異世界ゴスロリナイン ~女子野球が盛んな異世界に、監督として召喚された~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一球 オレたちゃゴスロリがユニフォーム

第1話 【一回オモテ】甲子園の土だと思ったら、異世界の土だった

『さあ、始まりました術式野球、星王杯。「魔王立 野いちごフランボワーズ女学園」が守備に回ります。前年度は一回戦で敗退しました。対する攻撃側は、前年度優勝校である「聖さくらんぼスリーズ女学院」。去年に続き、連覇を狙います。前年はスリーズと当たって、一回戦で姿を消しましたフランボワーズ。はたして今年は勝てるのか?』



 アナウンスの声をラジオで聞きながら、監督であるオレはベンチで足を組む。


 試合を行う両校は共に、衣装がフリル付きユニフォームだ。この世界では、野球は淑女のスポーツとなっている。オレのいた日本とは大違いだ。


『フランボワーズ女学園ですが、今大会から監督が、異世界から人間の監督を召喚したとのことで。その名もイチゴー・ダイリン監督です。この采配が吉と出るか凶と出るか?』


 アナウンスが、オレについて語る。


「イチゴー、気にするでない。お主は、この魔王が選んだ男だ」


 ゴスロリの衣装を着たちっこい少女が、オレに労いの声をかけた。彼女はこの野球部のマネージャーながら、魔王である。


「ああ。任せろ。まあ、戦うのはオレが育てた女子たちだが」


 巨乳のエルフがマウンドに立つ。着ているユニフォームは、ピンクが目立つゴスロリのミニスカートだ。下は黒のアンスコである。


『さて一回のオモテ、ペシュ・ロシェ・オグル選手がマウンドに立ちます。以前の試合では、九回に乱闘を起こして退場処分。これが敗北の決定打となりました。今年は大丈夫か?』


 大丈夫に決まっているだろう。


 オレはペシェのメンタル面を、主に鍛えてある。

 カッとなる性格を直すのは、ぶっちゃけしんどかった。

 が、彼女だって勝たなければならないってわかっている。

 抑えるところは、抑えられるさ。


 相手バッターはナイトである。西洋甲冑の上に、青いゴス衣装を着ている。


 監督であるオレに指示を求めてきた。


[思い切っていけ]と、オレはサインを送る。


 ドキッとした表情になって、ペシェが正面を向く。足を大きく上げて、相手に背を向けた。力を溜め込んで、渾身の一球を放つ。


『第一球、投げた』


 ペシェのポニーテールが、フワッと風に跳ねた。絵に書いたような、トルネード投法である。


 火炎魔法を、ボールが離れた瞬間に起動し爆裂させた。そのインパクトによって、球が加速する。ペシェの肩から繰り出されるパワーと、魔術のタイミングが合わさって起きる、芸術的なストレートだ。


『やりました、ストライク! これまでの暴投とも呼べるカーブ一本調子を封印して、渾身のストレート。続いての球も直球。これで三球三振。見事なコントロールです』


 まあ、こんなもんだろう。


 二人目をゴロで打たせて取り、三人目はファールフライで討ち取った。


『これで、スリーアウトチェンジ。攻守交代です! 見違えました、魔王立フランボワーズ女学園。まったく危なげなし。さて、攻撃の方はどうか?』


 ペシェが先頭を切って、オレのもとに帰ってくる。


「監督、あのサインは情熱的すぎますわ」


 そういえば、ずっとペシェは赤面していた。


「どうした?」


「だって、『今晩は帰さない』とか」


 お前、どんな解読の仕方をしたんだ? 


「はわわ、監督と朝まで投球練習なんて。想像をするだけで、胸が焼け付くようですわ!」


 虚空を見上げながら、ペシェは自分を抱きしめる。


「監督、この調子で我々を優勝へ導いてくださいまし」


「勝つのはお前らだよ。オレは、なにもしない」


 魔王はオレを信じて、異世界女子野球の監督としてこの世界に召喚してくれた。


 高校野球の監督をクビになって、半ば腐りかけていたオレを。


 ならば、オレはオレの仕事をするだけだ。



―――――――――◇ ◇ ◇―――――――――



 母校を甲子園に連れていき、オレは監督として準優勝に導いた。


 だがオレに言い渡されたのは、解雇通告である。

 理事長の孫を、勝利投手にできなかったせいで。


 投手自身はイイやつだった。「自分がふがいなかったから負けたのだ」と。


 他の選手もその親族たちからも、オレを英雄として見てくれた。


 しかし、メンツを気にする理事長はそう思わない。

 彼が孫に与えたかったのは、一流選手としての肩書きだった。


 とはいえオレ自身も、投手には申し訳ないことをしたと後悔している。


 手元に残ったのは、わずかな退職金だけ。


 帰宅後、郵便受けからとある封筒が入っていたのを知る。付属品として、ビニール袋に入った土が。いたずらかと思ったが、これも郵便物らしい。


 なになに。

 差出人は「魔王立 フランボワーズ女学園」か。

 聞いたこともない。


『指定した場所で、この土を撒け』と、書いてあった。


 それにしても「魔王立」って。「王立」ならまだわかる。どっかの国王様が、テレビ中継でも見てくれていたのか? 試合を見返したが、オレはたいして映っていなかったぞ?


 土をいじってみたが、甲子園の土そっくりだ。


 そんなものをもらっても、実家の果樹園にも撒けやしない。


 甲子園の土は、水はけが良すぎくらいにブレンドされている。雨天でも試合ができるようにするためだ。水を撒いたところで種を吐き出してしまうため、甲子園の土では作物が育たない。


 指定された場所についた。なんの変哲もない河原の野球場だ。草野球か、リトルリーグの監督になれってか。自分を見つめ直すには、それもいいかもな。


 急に、手紙が光ったような感じがした。気のせいだと思うが。


「えっとなになに、『この土を、マウンドに撒くがよい。されば、お主が望む世界に案内しようぞ』って……。怪しいな」


 いつの間に。

 こんな文言、手紙に書かれていなかったぞ。

 ついさっきまで、白紙だったのに。


 薄気味悪くなったが、今更やめるわけにもいかない。


 言われた通り、マウンドに土を撒く。マウンドに立つなんて、現役を退いて何年ぶりだろう?


 こっちは、高校野球の監督業しか知らないんだ。実家の果樹園をやるにしたって、イチから覚え直しだ。メシを食うためなら、監督をせねば。どこへだって行ってやるさ。


 また手紙が光る。


「なになに、『よく言った。では導いてしんぜよう』、だと?」


 手紙から目を離すと、そこには見渡す限りの草原が広がっていた。よく見ると、草むらではない。


 ここは、野球場だ。しかも、近くに仰々しいお城が見える。


 さっきまでの河原は、どこへ行った? 川は流れているが、形がぜんぜん違う。


 選手控室らしき小さい建物が、グラウンドの隅にあった。あそこに、関係者がいるのか?


 ドアが開いている。物騒だな。戸締まりをちゃんと――。


「んひい!?」


 紫の下着に身を包んだ巨乳の少女が、こちらを見て絶句した。


 ここは、更衣室だったのか!?

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