第4話 ドラゴン
コツコツ、とシュウに頭をつつかれて、イザークは目を覚ました。カーテンの隙間から光が漏れている。外はもうだいぶ明るくなっているようだ。
目覚めて昨日よりはすっきりした頭で、両親の手紙の真実を確かめようとイザークは決めた。
「お前もそれでいいよな?」
シュウはわかったのかわかっていないのか、目をぱちくりとさせた。
地図に示されたドラゴンのいる地までは、一週間ほどかかった。イザークはところどころで情報収集しながら進んだ。
目指す場所には昔セントールと呼ばれる町があったらしい。しかし20年程前にドラゴンによって滅ぼされ、今は誰も寄り付かないとのことだった。ドラゴンは当時からの居住地、セントールの町からすぐのザルチェ山の山頂にいると今でも噂されていた。
「あんた、本当にそんなところに行くのかい?ドラゴンについてはあたしゃわからないけど、今あそこは人っ子一人いないらしいよ。」
セントールから一番近い村の宿屋を出ようとするイザークに、女将が心配そうに声をかけた。
「確かめたいことがあるんだ。大丈夫さ、危険があればこいつがすぐに教えてくれる。」
イザークは右腕にとまるシュウの背中を撫でた。
セントールの町は、ものの見事に廃墟と化していた。当時は立派であったであろう教会の屋根はなく、壁にはつたがぎっしりとはびこっている。
空はどんよりと曇り、空気は心なしか重たかった。シュウは気分が悪そうだったが、危険を感じてはいなさそうだった。
町の奥に山道へと続く階段があった。意を決してイザークは一歩一歩、階段を上っていった。
しばらく行くと階段はなくなり、草がぼうぼうと生えた獣道になった。とげのある植物や突然目の前に迫る枝などに気を付けつつも、イザークはずんずん進んでいった。シュウは空を飛び、イザークより前にある程よい枝にとまり、イザークが追いつくとまた飛び立ち…と繰り返した。先行して安全確認をしてくれているようだった。
山頂に辿り着いたが、そこが一番高い場所であることを示す石碑が置かれているだけであった。そこからは、町が一望できた。滅びる前は美しいところであったと想像することができた。
ドラゴンの噂は真実ではないのかと半ば嬉しく、半ば残念に思い帰路に着こうとするイザークを「キチョ、キチョ!」と鳴いてシュウが止めた。
シュウがいるあたりの茂みをかき分けると、不思議な模様の書かれた赤ん坊程度の大きさの石があった。シュウはやたらにその石をつつく。どかしたいようだ。イザークがその石を力任せに動かすと、雷が落ちたかのようにパッと一瞬辺り一面が白い光に包まれた。
イザークが目を開けると、不思議な石があったところに人一人がやっと通れる程の洞窟の入り口が出現していた。階段があり、下に向かっている。イザークはごくりと唾を飲み込み、カンテラに火を点けてから中へと進んでいった。
もう何段下ったのかわからないくらい、イザークは長い間歩いていた。始めは差し込んでいた外の光も、全く届かなくなってしまった。今はカンテラの明かりだけが頼りだ。シュウは静かにイザークの肩にとまっている。
下の方にぽつりと明かりが見えた。どうやら出口のようだ。あの先にドラゴンがいるのだろうか。イザークの心臓の鼓動が速くなる。汗が噴き出す。肩を掴むシュウの鉤爪の力が強くなる。
階段の先の出口を出ると、そこは大きなホールのようだった。大聖堂の中のように広い。地中のはずなのになぜかぼんやりと明るく、中を見渡すことができた。
それは、中央にいた。巨大だ。そこらの家より一回りは大きいだろう。全身が緑のうろこに覆われている。しっぽにはとげが生えていた。広い空洞の真ん中で、首をもたげて皿のように大きな黄色い目でイザークを見つめていた。
「ドラゴン…!」
イザークは緊張のためもたつきながらもホルスターから拳銃を出し、ドラゴンに向けた。
「……。」
イザークは拳銃をホルスターに戻した。どうもおかしい。あの生き物からは敵意を感じない。肩にとまるシュウも警戒の声を上げないし、逃げない。本当にあの生き物が両親の故郷を破壊し、呪いをかけたのだろうか。
「お前が封印を解いたのか。若者よ、名はなんと言う?」
ドラゴンの口元は動いていないが、イザークはそれがドラゴンの発している言葉であるとわかった。直接頭の中に響いてきて、不思議な感じがした。
「俺はイザーク。こっちは相棒のシュウだ。」
ドラゴンが頷いたように見えた。
「イザーク、シュウよ、お前達はなぜここに来た?偶然ではあるまい。」
イザークがちらりとシュウを見やると、危険はないといったようにシュウはゆっくりと瞬きした。イザークはドラゴンに両親の手紙と地図について話した。
「ああ、やはりそのように伝わっているのか。」
どうやら、人魚の秘薬が見せた両親の手紙の内容は間違いないようだった。しかし、ドラゴンの様子だと本当は違うことが起きたような印象を受ける。
「お前の両親を私は覚えている。お前には真実を知る権利があると私は思う。」
そう前置きして、ドラゴンは話し出した。
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