第36話 工房にて(その2)

 建物の中に入ると玄関土間で靴を脱いで、板敷きの囲炉裏のある部屋に通された。囲炉裏の向こうには一人の小柄な男がこちらに背を向けて座っていた。

「師匠、客人をお連れしました」ユキヒラが師匠と呼ぶこの人物がサダヒデなのだろう。


「よくぞ参られた」そう言いながら振り返るサダヒデを見てコウが声をあげた。

「なんだヘジダじゃないか!何がサダヒデだよ」


「ん?お二人は顔なじみでしたか?」驚くグレゴリーにコウは説明する。

「前にちょっとね。こいつもドワーフだから結構長生きなんだ」そういうコウはちょっとうれしそうだ。


「はっはっはっ、コウ殿お久しぶりですな。いや、クスの孫弟子から酒好きのエルフがいるパーティーがこちらに来る旨連絡を受けましてな…やはり貴殿であったか。あれだけ世の中に関心のなかった貴殿が、パーティーに入るとはどういう風の吹き回しか?面白そうなのでいつも通り弟子と戦うのを、遠くから拝見しておりました。しかし到着まで随分と時間がかかりましたな…」サダヒデがそう言い終わる前に、コウは彼に抱きついていた。ここまで彼女が喜びを表に出すのは珍しい。


「キートで一番と言われる酒、『まつとも』を用意しておいたので今晩は大いに飲もうではありませんか」ヘジダ、いやサダヒデも嬉しそうに笑っている。

「流石ヘジダ、分かってるじゃん」コウはようやく、サダヒデに巻きつけた腕を解きクニオの方を見て言った。

「こいつはヘジダって言って、元々鍛冶職人のドワーフだ。昔は勇者の武器なんかも作ってたんだぜ」


「ま、つもる話はあとにしてまずはその刀を拝見するとしましょう」そういうサダヒデにクニオは刀を渡した。サダヒデは刀を鞘から抜いてまじまじと見つめている。

「なるほど、これはなかなかの業物ですな。しかもかなりの年代物です」サダヒデはそう言って、塚の部分の留め具を外して隠れていた部分の銘を確認している。

「『光世』と銘が刻んでありますな。ふむ、聞いたことがない。きっとかなり古いものなんでしょう」サダヒデがそこまで言ったところで、クニオは自分の方の自己紹介がまだだったことを思い出した。


「はじめまして、クニオと申します。ジョブは建築士です。その刀はここからは遠い地の、そう魔王城に比較的近い町の武器屋で手に入れたものです」クニオは簡単に刀についても説明した。

「刀は持ち主を選ぶというが、貴方もなかなかに数奇な人生を歩まれた、いやこれから歩むのかもしれませんな。そもそも建築士なんてジョブはこの老人にも初耳です」サダヒデは刀を眺めながらそう言った。

「だろ、私も初めて聞いたジョブだ。固有スキルも訳が分からない。本人は転生者だと言っているけどな」コウも同調する。

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