第82話 魔王山荘にて(その3)
「しかし魔族っていうのは人間に比べて随分と優遇された存在だよね。体は丈夫で寿命が長い。その上魔力は強くて体の大きさも変えられるし…」クニオが言った。
「この世界を作って人々が意識を移行するときに、そうでもしておかないと希望者が集まらなかったんじゃないですか?『魔』って付くとちょっと敬遠しますよね。でもエルフなんかは人気がありそう…」コルビーはそう答えた。
「ん?なんの話?エルフって私の事?」コウが不思議そうな顔をしている。先ほどビフロンスにはプランニングを使って、この世界の真実を伝えたがコウにはまだあの話はしていなかった。でもきっといつかは話すときも来るのだろう。
「エルフは魔族でもないのに長生きで、魔力も強くてうらやましいなって話だよ」クニオがそう言うとコウはこう言った。
「でも成長が遅すぎだよ。魔族はすぐ大人の体になるのに、一体いつになったら堂々と酒が飲めるのやら…」コウは僕らが話したいと思わないことは、気を使ってか深くは聞いてこない。ガサツなようでいて実はとても思慮深い。
「建築にとっても体の大きさって重要だよね。ああ、そういえばこれは僕の師匠の受け売りなんだけど、人体寸法から割り出した長さや大きさを基本単位として、建築を構成して行くという考え方があるんだ。師匠はそれを『モデュロール』と呼んでいたよ」クニオはそう言ってから又コルビーの方を見る。特に彼が何かを思い出した様子はない。
「どうせまたそれも大人のサイズなんだろ?」コウはそう返した。
「まぁそうなんだけど、ここでは種族によって体の大きさが違うから、『モデュロール』もいくつか考えられる。この浴場もちゃんと深さを変えて、一番浅いところはホビットでも入れるようにしてあるだろう?」クニオが言う。
「端までいくと浅すぎて、流石にコウさんでも肩までは浸かれないでしょうね。でも足湯にはなるし、深さを連続的に変えていくというのはなかなか良いアイデアだったでしょう?」コルビーは得意気にそう話す。
「ああ、そういえばクザの方の一階の壁が無いがらんどうの空間は、さっき言ったみたいにピロティって呼ぶんだけど、これも僕の師匠が好きなやり方だったんだ」クニオは言った。
「師匠も結構師匠の師匠から影響を受けているんですね」前世を何も思い出していないコルビーは、過去の自分の事だとは分からずにそう言った。
「なんか舌を噛みそうな話だな」コウはそう言ってクケケと笑った。
「ん?そう言えばグレゴリーは?」クニオがコウに聞く。
「ああ、なんかクザの方で飯作って待ってるとか言ってたぞ。最近あいつは料理に凝ってるからな…トウモロコシを使って色々と考えているらしい」
「それは今晩も宴会ですね。折角だから地元の方々から、多目的室で改善要望もヒアリングしましょう」コルビーが言った。クザの温泉場の2階にある休憩室兼用の多目的室は畳敷になっている。それはもう宴会場と言っても何の遜色も無かった。
「本当にコルは真面目だね。そう言えば最近何かスケッチしてるみたいだけど、あれは何?温泉場の改善案?」クニオに聞かれてコルビーは答える。
「いえ、塗装という考え方もなかなかいいなと思いまして、見学者が増えている魔王城の水まわりはリフォームしたらいいかなと考えています。あれだけ石の素材感むき出しだと、ちょっと暗くて怖い感じだろうなと…ついでにプライベートスペースに色を付けるのも面白いかなと思い始めました。…しかしどうして魔王城設計時には私の中にその考えが無かったんでしょうね?自分の話なのに良く分かりません。未来は確定していないという事なんでしょうか?」
「良く分かんないけど、コルには好きにいじれる自分の家があっていいよなー…」コウはそう言ってから下を向いて少し考え込む。
そうして何かを思いついたのかクニオの方を見てこう言った。
「私たちも家を作るってのはどうだ!?」言われてみるとキュリオシティーズのメンバー四人の中で、家を持っているのはコルビーだけだった。いや、魔王城を家と呼んで良いのかどうかは微妙なところではある。
「それは面白そうだけども、冒険者は一応冒険の旅をしないといけないから、建てるとしても場所が難しいよね」クニオが言った。
「場所はそうだな…」
<了>
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