第17話 僻地にて(その8)

「そういえばコウさん達は魔王城を見学に行かれたんですよね。管理しているアドミンから聞きました。魔王城はどうでしたか?」宴もたけなわで、唯一しらふのコルビーが切り出した。彼以外は日本酒がまわってきて、みんないい調子になっている。


「面白かったよ。食べ物もうまかったし。しかしあの建物って誰が設計したのかコル君なら知ってるんだよね?魔族にも技術者みたいなのがいるわけ?」コウが聞く。それはクニオも聞いてみたいと思っていたことだ。折角魔王を目の前にしているのに、すっかり忘れていた。


「ああ、魔王城なら私の設計ですよ」コルビーは軽く答える。意外な答えにクニオは驚いた。

「魔王っていうのは建物の設計もするんですか?」クニオは思わず聞いてしまったが、何を言ってるのか自分でもよくわからない。


「正確には未来の私ですね」コルビーはそう言ってクニオの方を見る。

「私は転生時には時間の概念が消え失せるんです。その時に過去だけではなく未来の記憶もひとつになる。その中に魔王城のプランもあったんでしょうね。転生後それを元にして形にしました」


「あの~」おそるおそると言った感じで『三本槍』のローランが右手を挙げる。

「丁度魔王城の話が出ましたし、この『魔王城の歩き方』に著者であるクニオさんにサインしてもらえるとうれしいんですが…もしよろしければ家主のコルさんにも…」彼の左手の下には『魔王城の歩き方』が置かれていた。ローランもだいぶ日本酒がまわってきたのだろう。昼間の事を忘れているのかなかなか大胆な事を言う。ただわざわざ本を持ってきているという事は、酒のせいではなく最初からそのつもりだったのかもしれない。何にせよこの僻地への旅路に、自分の著書を持参してくれている事にクニオはうれしくなった。


「ちょっとその本を見せてもらえますか?」そう言ってコルビーは『魔王城の歩き方』に目を通した。アドミンと一緒で魔族の読書スピードは恐ろしいほどに早かった。あっという間に最後までページをめくると、魔王城の全体パースのページを開いてテーブルの上に置いた。


「これをクニオさんが書かれたんですか?挿絵や平面図も?」コルビーに聞かれてクニオは答える。

「そうですよ。結構よくかけたと思ってるんですよね。平面図の方は見せてもらえなかった場所が抜けているのが残念ですが…」


「ああ、アドミンの奴が変に気を利かせて、プライベートゾーンを見せなかったんでしょう?あそこの屋上庭園が見せ場なんですけどね…中庭の緑を見せる手もあったけども、それだと部下のいるところからも見えてしまう。こう、もっと閉じた庭を高低差を使って設けるという…」コルビーははっと我に返って咳ばらいをしてごまかした。


「なるほど…、いや、アドミンがやたら建築に詳しいパーティーメンバーがいると言ってたのはクニオさんだったんですね」コルビーはそう言いながら、また魔王城のパース画に見入っている。

「冒険者パーティーなのに、クニオのジョブは『建築士』なんだよ。そんな話聞いたことないよね?建築士がどうやって魔獣や魔物と戦うっていうのさ。ま、そこが面白いんだけど」コウもいい具合に出来上がってきている。ケラケラと笑いながら話している。


 コルビーは本を閉じ、少し考えてから口を開いた。

「そういうことですね…。合点がいきました。」


 そう言ってから彼はクニオの方をじっと見た。そうして…

「クニオさん、私を弟子にしてください」と確かにそう言った。

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