、この辺で一番強い動物だと自負しているオオカミで、ルルガと申しまする。長生きしていたら魔力が身につき、喋れるようになったであります」


「見れば分かる。魔物の類いだ」


「人間って魔物を理由もなく討伐しようとするじゃないですか。なんとなく危険だぁ、みたいな雑な感じで。私は人里を襲ってないのに、すでに何度か討伐されそうになったであります。今のところ返り討ちにできてますが、いつ自分より強い人間が現われるかと思うと気が気でなく……」


「なるほど。魔物にも気苦労があるのだなぁ。ボクも前世では、錬金術の素材が欲しいという理由で魔物を倒していた。これからは気をつけよう」


「ありがとうございます。ええっと、それであなた様は、今のところ私を討伐しに来たわけではないのでありますか?」


「ああ。なんか知らないけど、生まれていきなり父親に捨てられただけだ」


「それは大変であります……いえ、あなた様はすでに私より強いし、なんかピュンピュン空を飛んでいるので、親に捨てられたくらいでは困らないのでしょうか?」


「困りはしないけど、腹が立つ。なので文句を言いに、今から帰る。お前を連れて行った方が迫力ありそうだ。一緒に来てくれないか?」


「それはもう! 実はこちらからもお願いがあります。野生の魔物は討伐対象ですが、誰かに使役されている魔物は違います。なので私を、あなた様のペットにして欲しいであります」


 オオカミの言うとおり、誰かのペットとか使い魔を勝手に倒したら、器物損害だ。

 ボクの知る限り、どこの国の法律でも処罰の対象になる。

 持ち主に恨まれるし、いいことはなにもない。


「よし、分かった。ルルガ、お前をペットにしてやろう」


 ボクは時空倉庫にある材料で、首輪を作る。

 時空倉庫とは収納魔法の一種で、とびきり高度な技だ。

 収納できる体積や質量に制限がない。おまけにアイテム一つごとに「時間を止めるか否か」を設定できる。だから生肉を新鮮なまま何年も保存可能だ。


 前世で色んなアイテムを入手した。

 幽霊のような実態がない相手をも切り裂く剣とか。古代のドラゴンの骨から炭素を抽出して作ったとされる宝石とか。マグマに落ちても燃えない布とか。

 そういった貴重品だけでなく、なんとなく拾った普通のナイフや革袋なんかも入れっぱなしにしてある。

 首輪を作るくらいの材料は入っている。


「おお!? 私、気がついたら素敵な首輪をはめています。これはどういうことでありますか!」


「時空倉庫に前世で集めたものが沢山ある。適当に素材を選び、そして時空倉庫の中で錬金釜を使って、首輪を作った」


「よく分かりませんが、ありがとうございます! これで誰が見ても私は野生ではなく、ペットであります。人間の町に近づいても討伐されないであります!」


 ルルガは楽しげだ。

 そしてパッと全身を光に包み、十代半ばくらいの少女に変身した。

 もともとの毛並みと同じ、白い髪。白いオオカミの耳に、オオカミの尻尾を生やしている。

 いわゆる獣人である。


「実は人間の町に行ってみたくて、変身魔法を練習していであります。ですが、どうしても耳と尻尾が残ってしまい、オオカミだとバレてしまうであります」


「それは仕方がない。お前より長生きしている魔物でも、もとの特徴を完全に消すのは難しいと聞く。それだけ人間に近づければ大したものだ」


「そうなのですか。耳と尻尾はアクセサリーだと言い張ればなんとかなるかと思って町に行き、酷い目にあったであります」


「……どちらかというと、裸のほうが問題なのでは?」


 ルルガは全裸だった。

 細身の美しい体をさらしながらも、まるで恥じ入る様子がない。


「おっと。人間は服を着るものという常識くらい知っているであります。今は面倒なので作っていないだけであります。体毛を服にする変身魔法も習得していますよ。とうっ!」


「ほう。見事だ。けれど、どうしてメイド服?」


 濃紺のロングワンピースに、白いエプロン。フリル付きのカチューシャ。

 どう見てもメイド服である。


「あなた様にお仕えするという覚悟を表わしてみたであります。家事の類いはまるでできませんが、まずは形から!」


「なるほど。人間の姿になれるなら、それに合わせて首輪のサイズを調整できるようにしよう」


 ボクは首輪に魔法効果を付与した。

 すると今のルルガの首回りに丁度いい大きさに縮んだ。


「おお! キツすぎずスカスカすぎず、素晴らしい仕上がり。偉大なご主人様に出会えて、ルルガは幸せであります!」


「大げさな奴だな。ところでオオカミの姿のほうが迫力あるから、もとに戻ってくれ」


「了解であります!」


 再び白いオオカミになったルルガの背中にボクはしがみつく。

 そして方角を指示し、実家へと向かわせた。

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