第13話 別離
「タケルっ、来たわよっ!!」
「門を置いたぞっ、OKだっ」
「気をつけてっ」
ドッドッドッ。
巨大な二足歩行動物の足音が後ろから聞こえてくる。
「オオオオオオオオオオオオオオッ」
空気を震わす咆哮が聞こえてくる。
「ヒイイイイイッ」
ちらりと後ろを見ると巨大な、体長20メートル近い巨大な肉食恐竜が迫ってきていた。
見なければよかった。
"カルカロドントサウルス"
アヴィドが食われた後すぐに追跡をした私は程なくして追いついた。
基本敵対しないこの巨獣を振り向かせるために私はペチペチと弓を当てる。
最初はうっとおしそうにしっぽを振って追い払おうとするだけだったが、私が諦めずに食い下がると堪忍袋の緒が切れたのか、排除した方が早いと思ったのか攻撃的になり追ってきた。
当初の予定通り、私は見事ヘイトを買うことに成功したのだが少し後悔している。
リスポーンしているとはいえ怖すぎる。
私はアヴィドの時と同じくガーストを左右に飛び跳ねさせて躱す。
しかし、アヴィドのときのように完全に躱すことは出来ない。
素早い爪がガーストに深いキズを負わせていく。
「すまない。もう少し耐えてくれ」
ガーストも必死にスピードを上げる。
「タケルっもう少しよっ」
エリカさんが声をかけてくれる。
強者の余裕か、カルカロドントサウルスはエリカさんには目もくれず、私にヘイトを向けてくれている。
「来たっ」
草木の生い茂る中隠すように更にコの字型に設置された門を見つけると、そこをガーストは走り抜けた。
それを追いかけるカルカロドントサウルスは門の上部ぶち当たる。
しかし最後に放った爪の一撃がガーストを捉えた。
私は腹部を大きく切り裂かれたガーストと共に吹き飛ばされた。
そして地面に投げ出される。
「よしっ、門で囲めたぞ」
シズカさんはクリスタルから一瞬で門を建ててコの字型の開いている部分を塞ぎ四方を取り囲む檻を完成させた。
今回は邪魔も入らずスムーズに行ったようだ。
「キュアアアアアアアアア」
カルカロドントサウルスは甲高い鳴き声を上げるとガンッガンッと門に体当たりを繰り返す。
メリメリメリッ。
門の基部が嫌な音を立ててひび割れていく。
「やばいぞっ」
「シズカさんっ。予備の門で周りをいくつも固めましょう」
「わかった」
エリカさんの指示で二人は新しく門を周りに設置していく。
もうこの字型とかきれいな形では無く、立てられる場所にメチャクチャな角度で置かれていく。
カルカロドントサウルスと干渉する場所には建てられないがそこを除いて幾何学模様の様に門が飛び出ている。
「ついに身動き取れなくなったようだな」
「グルウウウウ」
振りかぶる隙間がなければ、さすがにカルカロドントサウルスも門に有効な打撃を与えられない。
「よし、マテリアルを当ててくぞっ」
エリカさんとシズカさんはバッグから弓矢を取り出すと、マテリアルを鏃に塗った矢を撃ち込み始めた。
「うっぐ」
私も身を起こすと、同じ様に弓矢を使って打ち込む作業に参加する。
「こいつもう動けなさそうだから、まだ休んでいてもいいのよ」
「いえ、どんな怪物が出てくるかわかりません急いでタームしましょう」
私たちはそれぞれ、三方向から矢を射掛け続ける。
「キィアアアアアアア」
カルカロドントサウルスは身動きできずなすがままの状態なのがひどく悔しそうだ。
しばらく無言で撃ち続ける時間が続く。
「まずいわ、矢が足りないかも」
「こいつターム耐性がどれだけ高いのだ」
「頼む、足りてくれ」
拠点として使っていない建造物はしばらくしたら消えてしまう。それはこの世界でもゲームの時と同じだと確認している。
矢が足りなくなって拠点に戻った場合、トラップの設置からまたやり直しだ。
もういちどうまく誘導できる自信がない。
矢がのこり数発となった時だった。
ドウゥッ。
ついにカルカロドントサウルスが倒れた。
「シズカさん。肉を食べさせて」
「わ、分かった。私でいいのか?」
「ええ。もう私は疲れて立てません」
シズカさんがカルカロドントサウルスの口に無理やり肉を押し込む。
今度はそれほど時間を経ずにタームを完了した。
【カルカロドントサウルス Lv83をタームしました】
「やったあああああ」
「長かったわ・・・」
【ネームドにしますか?】
「なんだこれは、名前を付けるのか」
「そうね、シズカさんが好きに付けていいわよ」
「そうだな、じゃあお前はカルだ」
シズカさんのネーミングセンスが、私と同レベルで辛いです。
私は喜ぶ二人から離れて乗騎の方へ向かった。
「ガースト、いつまで休んでいるんだ。さあ、帰る・・・ぞ・・・・」
「・・・・・・」
「まさか・・・」
話しかけてもぴくりとも動かない
私はゆっくりと近づく。
地に伏したままのガーストはそのまま事切れていた。
最後に喰らった胴体への一撃が致命傷だったようだ。
私は亡骸の隣に座って膝を抱く。
「お前のお陰でターム出来たよ。ありがとう」
私は見開いたままだったガーストのまぶたを閉じてやった。
最初は何度も殺されて良い印象が無かったが、一緒に死線をくぐり抜けるうちに愛着が湧いてきていた。
素直に悲しい。
ゲームでも長く使った怪物を失った時に得も言われぬ喪失感を味わったものだったが、実際に生物として共に生活をした後だとリアルにペットを亡くした場合以上の悲しみを感じた。
「最後の走りはすごかった。ゆっくり休んでくれ」
ガーストの墓の前で私とエリカさん、シズカさんが黙祷している。
お墓もセカンダリー・カダスのクリスタルから作ることが出来た。
肩に乗っているイェブもシュンとして頭を垂れている。
「優秀なやつだったな」
「ええ」
シズカさんがそう話しかけてくる。
「お前の身代わりになってくれたのだろう」
「そうだと思います」
「私はタケルが無事だったほうが嬉しいわ。いくら愛着が有っても怪物は怪物だもの、人間の命には代えられないわ」
エリカさんは少しドライな感想だ。しかし、それは正しいのだろう。
でもエリカさん。違うんです。私はリスポーンできるからどちらかといえばガーストの方が貴重、死ねば終わりなのですから。
私のほうがガーストをかばえばよかったのか?しかしリスポーンの事をこの二人に知られるとなぜ黙っていたのだと言う事になりかねない。
こんなことなら最初に打ち明けておけば良かった。
・・・なぜ私は黙っていたほうが良いと思ったんだ?その時だけ誰かに思考をいじられたような感じが・・・。
悩むだけむだか。
これからどうしようか考えよう。
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