第71話 サダヒデの工房にて(その5)
「丁度いいや、巻き藁じゃ良く分からないからこの短刀を試させてもらうよ」そう言ってコウは橋を渡って行ってしまった。向こう岸に辿り着いたところで、短刀を抜いて空に放り投げる。ゾンビナイトはコウに気が付くと剣を振り上げて襲い掛かってきた。コウはそれを見て風魔法を使って自身の体を宙に浮かせる。10mぐらい上空に上がったところで、相手の攻撃範囲から完全に出た事を確認し、先ほど投げた短刀の操作を本格的に始める。魔物と言っても人型ではあるので、心臓位置を狙って短刀はゾンビナイトに向かっていく。
『キーン』という甲高い金属音と共に短刀は地面に落ちた。どうもこのゾンビナイトの装甲を短刀は貫く事が出来なかったようだ。
「うーん攻撃力的にはこんなもんなのかな」橋を渡り切る事は無くても、向こう側まであと数歩という所で待機していたクニオたちに、コウのセリフが聞こえてきた。ユキヒラは悔しそうな顔をしている。そうして
「アダマンタイトで強化した我が刀でも貫くことは敵いませんでしたか…」と呟いた。
「見てください。今短刀の当たった部分が光り輝いています」コルビーがそう言った。
確かにコウの短刀が心臓を狙った部分の周辺は、泥がとれてゾンビナイトの装備している鎧部分がむき出しになっている。それは白銀色に輝いている。
「あのゾンビナイトはミスリル製の防具を装備しているようですね」コルビーが言った。
ゾンビナイトは単に騎士の死体が蘇生された存在だが、装備は生前のものがそのまま引き継がれる。ミスリル銀はアダマンタイトほどではないが、かなり貴重な鉱石ではあるので、その防具を装着しているこのゾンビナイトは、生前はかなりの実力者だったことが伺える。
「私が行きます」そう言ってクニオが橋の向こうへと進み出た。先ほどの巻き藁の感触で、どこまで何が切れるのかを試したいという気持ちがあった。橋を渡り切ると、ゾンビナイトはクニオに襲い掛かってきた。クニオは晴眼に構え、先ほどの巻き藁の時とは違って、今度はスキルのゾーニングを強く意識してみる。鎧には継ぎ目があるのでそこが弱点だと言えば弱点だが、先ほどコウの短刀では貫通できなかった防具部分をあえて狙うことにした。
丁度いい間合いで刀を上に振りかぶり、今度は斜めではなく上から下に一直線に振り下ろした。
先ほどと同じく刀を振る音はしない。何の抵抗もなく刀はゾンビナイトの体の中心線を通って、地面すれすれまで線を描く。巻き藁と違って、動いてクニオの元へと向かって来ていたゾンビナイトの体は、中央から二つに別れてクニオの左右を通って後ろへ抜けて行った。
余韻に浸ることなくクニオが後ろを振り返ると、二つに切断されたそのアンデッドは左右の肉体が引きあうようにまた結合し、兜と鎧部分には中央に先ほど切られた線が残ったものの、また一つに合体した。
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