最期のパーティ
私の大好きな家庭向けARダイブ型ゲーム「ソード・オブ・ファンタジー〜魂の願望〜」はお世辞にもそんなに人気を維持し続けられていたゲームではないし、使用出来る人が近年の政策で押し進められた「テクノロジーチップ」を移植している人しか出来ないゲームだった。
「テクノロジーチップ」なんて、いい歳した大人達が「基本的人権の〜」とか「総理大臣やめろー!」とかそういうデモ活動もあったしどうなるのか分からず、装着せずに居た人もいるだろう。
そういう背景もあって人口が元々少なかったのもあり、知名度は低いゲームだった。
最初は発売前のPVや開発者インタビューなどでSNSで注目を集めていたし、滑り方も好調。ファンとしては有難い話だった。
けれどそれも最初だけ。バランス調整不足や難易度の問題、敵の理不尽な攻撃や回避までのコントローラーの反応速度などなどの問題点が明らかになりユーザーは減って行った。
私はそんな中でも予約限定版を購入してプレイし続け、イラストで一目惚れした世界最強と呼ばれる剣使い、剣聖アレックスが大好きだった。
剣聖アレックスは主人公が味方に出来るキャラクターの中で「設定上」は最強の人物だ。
何度も言うが彼の強さは「設定上」だけである。
何故設定上だけなのか。それは私も開発者に尋ねたい所だ。
性能から大きく離れた設定を背負い、世に放たれたキャラクター「剣聖アレックス」はこのゲームの汚点としてネット上で名を馳せることになった。
悪い意味で話題になった彼だが超大手売れっ子声優を起用されていたり、キャラクターデザインは長い間サービスが続いているソーシャルゲームで何人も手掛けた有名な人。各方面から好きだという人はいれど、アレックスの話題を出す事は次第になくなり、二次創作をしていた人もブームが過ぎたのかいなくなっていった。
新規と古参の入れ替わりが激しいその中で唯一アレックスを推し続けていたのは私だ。
別にマウントを取っているつもりは無いけれど、最終的にそうなったから事実を言っているだけ。
だって私が自殺する前日に投稿された小説以降、この数年間で誰も新作を投稿していないのだから。
イラストも私が描いた美麗とは言い難い作品だけ残っていて、評価もまちまち。
でも私は絶対に推す事を辞める気は無かった。その執念のおかげか、私がこうして「異世界転生した」という体でここにいる事も皆は気付いていないくらい溶け込めている。
ゲームの筋書き、キャラクターのセリフはアレックスが関連するなら全て覚えた。
それもこれも、私たちの世代では取付が必須になっている「テクノロジーチップ」のおかげだ。
「テクノロジーチップ」とは安楽死を認可した政府の政策により発明された科学技術品である。
脳に移植する事で取り付けられた人物の思考や性格を記録し、死後に「ARデーターベース・ヘヴン」という政府に管理されているデータ空間で新たな生を受ける……といったものだ。
生と死の感覚を曖昧にした事で人々に「恐怖のない死後」と「苦痛のない生活」を与える事が目的だと言うけれど、本当の目的はこの世界へ来る前に知ってしまった。
私が今このゲームの世界に居るのは死んだ後に「ARデーターベース・ヘヴン」で生まれたからだ。
死ぬ直前の記憶、衝撃は全て覚えているが自分が電脳体である事がはっきりとわかっていたからそう思った。
私が死を選んだ時から計画は始まっていたし、それが予定通りに実行されていくのは初めてで気持ちが良かった。
「ヘヴン」にデータとして刻まれた後、うんざりする程の悲惨な人生から目を逸らし剣聖アレックスと会う為に作ったこの計画。
簡単に言えば自殺してデータへと生まれ変わった私がインターネットでも何でも使って「ソード・オブ・ファンタジー」に「既存データ」として私が侵入してしまえば原作崩壊でも原作基準でも楽しめる素敵な「私の為だけのソード・オブ・ファンタジー」になるのだと信じて実行した。
