第三章 花の魔女
第15話 花の魔女、お留守番をする
広大な南の畑。そこはかつて隣国との戦いで、私が雷魔法や火炎魔法を打ちまくって荒れていた土地だったけれど、大して肥料をあげなくても何故か緑がすくすく育つので、畑として活用されている。
そこに夏野菜の種をまく事になり、お手伝いをしに来ていた。
先週の夜中、人がいないうちに畑全体に軽く雷の魔法を放っておいた。雨の魔法も少し使って散水。
みんなも頑張って耕して、土もほこほこ、いい感じ。
区画毎に種をまいていき、そこにパラパラと土をかけていく。
一区画は自由に使っていいと言われたので、自分用にカブと、ビートと、にんじんと、トマトと、…いろんな野菜を植えてみた。
収穫が楽しみ。
「ただいまー」
家に帰り、一人つぶやく。
気がつけば、ただいまというのが習慣になっている。
お帰りなさい、は今日もまだお預け。
アイセル君はまだ戻ってない。南の畑よりまだ南にある、かつて「草原の国」と呼ばれた国があった辺りに調査に出かけている。
サウザリアに滅ぼされ、なくなった国。
私の故郷、と聞いたけれど、住んでいた時の記憶は全くない。
国を滅ぼし、民を奴隷として連れ去ったサウザリアは、草原の国を併合する前に内乱が起こり、草原の国は放置され、今は荒れた廃墟だけが残っていると聞いた。
その近くに草原の民だった人々が集まり、小さな集落を築いているらしい。
草原の民の中にはちょっと変わった魔力を持つ者が生まれるので、王が調査を命じ、国の中で最も草原に近いフロレンシアにも協力を仰いだ。
花を食べ、それを魔力に変える魔女。一人で草原の国を守れるほどの強力な魔力を持つ魔女は「花の魔女」と呼ばれていた。実は私も「花の魔女」だ。
一緒に暮らしているアイセル君は、ここフロレンシアの氷魔法の騎士。いろいろあって私の婚約者になっているけど、そのきっかけが私が「花の魔女」だったから。
その「花の魔女」を生み出す草原の国の調査と聞いて、花の魔女の信奉者であるアイセル君が参加しない訳がない。
三週間の予定で出発し、昨日が丁度三週間目。数日のずれはよくあることで、もうそろそろ帰ってくるかも、もしかしたら今日は家に戻っているかな、と思っていたけれど、まだだった。
調査隊には、フロレンシアからはアイセル君を含め六人が参加している。
新たにできた集落を視察し、隣国サウザリアの動向を探る。加えてこの国チェントリアはかつては草原の国に戦争を仕掛けた前科があるので、草原の集落を侵略しないことを伝えるつもりらしい。
王様も「花の魔女」の信奉者だ。王様はかつて草原の地で花の魔女と戦い、その美しさにときめいたようなことを話してたけれど、前王の命令で自分の仕掛けた戦争中にサウザリアにも襲撃された草原の国は、花の魔女を失い、滅びてしまった。
今草原の国に近い所に戻っている人たちは、奴隷になっていたところを王様が買い戻し、王都チェントリアまで連れて来た人達だろう。王都での奴隷待遇に嫌気がさし、王都を去って行った人たちが多いと聞く。チェントリアにいい印象は持っていないだろうけど、刃向かうほどの力もない。
できれば恨みを忘れてもらい、相互不可侵でお互い平和に暮らせればいいな、と思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます