第14話 花の魔女、氷の騎士と暮らす

 フロレンシアに戻ると、結局そのままアイセル君の家に居座ることになり、二日後にはアイセル君との婚約の書類が整えられた。あっという間でびっくりしたけど、お互い好きになったら割とそんなものらしい。

 周りの人達は、そうなるだろうと思っていたらしく、私が家を探すのをやめたことにずいぶん安心していた。


 領主のライノさんには、私の花の魔女の力が弱まっていて、そのうちなくなるかも知れないことを伝えたけど、

「別にいいんじゃない?」

と、意外とあっさりしていた。

 そんなに期待されてたわけじゃないのかな?


 アイセル君には言わなくていいと言われたから黙っているけど、私が元草原の国の奴隷上がりだってことがわかったら、ライノさんやノストリアのおじいさまも王子みたいに私のことを毛嫌いして、身内になることを反対されるんだろうか。そう思うと、ちょっと気が引けた。

 奴隷から救ってもらえたことには、王様に感謝しなければいけない。


 王様からはその後もう一度「嫁に来るか?」と言われたけど、婚約したことを言うと、「フロレンシアならいいか」と、こちらもあっさりと引き下がってくれた。

 要するに、力はなくしても念のため国に留めたかっただけらしい。所詮、草原の花の魔女の代役だし、花の魔女でなくなれば興味も続かないに違いない。

 聞いたところによると、後継者を第一王妃のところの王子から第三王妃のところの王子に変更したらしい。お城はバタバタしているようだけど、ようやくお城の中のことも考えるようになったのかな。

 そういえば、あの婚約者だった王子の名前、思い出せずじまいだ。名前も覚えてないような人と結婚せずに済んで良かった。


 そして、私は…

 実は、花の魔女の力が戻ってる。

 あの後、アイセル君の魔力の詰まった氷の結晶を食べれば、氷魔法だけガンガンに使える状態が続いていた。「氷の花の魔女」に名前を変えることになるかと思っていたのに、時間とともにいつの間にか自分の魔力も回復していて、花を食べると魔法が出せる花の魔女に戻っていた。いや、戻ったというか、氷の花の魔法も使えるから、強化されたというべきか。

 例え花の魔法が使えなくなっても、氷の花がある限り、私の魔法がなくなることはないかもしれない…。


 あのムカデ討伐の時のでっかいアイスブレード。

 アイセル君は密かに練習し、いつもの自分の剣を持てば同程度のものを出せるようになっていた。

 一度、どっちが大きいのを出せるか比べっこして、…勝っちゃった。

 アイセル君は悔しがるわけでもなく、私のアイスブレードを出すところをじっくりと観察していた。とは言っても、私のは真っ直ぐ飛ばないから、どう考えても実用性はアイセル君の方がある。大きさだって、そのうち私を越す日が来るだろう。

 氷魔法と隠密魔法は、アイセル君には適わない。剣を使えば、私に勝てる要素はない。それは悔しいことではなくて、嬉しいこと。私は無敵じゃないし、最強じゃない。一人で頑張らなくてもいいし、助けてあげても、助けてもらってもいい。


 今日も氷魔法をおやつに食べる。甘いイチゴの凍ったの。

 乗馬はギャロップもできるようになった。毎日馬のお世話だってしてる。

 通いで来る料理人のアレンさんに、ごはんの作り方も教えてもらってる。

 近所の庭師さんに、季節のお花を欠かさないコツも教えてもらった。アイセル君がいっぱい花を植えてくれて、今おうちの庭は花が満ちている。

 収穫があれば、ご要望に応じてお手伝いに行く。私が花の魔女なのはみんな薄々感づいていたらしい。でも、お手伝い以外に力を求められることはない。


 ここで暮らせるかな。ちゃんと、ここで生きていけるだろうか。

 きっと、大丈夫。

 花の魔女でなくてもいいと言ってくれた、あの人のそばだからこそ、花の魔女として、生きていける。例え、花の魔女じゃなくなったって。

 大好きな、氷の騎士様となら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る