第14話 約束、それとミ=ゴとはっちゃけたシズカ

「おおっ、タケル殿っ、毛皮が面白いように手に入るぞ」


「毛皮も大切ですけどこっちも手伝ってくださいよ」


「カルの火力だと殺してしまうのだ。すまない」


「ちっくしょーーーーー」


 私たちはガーストに代わる新たな怪物をタームするために、北部雪山の麓まで来ていた。

 第一のボス、アトラク=ナクアと戦うために、昆虫型怪物への攻撃力アップスキルを持っているミ=ゴをタームするためだ。


 四足移動形態と二足歩行の戦闘形態を切り替えて使える怪物で、四足歩行ではガースト以上のスピードを出せる有用な怪物だ。

 また、第二の祭壇のある雪山に行くには毛皮の上着が必要で、それを制作するための素材集めにこのあたりに生息する羊に似た怪物を狩る必要もあった。


 結局羊は見つけられなかったが代わりに熊の群れを見つけた。セカンダリー・カダスでも「熊」としか表示されない怪物だ。

 この怪物も毛皮が取れるのだが、戦闘能力がそこそこ高いので毛皮目的で戦うのはリスクが高い。


 しかしカルカロドントサウルスなら簡単に倒すことが出来た。


「いいぞっカルッ。いけええ」


「キィアアアアアアア」


 シズカさんのカルカロドントサウルス、カルはバクバクと熊を喰いまくっている。

 食べたものは勝手に素材に変換されてカルのインベントリに収納される。

 生き残った熊さんは涙目で逃げ惑っている。


「ははははあっははは」


 やばい、シズカさんが力に飲まれている。

 とりあえず私はターム途中のミ=ゴに集中する。

 ミ=ゴも近くで行われている惨劇に現実逃避しているのかどこか遠い目をして私を攻撃してきた。


 私もシズカさんから借りたオサダゴワを操ってそれを回避する。

 そして、攻撃を避けられて姿勢を崩したミ=ゴにボウガンでマテリアル矢を撃ち込んだ。

 ボウガンはカルカロドントサウルスの時に普通の弓矢では攻撃力の不足を感じたので作業台で新たに製作した。


 攻撃力に比例してターム値の上昇率も上がるからだ。ただ、リロードの時間が弓矢よりかかる。

 オサダゴワの鞍に足の力だけでまたがってボウガンを当てるのはなかなか辛い。


 何度か攻撃の応酬をした時だった。

 シズカさんの操るカルが我々とは反対側の熊に攻撃を放った時に、その尻尾がこちらに振り回された。


 その尻尾は私とオサダゴワに当たるが、セカンダリー・カダスの仕様と同じく、押されて場所を少し飛ばされただけでダメージはない。

 しかし、ミ=ゴは仲間ではないので攻撃判定がある。なので慌てて避けていた。


「なあ」


 それを見た私はミ=ゴに話しかけていた。


「大人しくタームされね?」


 ミ=ゴが驚いたように目をパチクリとしている。

 タームされた怪物はプレイヤーの指示を理解するぐらいの知能が与えられている。

 多少はこちらの言う事が分かるのではないかという判断だ。


「このままだとアレの攻撃に巻き込まれるぞ」


 私はクイッと大暴れしているカルとシズカさんを親指で指さした。


「ちょっと、チクッとするが私にタームされると攻撃は通らない」


 しばらくミ=ゴはシズカさんたちの方を見ていたが、私の方を振り向くと頷いた。

 私はゆっくりと警戒しながらミ=ゴに近づく。


 まだ、土壇場で攻撃してくる可能性もあったからだ。その場合、カルの餌食になってもらうが。

 さすがにミ=ゴもそれに気がついているのか私が隣に来るまで大人しくしていた。


 私はたっぷりとマテリアルを付けた矢をなるべく優しくチクチクとミ=ゴに刺した。

 その痛みにミ=ゴは顔をしかめていたが、すぐにバタンと昏睡した。

 肉をその口に入れるとしばらくしてタームは完了した。

 

【ミ=ゴ Lv85をタームしました】


 ミ=ゴは意識を取り戻し立ち上がった。私もミ=ゴもシズカさんたちの毒気に当てられてげんなりしている。


【ミ=ゴをネームドにしますか?】


 また、名前を付けられるのか・・・。じゃ、ミイちゃんで。

 なにかミ=ゴあらためミイちゃんがキイキイと文句らしき鳴き声を上げているが、無視する。


 というか人間のセンスの良し悪しなんか分かるのかよ。

 「しかしどういう基準でネームドになるかどうか決まるのだ?」


【あなたが名前をつけたいと思ったらつけることが出来ます】


「うわああああああっびっくりしたぁっ」


 私は慌てて周りを見回す。

 誰もいない。


 アナウンスが今までこちらの問いかけに反応したことは無かった。


「アナウンスさん?えっと、聞いていますか?」


 しばらく待ってもシステム音声が応答することはなかった。

 ・・・誰かが私達を監視しているのか?





