第77話 計画地にて(その3)

 色々な思いと考えがクニオの頭の中で激しく交錯する。


「グレゴリー土魔法を頼む!」そう言ってクニオはグレゴリーの肩に手を当てる。

「温泉の下まで横に貫通孔を開けるよ。温泉まで行くと魔力は拡散するので手前まででいい」クニオがそう言うと

「しかと了解した」そう言ってグレゴリーは地面に手を当てて土魔法で横穴を作り出した。そうしてこちら側の出口は壷の先端の様に細い筒状に立ち上げた。


「こいつに垂直方向にパンチを食らわせてくれ」クニオの言う通りグレゴリーは筒状の先端から垂直方向に打撃を入れる。筒状の部分はひしゃげて地面近くまで圧縮された。先端で圧縮された横穴内の空気は温泉の下まで到達すると、地盤内に亀裂を生じさせて崩れ落ち、お湯は横穴の内部を流れ始めた。クニオはゾーニングによって、温泉の湯船を設けた場所がここよりも標高が高い事は掴んでいた。横穴で繋げてやればあとは位置エネルギーの差でお湯はこちらに流れてくる。


「次はこの周辺の土から水分を抜いて砂にする」クニオはプランニングでグレゴリーの土魔法を使って周辺の土をサラサラの砂状に変化させた。

「ティアマトさん風魔法使えますよね?この横穴からお湯が噴き出したらこの砂をアンデッド軍の頭上まで吹き飛ばしてください!」


「なるほど、お湯に直接魔力は働かせられないが、この砂の運動を使ってお湯をあいつらの頭上迄運ぼうというのだな。承知した」ティアマトがそう言い終わるころには、横穴の地上の出口からお湯が吹きあがる。ティアマトの唱えた風魔法で巻きあがる砂と一緒にお湯はアンデッド軍の頭上まで移動して行った。


 風の勢いが弱まったところで、アンデッド軍の上には雨の様に温泉のお湯が降り注いだ。雨が降り注ぐその下にいた、スケルトン系の個体はバラバラになって崩れ落ち、ゾンビ系の個体は動きが止まり全体としての進行も止まった。しかしいかんせんお湯の量が足りない。原泉は地底湖から取っているので、絶対的な量はあるものの、細い横穴を通してここまで流れ出てくる量はたかがしれている。巻き上げる砂もすぐに尽きてしまった。


 それでもアンデット軍の前方の個体は動きが止まった。


「変わったことをされますな」アンデッド軍を率いるビフロンスは両腕を上にあげて振り下ろす。そのとたんに先ほど源泉を浴びてバラバラになったスケルトン系のアンデッドは復活し、動きを止めていたゾンビ系の個体もまた動き出した。


 コルビーは一連の動向を立ち止まって眺めていたが、クニオたちの方を振り返ることは無かった。彼は再び動き始めたアンデッドたちを確認すると、先ほどビフロンスがしたのと同じように両腕を上にあげた。肉体は10歳児のそれなので、腕を上げてもクニオの背丈ほども無いだろう。そうしてその腕を下に振り下ろそうとしたその時…


 アンデッド軍の周囲に白い空気の壁が立ち上がった。コルビーがやったわけでは無い。彼は頭上の空気が動いている気配を感じて空を見上げた。


 そこにはコウが浮いていた。

「面白そうなことやってるね。こいつらを全部焼き尽くせばいいのかな?」

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