第42話 谷間にて(その4)

 ギューズはユキヒラと対峙したまま、口で何かをブツブツと唱え始めた。それを隙と捉えてユキヒラはギューズに突きに近い形で切りかかる。ギューズは避けるそぶりを見せず、逆に攻撃を返してきた。そうして二人は相打ちとなった。深くはないものの共に脇腹に傷を負った。しかし次の瞬間ギューズの傷は見る見るうちに塞がっていく。一方ユキヒラは切られた傷口から、服に赤い染みが広がっていった。


「自動回復魔法というやつだな」ユキヒラは傷口を手で押さえながら、回復魔法を唱える。

「おっと、そうはさせないぜ」ギューズはユキヒラが呪文詠唱を終える前に、また切りかかってきた。かろうじてその攻撃は避けることができたが、呪文の詠唱は止まってしまった。もう一度ユキヒラが呪文を唱え始めると、またギューズが攻撃を仕掛けてくる。どうも最後まで詠唱できる様な時間はもらえそうにない。


「剣技では互角でも、魔法詠唱のタイミングや使い方に差が出るよね。魔法も戦闘時に使えるものを沢山持っているだろうし。ジョブスキルもあるんだろうな…」コウの言うとおりだった。その後ユキヒラとギューズは何度も剣を交わしたが、先に負傷してしまったユキヒラの動きは当然鈍くなってしまっていた。ユキヒラが回復魔法の詠唱ができないように、うまいタイミングでギューズは攻撃を続けている。


「加勢いたそうか?」二人の戦いを見て、グレゴリーはユキヒラに向かって言った。

「いや、お気遣いは御無用に願います」そう言うユキヒラの目は全く死んではいない。ただ戦いの方は防戦一方で、相手の剣を避けたり受けたりはしているが、傷からの出血量が増えて、更に動きは鈍くなってきている。残された時間は長くはなさそうだ。


 それでもギューズの攻撃の間隙をぬって、かろうじて距離をあけて構え直す事が出来た。しかし回復魔法を詠唱しようとすれば、ギューズはまた直ぐに襲い掛かって来るだろう。


「このまま続けたらお前は死ぬぞ。その前に刀を置いて下がるがいい。刀さえもらえればそれ以上深追いはすまい。そのあと回復魔法でもアイテムでも何でも使えばいい」しかしギューズの言葉にユキヒラがひるむことは無かった。次の瞬間ユキヒラの刀は光り始める。


「ほう、無詠唱で付加魔法か。どうやらそれが得意だったようだな。なぜ今まで使わなかった」そう言いながらギューズも付加魔法の呪文を唱え始める。ギューズの刀も光を帯びる。

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