7.今際の際

そこからは少し忙しくなった。

抗生因子のサンプルは完璧では無かったから、様々な調整を行った。


抗生因子の拡散モデルの計算や抑制手順の変更。


私自身も特殊発症者の検査を重ねて行い、また別の手法も試した。

より精度が増し、私が特殊発症者なのは”ほぼ確定的”となった。


抗生因子挿入の為のプログラムも作成した。


ガモフと何度も話し合い、実行日当日の手順を詰めた。


自分の死の行程を自身で整えているのは、何とも奇妙な感覚だった。

だが何故か”まともに生きている”と思えた。


何度も確認し、微調整を行い、シミュレーションもした。


実行日の前日、完成した抗生因子とその挿入手順に関するマニュアルをネット上に公開した。

そして明日、私たちが何をするのかも伝えた。





これを書いている今、ガモフが最終チェックを行っている。


もうじき私の頭には抗生因子が挿入される。

そうなればイーレムブートの発症も促進され、私は世界を治す怪電波を撒き散らして死ぬのだろう。


悔いはないと言えば嘘になる。だがそれを考えても仕方がない。

向こうに行ったら、たくさん謝ろう。


もしこれを誰かが見ているのなら、戦った人や犠牲になった人のことを調べ、憶えていてほしい。

君たちはもうイーレムブートの事を知っていても大丈夫な世代のはずだから。


私も今日、命を捧げる。

歴史の教科書に載る贅沢を許してくれるだろうか?


どうかこれが無駄死になりませんように。

そして願わくば、もう二度と人類の発想がその頭を突き抜けないように。















痛みはあるか?とガモフに聞いた。

彼女は一言『ない』と言った。


気休めの嘘か、本当の事なのかは分からない。


聞けなかった。

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