「ヘヴン」に作られた仮想都市の一番端のサーバーの壁を越え、「ソード・オブ・ファンタジー」が入っているサーバーのファイアウォールへ辿り着くまで色々ウイルスに引っ掛かってしまったりしたけれど。
それでもなんとか入り込んで、私は無事に「ソード・オブ・ファンタジー」の「既存データ・主人公」としてこの世界で生きる事が出来た。
原作通りのルートではあったものの、今までストーリーに関わってきた人物達の生活が見れて本当に感動したのを覚えている。
現代社会の様にインターネットは発達していないし、国を治める王へ刃向かう話も場所によっては聞かない。
何より人々の醜悪さを武力で解決するのが正しいこの世界は、私にとって楽園だった。
いじめられれば、いじめ返せばいい。殺されたら、殺し返せばいい。
力こそが全てなんだと、己の正しさを法律に捕らわれず証明出来るこの世界は本当に素晴らしいと思った。
美しい森、大地、王都や村もゲーム内で見たまま。風の匂い、雨の匂い、火の匂い、オークの体液の臭さとか、薬草の苦味、怪我をした時の痛み。
それら全てを、この「物語」が始まった瞬間から──。
勇者の親友である「剣聖アレックス」の隣で体験したのだ。
始まりの街から、最後の魔の玉座まで。沢山の敵を薙ぎ倒して危機を乗り越えて、この世界を覆う闇に打ち勝ったんだ。
在り来りな魔王の「世界の半分をお前にやろう」という言葉にも背いて、彼と共に世界を守ったのだ。
この後の物語なんて知らないし、どうでもいい。けれどアレックスと世界を守った後なんて、在り来りな王道ファンタジーだしお姫様と王子様は結ばれるものだ。
そういう世界で今度こそ正しい終わりを、愛する人と家庭を作って最期を迎えるのが正しい世界だと、アレックスとなら愛し合えるのだと信じている。
「ルナ、おい、ルナ」
この冒険を。私の今までのクソみたいな人生を振り返っていた所だったが鼓膜を揺さぶる声が私の大好きな彼だと気付いて意識が戻ってくる。
今この場所が王国の城で、私達を労う立食のパーティ会場だと気付いた頃には私は振り返って正装しているアレックスを視界に収めていた。
振り返った拍子に魔王を討った剣があって、揺れて足に当たると少しだけ嫌になった。
「アレックス……」
「どうかしたのか?ほら取ってきたぞ」
彼の手には皿に乗ったデザートの山。私の大嫌いなチーズタルトが多めにあって、私の好きな苺のケーキは一個しか乗っていない。
彼が持ってきた物は「主人公」の好物だ。
「……ありがとう。ちょっと疲れてるみたい」
彼が差し出してくれた皿を受け取って、一緒に乗っていたフォークで大嫌いなチーズタルトを口に放り込んだ。
滑らかなチーズが吐き気を誘う。
うぷ、と声が出そうになったのが原因なのかアレックスが私の手の上の皿を奪い背中を開いたドレスで露出されている私の肌を撫でてくれた。
彼の手が手袋で覆われていたのが、とても不快だったけれど嬉しい。
「平気なのか」
優しい問いかけにこくんと頷く。彼を見上げながら眉を下げて申し訳なさそうな態度をしてみる。
「お酒に、酔っちゃったみたい……」
アレックスは心配そうな表情を浮かべて、私の肩を抱く。
彼の大きな手から伝わる温もりが優しくて、私の胸がずくりと痛くなる。
アレックス、私の剣聖アレックス。……私の、私の王子様。
「お前は酒に弱いからな、……風にも当たるか?」
彼の言葉にはだいたいYESで答える。今も、これからも。
「そうしようかな」
アレックスに支えられながらノロノロと私達は外に出ていく。
石で造られた城の廊下は風がよく突き抜ける。高欄に手を置いて体重を任せると、アレックスの手は離れた。
私の肩が水を掛けられたように冷えていく。
「……綺麗だ」
弾かれたように彼を見る。
アレックスは静かに腰に携えたサーベルに手を置いて柱に背中を預けていた。
その視線は私ではなく、月夜に照らされて良く見えている城下の街に注がれていて。
「そうだね」
私の事かと思った、とか。そういう事言えたらいいのに。
