第16話 僻地にて(その7)
夜は宿屋の食堂で日本酒で乾杯した。コルビーだけは得体のしれない飲み物だった。米の発酵飲料らしい。
「ペドロが死んでなくて良かったよ。回復魔法も蘇生魔法も使えるから、アイテムを無駄使いせずに済んだ」コウがそういうと
「今日の酒代ぐらいは軽く浮きますな」と、グレゴリーはいつものようにガハハと笑った。
「ティアマトはケチらないでアイテムで蘇生するつもりだったんだからね。流石にペドロには頼めないし」コウはそう言ってティアマトとコルビーの方を見た。コルビーは笑っている。
今日の飲み会はにぎやかだ、『キュリオシティーズ』に『三本槍』、それに将来の魔王と七大魔将軍という豪華な顔ぶれだ。しかし『三本槍』のメンバーは日中の戦いの余韻からか口数が少ない。
ティアマトも似たようなものだった。
「しかしコルビー君とは久しぶりだよね。何百年かぶりだ。未だに魔王として転生し続けているんだろう?大変だよなー」そういうコウにティアマトは
「人前ではコルとティアーでお願いします」とやっと口を開いた。
「悪い悪い」コウは言葉だけで、反省している様には見えない。
「しかし本当にこの日本酒ってやつはおいしいね。」どうやらコウに日本酒は気に入ってもらえたようだ。
「この酒は温度を変えてもいけるというお話でしたな」グレゴリーはジョッキでがぶ飲みしている。
「日本酒は一気に飲まないで、ちびちびやるのがいいんですよ。温めて寒いときに鍋物と一緒に飲むと最高です」クニオの説明にはコウとグレゴリーだけでなく、ティアマトも食いついた。
「それは興味深い。ワインを温めて飲もうとは思わないが、この日本酒というものは確かに温めてもいいような気がする。熱いつまみに熱い酒…それは是非試してみなければ」やはり彼女はなかなかの酒好きと見た。
「一つ疑問なんですが、コルさんは…魔王軍は人族に勝ったことはあるんですか?あ、ていうか転生しても前世の記憶はあるんですよね?」クニオは聞いてみた。
「うん。完全じゃないけど記憶は引き継いでるよ。流石に何千年も昔の事は覚えてないけどね。覚えている限り魔王軍が人族に勝った事は…一度もない。僕が倒されたら魔王軍は解散だからね。勇者パーティーは僕が倒されない限りは、次々に戦いを挑んでくる。で、魔王は逃げちゃいけないから戦いに応じて…、結構がんばってもいつかは倒されてしまう。そりゃそうだよね。倒されるまでいくらでも勇者パーティーは、次々に現れては挑んでくるんだから。倒されたら転生してまた15~20年して魔王になって…、そうしてまた戦う…」
「いつも最終的には倒されると分かっていてなんで戦うんですかね?」クニオの素朴な疑問にはコウが応じる。
「それって本当に不思議なんだよね。前にね、勇者が魔王を倒して、次の魔王が現れるまで長く時間が空いた事があったんだよ。50年近くいなかったかな~。で、どうなったと思う?平和な世界が続いたと思う?」コウはそう言いながら『三本槍』のメンバーの方を見た。
「…人間同士で戦争を始めてしまったのさ。魔王軍が15~20年毎に現れると分かっていれば、人間はまとまってその戦いに備える。でもその外敵が現れないとなると、自分たちで戦いを始めちゃうんだよね。しょーもない」そう言ってからコウは日本酒をグビっと一口飲んで、更に続けた。
「なんというかこの世界では約束事というか、定期的に魔王軍が現れて人族と戦う事でバランスがとれているのかもしれないね。だから私はいつでもノータッチ」コウはジョッキをテーブルに置いてから、お手上げといった風に両の手のひらを上に向けて言った。
「でもそれじゃあコルさんきついじゃないですか。倒されると分かっているのに魔王になって、それをずーっと繰り返し続ける…。もういっそ魔王軍を組織しても、するぞするぞ詐欺で実際には戦争を始めなければ、勇者パーティーも魔王に戦いを挑む理由がなくなるんじゃないですかね?」クニオの提案にコルビーは答える。
「でも魔族や魔物だからね…人族と戦うのが定めというか…戦わないとかできるのかな?」辺境の地の居酒屋で、世界を左右する凄い話をしているような気もするが、酒の席での話なのでそこは良しとしよう。
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