第76話 計画地にて(その2)
まずはクザの温泉場と魔王山荘を繋ぐ転移ゲートを設置した。これは比較的距離が近いこともあって、魔法陣の構築はナーガの手にかかれば簡単なものだった。問題は魔王城の方だ。こちらはかなりの距離があるので、ゲートを安定させるためには始点と終点の両方からの、同時の働きかけが必要だろうという事になった。
魔王城の方はコウとナーガに出向いてもらって、温泉の方にはクニオとコルビーが待機した。一度繋がってしまえば往路も復路も関係ないが、最初はまず魔王城の方でナーガが構築する転移ゲートの魔法陣にコウが魔力を流して空間を繋げ、それを温泉側でクニオとコルビーが受けとめ、繋がったところでアダマンタイトで固定するのが一番確実だろうという結論になった。
しかしいよいよ転移ゲートを繋げて固定しようという丁度その日に、クニオとコルビーの元にティアマトから不穏な情報がもたらされた。なんでも七大魔将軍の一人が軍隊をおこして、北からこの温泉の方へと向かってきているというものだった。
「やはりやって来たか…」コルビーはその知らせを聞いて驚くそぶりも見せずに呟く。
「私が説得にあたりましょうか?」ティアマトはコルビーにそう進言した。
「いや、この場所をナーガを通じて彼に伝えたのは私の指示だ。避けて通るわけにはいかないだろう」そういうとコルビーはゲートを繋ぐ作業を中断して、背中から翼を生やして北の方へと飛んで行ってしまった。そのあまりの速さにクニオがあっけにとられていると
「あなたにも同行して頂いた方が良さそうですね」ティアマトはそう言ってクニオを抱えると、翼を広げてコルビーの後を追った。
台地上の広大な荒れ地に立ったコルビーの姿を確認して、ティアマトもクニオと共に地上に降り立った。荒れ地の向こう側には土埃が渦巻いていた。
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「久々に楽しかったです。何年か後にまたお会いしましょう」そう言って彼はニコリと笑ってから、また軍勢の方を向き直して一歩また一歩と足を前に進め始めた。
コルビーの歩む後姿を見送りながら、クニオは彼に何と声をかけていいか分からなかった。もしかしたら彼の言う通り、これであと数年は彼と会うことは無くなるのかもしれない。しかし彼と作ろうとしたこの建築はじきに完成するだろう。そうして次に彼と出会う頃にはもうちょっと違う世界になっていて驚いてもらえるかもしれない…いや、違う。彼はここでの歩みを今一時停止すべきでは無いような気がした。しかしこの軍勢を止める為の手段を自分は持ち合わせていない。
「これはまたどえらいことになってますな」ティアマトとクニオに遅れてグレゴリーもやってきた。流石にいつもの笑い声はない。
クニオは頭をフル回転させて考える。自分にはゾーニングとプランニングのスキルがある。目の前に迫る軍勢の個体数や距離は詳細に把握できている。先ほどのコルビーの言葉で分かったのは、アンデッドは魔力によってこの世界に魂が縛られている状態だという事だ。背後にある温泉のお湯は魔素を拡散、吸収する性質がある…。ティアマトに魔力を借りて、この温泉の原泉を軍勢に降りかければ動きを止められるかもしれない。いや、あの温泉は魔力を拡散してしまうので、魔法でまき散らすことは不可能だ。エンシェントドラゴンに助けを求める?いや、そこまで行く時間はもう残っていない。
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