アレックスと死線を乗り越えて、ずっと私がアレックスの傍に居られれば素直に告白してくれるのかなとか思っていたのに、上手く事が進まない。
それでも、アレックスがいつか私を見てくれるならまだ時間もあるからと許せるのだから本当に恋する乙女って単純だ。
「……これから、俺は騎士団に入る事になった」
アレックスの視線が、私に移る。やっと目が合った。彼の視線を独占出来ている事が嬉しくて笑って見せた。
「私も来ないか、って勧誘?」
「いや。……お前は王族に嫁げばいい」
アレックスの視線が、目が、優しいものになっている。
その目は、私を見ているはずなのに、別の人を見ているような。
「……お前に剣は似合わないからな、お前の幸せを見ていられるなら、護れるのが幸せだ」
アレックスの声が、聞こえない。
「俺はお前の事が好きだけれど、お前はやっぱり……良い男の隣で居るのがいい」
後頭部を鉄パイプで殴られたような感覚に陥って、そのままグラグラする。
「俺達は一緒になるべきじゃないんだ」
胃からせりあがってくるチーズの香り。甘くて、気持ち悪くて、視界が揺れる。
「第一王子がお前の事を気に入ったみたいで、今日はそのお披露目もあったんだが」
アレックスの口が動いているから、聞きたいのに、ずっと聞きたいのに。
「酒に弱いこと、王子に言っておかないとな」
アレックス、の、声が、聞こえない──
「アレックス」
吐き気を、胃からせりあがってくる物を呑み込んだ。
「……どうしたんだ、……? 体調が悪化したのか?」
潤んだ視界を一度閉じれば私の目から涙が零れ落ちていく。
「違うよ、平気だよアレックス。ねえアレックス、私いいこと思いついたの」
私の視界がバグった画面みたいに色ズレして、アレックスの美しい金色の瞳がもう元の色として見えなくなる。
右腕が痛い、ような。そんな気がする。
「ルナ……?」
一歩、一歩と彼に近付いて、彼の胸元に手を置いて、ぐっと握り込む。
本当は彼の大事な正装にシワ一つ残したくないし、何よりシワだって私が彼の服にアイロンをかけてピンとさせて完璧な衣服をアレックスに与えるのが、「妻」である私の計画だったのに!
「アレックス、アレックスは私の事好きなの?」
私の問いに彼は顔を逸らす。
「……ま、まあ……その、な」
その頬が赤らんでいるのかも分からない。はっきり言ってくれないと分からない!
「私はアレックスの事が好き!大好き!こんな風に世界を救ったのだって大嫌いなチーズタルトを食べたのだって全部全部貴方の笑顔が見たいから!ゲーム序盤からどんなに貴方の性能が弱くったって貴方の美しさや心の輝きは誰だって汚されたくなかったし傷一つさえ許せないの!何よりも私は貴方の事を愛していたからどんなに私が危険に晒されたって構わなかった!私は貴方を愛してたううん愛しているの!会った瞬間から!貴方の瞳を見た瞬間から!ずっとずっと大好きなの!貴方と一緒に居られないなら私はどれだけ苦労して守った世界だとしてどうでもいいの!世界よりも貴方との未来が欲しいの!貴方が手に入らないなら私は世界も地位もいらない!!!!いらないの!!!!」
私の絶叫が響いて、彼の表情が色ズレで完全に見えなくなる。
アレックス。私のアレックス。この視界で例え本当に美しい人である貴方を見ていても、貴方が私を見てくれないのならこの世界なんてどうでもいい。私の大好きな貴方、愛しい愛しいアレックス。
「貴方が私を望まなくても私が雋エ譁ケ繧呈ャイ縺励※繧九!!」
「ルナ!!」
私の肩が強く掴まれる。色ズレが一瞬だけ治って、泣きそうな顔のアレックスが見える。
アレックス、泣かないで。私は貴方を泣かせたい訳ではなくて、ただ、ただ笑い合いたいだけなのに。
「ルナ、落ち着け!お前の気持ちはよくわかった!」
もう遅いのアレックス。私はもう止まれない場所まで来てしまったの。
「アレックス、私と一緒に新しい世界を見よう?」
私の身体の中に感染していたウイルスが、私を介してこの世界にばら撒かれていく。
