第26話 再会
気がつくと私は日の差し込む回廊に立っていた。近未来的な分厚い金属の天井と床。
そして回廊の両側はガラスとは違う透明な素材で壁が作られていた。
「リスポーン、したのか?ここはどこだ?いや、見覚えがある・・・」
そうだ、思い出した。ゲームではラスボスへの道でT字路を左に曲がるとここへ来たのだった。
回廊の中ほど、左右の透過した壁の先にこの世界を一望できる。
ちょうど視線と同じ位の高さに空を投影したバリアがある。ゲームではそのバリアの上に宇宙が見え、この世界が宇宙を航行する船、兼コロニーだということが明かされる仕掛けになっていた。今はその宇宙があるべきところには虹色の混沌が渦巻いている。
エリカ達の事は気にかかるがどこか熱に浮かされたように、何かに導かれるように、私は一歩、また一歩通路を進んでいった。
そしてしばらく進むと、通路の中心に女性が立っているのが見えた。こちらに背を向けていて表情は解らない。
「スーパーウルトラカミオカンデが観測した未知の粒子。それは上位世界との門から漏れ出したエネルギーが自己組織したものだったわ」
彼女は静かに語りだした。
「しかし、こちらから観測出来るということは向こうからも"見える"という事。そして門は開かれた、ハスターによって。そこはエネルギーと物質の境界が曖昧な世界。巨大なエネルギーが自我を持ち多数うごめく古き神の国」
私は一歩ずつ彼女へと近づく。
「その精神体エネルギーの力を借り受け、持ち帰るにはそれを観測し、三次元に固定して我々が制御出来るようにしなければならない。そのためにはシステムの中核となる生贄が必要だったわ」
私はまた一歩近づく。
「組合はどこからかその世界の情報を掴んでいた。だから閉鎖されたカミオカンデを買い取っていたの。組合は貴方の脳神経のパターンがこの上位世界に保存されていると言ってきた。ある神が死した人を集めていると。だから志願したの。貴方をこの世界のエネルギーで物質化して復元するために。それにはある程度広い箱庭世界が必要だった。だから一緒に遊んだセカンダリー・カダスの世界を元にしたわ」
私は彼女の直ぐ側まで来た。そして彼女は振り向いた。
「キリちゃん」
振り向いた彼女を見て私はその名前を呼んだ。彼女が私の胸に飛び込んできた。
「会いたかった!!タケルちゃんっ」
幼なじみの、羽村霧子。私を唯一心配してくれる人間だ。
「ここにいるということは君まで死んでしまったのか?」
「死とは少し違うかも、ゲートから上位次元に出た段階で私の肉体はエネルギー情報に分解されているわ」
「私は君には生きていて欲しかったのに・・・」
「前に言ったでしょ?あなたが死んだら生きていられないって」
「しかし、こんなところまで追いかけて来なくても・・・」
「いいのよ。でも本当に良かった。会えて・・・」
「そうだ、キリちゃんと再会できたのは嬉しいけど今は仲間を助けに行かなければならないんだ」
「私と抱き合っているのに他の女の話?」
「すまない。大切な友人たちなんだ」
「あなたはただの友人と思っていても、向こうはどうかしら?」
「おい」
「・・・冗談よ。私、見ていたから・・・。私の本体はこのセカンダリー・カダスのシステムそのものよ。ただ人間体として現出できるのがラストダンジョンだけなの。というか現出できる機能を付けられる余剰があったのがここだけだったわ」
「アナウンスはキリちゃんの声じゃなかったみたいだったけど」
「あれはゲーム準拠よ。ほとんどは自動。私がセリフを乗せたい場合だけその通りに話すわ」
「まだ、聞きたいことは有るけども、行かなきゃ。しかしUNKNOWN、ゲームより強くなってないか?」
「元々はあのラスボスに上位次元で集めた意志を持つエネルギーを集中させ、まとめて回収するはずだったの。ゲームを元により拡張したエネルギーを持っているわ」
「じゃあ、どうしたら勝てるのだ・・・・・・」
「安心して、計画にないエネルギーを私が独自に集めていたから。アトラク=ナクアを始めとして、ボスを掌握してその中に隠しておいたわ」
「まさか俺の中に入ってきた黒い球は」
「ええ。あれはシステムではマテリアルとして認識されているわ。覚えてる?ゲームでクリア後のエンドコンテンツで必要になった素材」
「そんなマテリアルをどうしろと・・・いや、まさか、でもアレはDLCマップでしか作れないはず。初期マップのここでは製作できないんじゃ?」
「このマップでも作れるようにしたわ。あなたが愛用していた怪物・・・というか機体」
「ありがとう。作ってみる」
「行きなさい。あなたの助けたいものを救うの。元の世界で一番やりたいことだったのでしょ?」
霧子が私の胸に手を当てるとそこからブワッと黒い霧が吹き出す。私は首筋のクリスタルを触ってインベントリを呼び出す。
そこには今まで無かったあるアイテムの製作コマンドがあった。
それを実行すると私の周りの霧が垂直に伸びだし、巨大な人型に収束していった。
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