「ふーん。アナウンスが話しかけてきたのはそれきりなのね」


「ええ」


 私は雪山の麓にエリカさんが築いた拠点に来ていた。

 私達がタームと、毛皮狩りに勤しんでいる間に建築と素材あつめをしてくれていたのだ。


 いずれ二つ目の祭壇を目指す時に洞窟拠点から資材や装備を抱えて移動するより、現地で休めるところを作ってそこに素材を集めておいたほうが身軽に移動できるからだ。

 ここも、ナイナメスを警戒するために、当時の攻略Wikiでも見つかりづらい拠点候補地から選んだ。


 崖の窪みに開けた場所からは発見しづらくなっている。金属の壁と門で作られた豆腐ハウスだが、防御力はありそうだ。きっちりと男性陣と女性陣の部屋も分けられている。


「じゃ、こちらからは何もアクション出来ないわね。あのアナウンス、この世界のシステムに関わるものだもの、無視されても私たちは姿を見ることはできないわ」


「そう、ですね・・・」


「ただ、何者かに監視されている事、気に留めておいたほうがいいのかもね」


「ええ。わかりました」


「シズカさんもいい?」


「ああ。ちょっとはっちゃけすぎた。申し訳ない」


 昼間の大暴れの事を言っているのだろう。なんだか顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。かわいい。


「えっと、なんかシステムアナウンスに私が話しかけられたことを言っているのですが」


「あ、そうかそのはなしか。私も警戒すべきだとおもうぞ。うん」


「大丈夫ですか?今日はもう休みましょう」


「そ、そうだな。昼間はだいぶ戦ったしな。タケル殿もゆっくり休め」


「ふぁーあ。私も休ませてもらうわ。イェブ。警戒モードでよろしく」


 もうイェブはエリカさんの物みたいになっているな。怪物は睡眠の必要がないので夜間の見張りに適している。

 イェブは我々クランメンバーの頭の中のみでなるアラームを鳴らせるので、先に危険を察知しても例えば危険度の高い怪物やナイナメスたちに気づかれることはない。


 だからハプニングがない限りはゆっくりと寝られる。

 それに私達の体もあまり睡眠を取らなくてもスタミナの値が残って言えば動けるようになっていた。

 私も自分の部屋に戻るとベッドへと潜り込んだ。

 

「タケルちゃん―――――。きれいだね」


「ゲームのグラフィックもだいぶ進化しているよなー」


「ボス攻略のアイテム揃えてさ。また来ようよ」


「うん。いいけど・・・どちらかというと現実世界で旅行とか行きたいなー」


「あ、いいね。今、大変な時だけど落ち着いたら行こう」


「そうだね、伊豆の方とかいいなー」


「じゃあ、4月までに予定が合わなかったら、ゲーム内のここで待ち合わせね」


「OK」


 ガバッ

 私はベッドから飛び起きた。


「ハアッ、ハアッなにか懐かしい夢を見ていた気がするけど、思い出せない」


 体中が冷や汗をかいている。


「目が覚めてしまった。少し外の空気を吸ってくるか。入り口のところなら安全だろ」


 私は上着を羽織ると門の脇に付けられた通用口から外にでる。

 そこには、澄んだ夜の空気の中、満天の星空の元、美人のお姉さんが岩に腰掛けて夜空を見上げていた。


 エリカさんだった。

 扉を開ける音に気がついたのか、月明かりに照らされたエリカさんの顔が振り向く。


「どうしたのタケル?」


「少し夢見が悪くて・・・エリカさんこそどうしたのですか?危ないですよ」


「イェブもいるし、何かあったらすぐ拠点に逃げ込むわ」


「エリカさんだったら承知の上だとは思いますけれど一応言っておきますね、気をつけてくださいね」


「ありがとう」


 そこで会話が途切れる。

 私はぼうっと空を眺めていた。


「座ったら?」


 エリカさんは自分の座っている岩の隣をポンポンと叩いて促した。


「ではお邪魔します」


 私はエリカさんのとなりに座る。


「綺麗な空ね。でもオーストラリアの砂漠でみた夜空の方がキレイだったわ」


「そうですか。私は都市部から離れたことがないから、この世界の夜空でも十分綺麗に思えます。ゲームのときよりは現実に近いですからね」


 ここが作られた世界なら、あの輝く星は多分本物ではないのだろう。それとも何か設定に即した星になっているのだろうか?


「ねえ。あなたは元の世界に残してきた人はいるの?」


「幼なじみとか両親とか、それぐらいですかね。友達は多い方ではなかったですから、こちらが友人と思っていても向こうはそう感じてない場合もあります」


「ず、ずいぶんとドライなのね」


「いずれにしても、私一人がいないぐらいで周囲の人達がどうにかなることなんてないですよ。いずれ忘れさって日常を送るだけです。エリカさんは誰か会いたい人がいるのですね?」


「・・・友達以上恋人未満の間柄よ。腐れ縁というか。特別な関係になりたいってわけじゃないけれど、ただ、思いを伝えることぐらいはしておけば良かったと思って」


「イケメンですか?」


「イケメンよ」


 即答された。というかこの世界の翻訳システムはイケメンとかいう言葉まで正確に伝えているのかよ。


「ね。帰れると思う?元の世界に」


「正直な話をしていいですか?」


「どうぞ」


「厳しいと思いますね。私たちは一度死んでいる。死人は普通生き返らない。ここは人生のロスタイムみたいな物だと思います。あの世だと言われても信じてしまいそうです」


「そうよね。そもそも向こうの肉体はどうするのだって問題も有るし」


「結局他にやることがないから闘っているというだけですね。ゲームクリアで帰れることに一縷の望みをかけてはいますが、あまり期待はしていません。結局はナイナメス達もそうなのでしょう」


「もしラスボスを倒しても戻れなかったら、ここで三人一緒に住みましょうか。いいわね、両手に花よ」


「もう少し、男手が欲しい所ですねー」


「おいそこは素直に喜べよ」



「・・・そろそろ中に入りましょうか」


「ええ。あなたの胸の内が少し分かって良かったわ。ちゃんと寝るのよ」


「そうですね。おやすみなさい」


「おやすみー」


 そう言って二人で拠点の中に入るとそれぞれの部屋に分かれていった。



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