私の身体の一部分が黒くなって、データが破損していく。
けれど、それは私のガワであった「主人公」というデータだけ。
「ルナ……?! っ、やめろ、ルナ!」
アレックスの腕を掴んで彼を引き寄せる。残念でしたアレックス。貴方はもう世界を救った「剣聖アレックス」には戻れないの。
彼も私の手から伝わったウイルスに感染していく。彼の顔が焦りに変わって、痛みに歪んで変わっていく。
そうだよね、データにとってウイルスは致命的で即効性の毒のようなものだもの。
けれどその表情の変化が私によってもたらされているという事が、本当に幸せだと言うこと。
貴方と過ごしたこの「ソード・オブ・ファンタジー」という世界がさっきまでは本当に大事だったということ。
この胸の内の全てがアレックスを愛した気持ちの証明だという事がよくわかるんだ。
「ッ、ルナ、……!」
私の手が引かれた。そのままアレックスの腕の中に閉じ込められてしまう。
彼の腕の中。アレックスの、温もりが。私の身体が彼に囚われて、世界がここだけになってしまったような感覚に陥る。
「あれ、くす……?」
「俺はお前がどんな事になろうと愛している!本当はお前を王族にだって渡したくない!でも、でも、俺では自信が無かった!お前が魔王になるのはダメだ、罪を重ねるな!俺だけならいい、俺はお前の為なら死んでもいい!」
アレックスの叫びが聞こえる、彼の声が必死になっていて、私の色ズレした視界が元に戻っていく。
愛してる、愛している──。
私がずっと欲しかったアレックスの言葉が聞こえる。
私の大事なアレックス。愛しい貴方。
永久に止まらない私の美しい人。
「……私も愛してる、アレックス」
ウイルスで黒く染まり、彼の大事な物は私の手で潰える。最後まで残ったのは彼の剣だった。
私が終わりをもたらす災厄になれることを、彼は最後まで気付かなかった。
私がどれだけ彼を愛して、私がどれだけ世界を愛して、どれだけアレックスを信頼して未来を見ていたのか。きっとこの世界の誰も私を理解してくれないだろう。
「いただきます」
彼と言うウイルスに歯を突き立てる。彼の頸動脈から血は溢れない。
ウイルスに犯された彼の大きな手が私の後頭部を撫でる。
もう痛みで言葉が出せないのだろう、ぜえ、はあ、という彼の吐息だけが私の鼓膜に美しく響く。
この息が例えばベッドの上で聞こえていたなら、それはきっと幸せな未来が約束されていたはずなのに。
「美味しいよ、アレックス。貴方というデータは一番美味しい」
この世界の何よりも彼というデータは実際美味しかった。
彼が旅の最中に作ってくれた男らしい豪快な料理も、彼が作ってくれた物で全てが美味しいと感じた。
けれど、それでも食感はあまりいいとは言えなかったのだし。
愛しい愛しいアレックス。貴方が私を突き動かしてくれる食事になってくれるなんて。
「私、もう誰一人にだって触れさせられないよ……アレックスが私の血肉になるんだから……」
もう顔も黒くなって見えなくなった彼は返事をしない。
力を無くした彼の身体が私に寄りかかって、私の身体に黒い光となって吸収されていく。
「……アレックス、私の中で、ずっと一緒だよ……。出してあげるからね、新しい世界を作ったら」
最後に私が抱き締めた彼だった物は私の中に吸収されて、彼と私は一つになった。
美しい美しい、最期だった。
剣聖アレックスはヒロインと一緒に放浪の旅に出る。
この世界の美しさを脳裏に刻んで、この世界は滅ぶ運命だったのだとそう書き換えた。
私が手を翳すと、黒い煤の様なものが床に落ちてそこからじわじわと感染が広がっていく。
この世界の終わりは、夜明けと同時に来るのだろう。
「……メンタル」
回復魔法を唱えて、私の精神に作用する術を掛けた。先程よりは思考が明瞭になって、言語化しやすくなる。
私の身体の中にアレックスがいる。その事を思う度に心が満たされて口角が上がる。
「テレポーテーション」
ゲーム内ではお金を払って特定の場所にしか飛べないテレポーテーション。これはシナリオクリアの二周目特典で、私が所持しているのは当然だ。
城の屋根にテレポートして、今は何の変わりもない街を見下ろす。直に人々が悲鳴を上げ始めて私の目の前に助けてとなだれ込んで来るだろう。
そんな暇も与える気はないけど。
私はもう何度も彼とこの大地を駆け抜けて、アレックスが生き残るまでやり直して来た。
何度も、何度も、何度も。私の目の前で死ぬアレックスを見てきて、その笑顔を守りたくて、何度も何度もやり直して。
彼の為に私は何をしてきたんだろう、この行為が無駄では無かったと証明するにはどうすればいいのか分からない。
「いっそ、ウイルスなんかより炎でも使えたらいいのに」
私の身体の中からバグが沢山消耗されて、倍以上になって帰ってくる。
私の大事な人を糧にして解放した力。ウイルスを感染させて、バグとしてデータを置換し私の力となっていく。
最初はウイルスを感染させるだけだったはずなのに、アレックスと何度もやり直していく中で私のデータは徐々に変異して行った。
私の大好きなアレックス。英雄アレックス。剣聖アレックス。亡き仲間アレックス。
沢山彼を表す言葉はあるけれど、私の中で彼はいつだってただの「アレックス」なのだ。
彼が剣を取っていても、取っていなくても。例え死んでいようと、死んでいなかろうと。
彼は「アレックス・カルセイン」という一人の人物で「
「……アレックス、この世界はとても美しかったね」
骨すら私の一部になってしまった彼を想う。
そっと目を閉じて、私の事を抱き締めてくれているような感覚を貰って胸が締め付けられて震えていく。
涙が出そうなくらい嬉しくて、涙がこぼれていくくらい悲しい。
「大丈夫、大丈夫だよアレックス。私がちゃんと──私が、アレックスを元に戻してあげるから」
元々人間は嫌いだったし、殺す事に何の罪悪感だってない。
「アレックス、アレックス。私の貴方」
この世界で、私に勝てる人はもう居なくなってしまった。
私の息の根を止めることが出来たのは、いつだってアレックスだけだった。
「行こう、アレックス。まずは復讐をした後に。私と一緒に、新世界で受肉しよう……」
私の気持ちに反応しているのか、気付けば水平線の向こうまで私のウイルスが侵蝕していた。
この城も全て食い潰してしまえば、またインターネットに接続してこの世界から離れればいい。
アレックスが選んでくれた美しいドレス。このドレスは大事に残しておきたいから、データを保存してセーラー服に着替える。
アレックスが腰に携えていた剣を私の剣の隣に揃えてぶら下げる。
少しだけ動きづらいけれど、でもこれで負けるくらい私は弱くない。
「フライ」
飛翔魔法を唱え、城から浮いてしまえば世界の終わりを嘆く声すら聞こえなくなった。
レベルカンストプラス余剰分、スキルは全て上限まで上げてスキルポイントは余っている。
私がこのままのステータスで別の世界に干渉できるのなら。というより死者しか居ないあの「天国」なんかきっとどうでもいいんだ。
所詮「死」から逃げようとしている愚か者達だし、私をいじめた人類に安らぎなんて私は与えたりなんかしない。
黒く染まり、私の力になっていく「データ」を見下ろす。
「……行こうか、アレックス」
甘くて美しい夢の名残りを捨てて、アレックスとの世界に、「故郷」に。全てを残して。私の体内に入って、溶け合って、最期まで一緒に。
「……私達、これから永い付き合いになるね」
微笑んで、この世界の領域の端を目指してずっと飛んでいく。
数分ぐらいすれば赤いハニカム構造の壁が見えてきて、そっと触れると硝子が割れる音が響いて私の目の前から壁が崩れて消えていった。
その空間に一歩。恐る恐る入り込んでみた。
痛みもなければ行動が制限されたりステータスが下がった感覚もない。
もう覚悟は決まった。私は私の幸せの追求の為に手を抜かないと決めたから。
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